2019年06月26日
プロバイオティクスとプレバイオティクスを肌に使うと効果がある?
プロバイオティクスとプレバイオティクスを肌に使うと効果がある?

キャス・オネイル博士へのインタビュー
オネイル博士は人間の皮ふについて長年研究してきた、肌の健康のスペシャリストです。ここ数年は皮ふマイクロバイオームの研究に重点を置いています。SkinBio Therapeutics社とともに、彼女は研究の拠点をマンチェスター大学からSkinBiotix®に移しました。SkinBio Therapeutics社では肌の健康に関わる三つの分野―化粧品、感染予防、湿疹を研究対象としています。
SkinBiotix®での研究は、乳酸桿菌やビフィズス菌などの細菌から抽出したライセート(溶解物)に関する知見に基づいています。
私(クリスティン・ノイマン)とキャスは、ロッテルダムで行われた第五回マイクロバイオーム研究開発・ビジネスコラボレーションフォーラムで出会いました。彼女にプロバイオティクスとプレバイオティクスが皮ふマイクロバイオームに及ぼす影響について質問を行いました。
プロバイオティクスは皮ふマイクロバイオームにどのような影響を与えるのですか?
「消化管の細菌を含むプロバイオティクスを肌に使っても、皮ふマイクロバイオームに変化があるとは思いません。しかし、肌の生理機能に変化を与えることは確かです。乳酸桿菌は嫌気性の細菌ですので、皮ふで成長することはおそらくないでしょう。ですが、死んだ乳酸桿菌であっても、複数の細菌株が肌に顕著な影響を与えます。」
プレバイオティクスを肌に使った場合はどうですか?
「FOSなどの消化管に良い影響を与えるプレバイオティクスが、肌に同じ影響を与えることはありません。なぜなら、皮ふマイクロバイオームの細菌はプレバイオティクスを消化するための酵素を持っていないからです。皮ふマイクロバイオームの善玉菌の成長を促す化合物を特定するためには、さらなる研究が必要です。」
SkinBio Therapeutics社の製品では死んだ細菌を肌に使います。どのような原理なのですか?
「微生物のライセート(溶解液)を使うことは、ワクチンを打つようなものだと思っています。ワクチンは、免疫応答を起こすためにすでに死んでいるか、弱めた細菌を使います。私たちは細菌の抽出物に含まれるたんぱく質について知識を持っています。質量分析を使ってタンパク質を解析し、肌にどのような影響があるのか知ることができるのです。私はたくさんの細菌株のスクリーニングを行ってライセートの効果を調べ、数多くのイン・ヴィトロ研究を実施してきました。」
実際、SkinBio Therapeutics社の主張には科学的な根拠があります。4本の査読論文において、キャス・オネイル博士と共同研究者はライセートがケラチノサイトモデル(表皮の最も一般的な細胞型、肌の最外層)に及ぼす効果について示しました。
1. 肌モデルでのバリア効果の改善
ケラチノサイトの細菌培養で、細胞間の間隙を塞ぐいわゆる「タイトジャンクション」を、ビフィドバクテリウム・ロンガムと他の乳酸桿菌株の細菌ライセートが存在する条件下で調査しました。発酵乳酸桿菌を除き、調査を行ったすべての細菌株が24時間以内にタイトジャンクション障壁を高めました。全般的に、ビフィドバクテリウム・ロンガムとL・ラムノサス・GGが4日間の試験で最も高い用量依存効果を示しました。これらのデータは、プロバイオティクスとプレバイオティクスのライセートが皮ふのタイトジャンクションに及ぼす影響が、細菌株の種類に強く依存していることを示しています
2. 皮ふ修復機能の改善
ケラチオサイトに関する別の研究では、複数の乳酸桿菌ライセートの効果をスクラッチアッセイによって調査しています。スクラッチアッセイでは、ケラチノサイトの単層を剥離し、各々の細菌ライセートで培養します。剝離層の再上皮化をモニターし、未処理の対照グループと比較します。L・ラムノサス・GGとL・ロイテリが特に再上皮化率を高めた一方で、L・ラムノサス・GGのライセートは細胞の増殖率と遊走率を向上させる点で最も有効でした。
3. 細菌数の減少
二つの試験で、ケラチノサイト単層における乳酸桿菌ライセートの黄色ブドウ球菌感染予防効果を調査しています。黄色ブドウ球菌はアトピー性皮膚炎患者に非常に多く見られる病原菌です。これらの研究によって、特定種の細菌が、細菌の成長を抑制して細菌の付着を減少させ(LGG)、競争排除によって黄色ブドウ球菌の感染を防ぐことが示されました。しかし、ケラチノサイトにおける黄色ブドウ球菌の感染予防効果は、プロバイオティクス細菌のライセートを事前に加えるか、黄色ブドウ球菌を同時に加えたときにだけ観察されました。この結果は、プロバイオティクスを感染予防のために利用できる可能性があることを示しています。
キャスと彼女の同僚が行った研究の全てが、本来は経口で摂取するプロバイオティクスが、肌の健康にも良い効果をもたらす可能性があることを示しています。しかし、観察された効果は細菌種によって大きく異なっており、細菌株ごとの具体的な評価が必要です。
SkinBio Therapeutics社は人間を対象とした科学に基づくスキンケア、感染症予防、湿疹について、三つの臨床試験を計画しています。
結果がとても楽しみです!

インタビューに応じてくださったキャス博士に感謝します。臨床試験の結果について、次回のインタビューを楽しみにしています!
2019年06月24日
手遅れになる前にマイクロバイオームの多様性を取り戻しましょう!
手遅れになる前にマイクロバイオームの多様性を取り戻しましょう!

2018年10月初旬、アメリカの科学者(ラトガース大学のマリア・G・ドミンゲス・ベロ、カリフォルニア大学サンディエゴ校のロブ・ナイト、シカゴ大学のジャック・A・ギルバート、ニューヨーク大学ランゴンメディカルセンターのマーティン・J・ブレイザー) の研究チームは、多様性が失われているマイクロバイオームの回復を呼びかける緊急声明を発しました。研究者たちは熱意をもって時間がないことを強調し、次のセリフで声明を締めくくりました。「手遅れになる前に対策を始めなければいけません」。
何のために人間の体はウイルスや細菌を必要としているのですか?
この声明の基になっているのは、決して新しくはないものの、未だに一部の人にしか認知されていない科学的知見です。つまり、ウイルスや細菌の全てが人間にとって有害という訳ではなく、良いウイルスや細菌も存在しているということです。細菌やウイルスの多様性が豊かな消化管では免疫系が安定して維持され、肥満やアレルギー疾患、自閉症などの病気や体調不良を予防できます。このことは、体内の細菌やウイルスの多様性が豊かなことのメリットの一例です。
平均的なマイクロバイオームとはどのようなものなのですか?
数千年の時を経て、マイクロバイオームの多様性は大きく進化してきました。誕生時の条件、栄養、気候、その他の要因に依存しながら、マイクロバイオームは環境に適応してきました。例えば、アジア人のマイクロバイオームはヨーロッパ人のものとは根本的に異なっています。この豊かな多様性は世代から世代へと受け継がれていきます。
産業化社会が健康なマイクロバイオームを傷つける
しかし、産業化の時代になると状況は変わりました。人間が進化してきた数千年の間に洗練されたマイクロバイオームが、現在大きな脅威に晒されています。産業化は医療を進歩させました。抗生物質のおかげで、結核などの病気はほぼ根絶されています。しかし、急速に進化する薬剤耐性菌の脅威は、産業化社会が直面するさまざまな問題の一例でしかありません。
衛生を維持・促進するための手段は人間に恩恵をもたらしました。しかし、衛生手段は時に不適切に用いられています。過剰な衛生は良い影響を与えないばかりか、有害な結果を招きます。水質浄化や帝王切開の増加、母乳育児の減少、加工食品の摂取量の増加が、マイクロバイオームの多様性を低下させる原因となっています。今日では、世界の人口の半数以上が都市部に居住しており、その数はまだまだ増加する傾向にあります。結果的に、人間の手が入っていない自然環境の中で暮らす、マイクロバイオームが全く傷ついていない人々の数は大きく減っています。都市部に暮らす人々はマイクロバイオームの弱体化によって大きく悪影響を受け、健全なマイクロバイオームを維持するためのコストも増加しています
本当に傷ついていないマイクロバイオームは、世界にわずかしか残されていません
このような現状を憂慮して、4人の科学者が緊急声明を発しました。声明の中では、私たちが文明と呼ぶ世界から遠く離れて暮らす、残されたわずかな人々のマイクロバイオームを調査・保全し、人類が利用できるデータベースにできる限り記録することが訴えられています。無傷のヒトマイクロバイオームを解読し、その細菌叢を同定するためには、糞便サンプルや膣分泌物などの体液サンプルが必要です。現代医療の影響を受けていない人間集団のマイクロバイオームサンプルを適切な方法で採取し、調査することは絶対に必要です。調査対象となるグループが住む地域で使うことができる技術も欠かせません。声明では、データベースが完成した後、地球に住むすべての人々にこのマイクロバイオームの「ワクチン」を打つことを提案しています。しかし、マイクロバイオームの多様性は、環境要因など各々の必要に応じて世界中で進化してきたという事実を尊重する必要があります。声明を発した科学者たちは、マイクロバイオームの「ワクチン」の必要性を過度に強調してはいません。最も大切なことは、残されている無傷のマイクロバイオームの保全を、手遅れになる前にしっかりと継続することです。
2019年06月24日
未開拓の領域とチャンスに溢れたマイクロバイオーム研究
未開拓の領域とチャンスに溢れたマイクロバイオーム研究

科学誌『ネイチャーバイオテクノロジー』11月号で、18人のマイクロバイオーム専門家が研究の現状について評価し、研究動向や研究者にとってのチャンス、課題を論じました。
この要約記事は2018年5月に開催されたニューヨーク医学アカデミーの討論会に基づいています。討論会の司会はガスパー・タロンヒャー・オルデンブルク(グローバル・エンゲージ社コンサルタント)とスーザン・ジョーンズ(ネイチャーバイオテクノロジー共同編集者)が務めました。
マイクロバイオーム研究は未だ黎明期にあります
まず最初に、マイクロバイオーム研究で十分に研究が行われていない領域について報告されました。討論会に参加した専門家のすべてが、マイクロバイオーム研究は未だ黎明期にあることを認めています。マイクロバイオームと人間の健康の関係について、まだ分かっていないことがたくさんあります。このことは、マイクロバイオーム研究は研究者にとって多くのチャンスがあることを意味しています。また、マイクロバイオームを構成する細菌については研究の蓄積があるものの、マイクロバイオームと人間の臓器の相互依存関係に関する研究は始まったばかりです。この領域は、人類の健康に貢献するやりがりのある研究分野です。
これまでの研究はイン・ヴィトロ研究や動物実験がほとんどでした。そのため、実験で得られた結果を無条件に人間のマイクロバイオームに当てはめることは困難でした。現在でも人間を対象とした研究の数は十分でなく、再現性のある一般化は難しい状況です。このような現状を考慮すると、マイクロバイオーム研究の未開拓の分野のひとつとして、微生物学者や生態学者、疫学者、生物情報学者や統計学者などの隣接分野の力を借りて、ヒトマイクロバイオームの仕組みを一般化することが挙げられます。
細菌だけでなく、体の中のウイルス集団にも注目が集まっています
近年の研究動向は、マイクロバイオームを構成する細菌からウイルス集団に対象が移りつつあります。ウイルスを研究対象とするときの困難な問題は、ウイルスは細菌や菌類のようにマーカーとなる遺伝子を持っていないことです。とは言え、ウイルスの研究が不十分であることもまた、マイクロバイオームの研究が未だ黎明期にあることを示しています。統計の許容差の問題など、統計的に信頼できるデータも不足しています。
肺にもマイクロバイオームが存在しています
もう一つの新しい研究動向も話題となりました。現状では消化管マイクロバイオームに研究の重点が置かれているのですが、これは消化管マイクロバイオームの細菌の密度が濃く、サンプルを簡単に採取できるからです。将来的には、肺や皮ふ、口内のマイクロバイオームが研究対象として注目されるようになるでしょう。肺は完全な無菌環境ではありません。近年、肺からも細菌が発見され、データが収集されているのですが、これまで注目されることはほとんどありませんでした。すでに述べたとおり、肺の細菌やウイルスは密度が低く、サンプル採取が困難です。最後に、マイクロバイオームとゲノムの線引きをすることが課題となります。また、適切なプロバイオティクスや抗生物質を開発することは常に重要な目標です。
研究の方向を定める第一歩は踏み出されています。方法論に関して言えば、細菌の特徴を単に記述するだけの記録方法と経験に基づく試験方法から、より複雑で普遍的な方法が検討されています。
専門家はマイクロバイオーム研究をビックデータ技術と関連させる大きな好機と捉えています
現在のマイクロバイオーム研究には技術的に大きな限界があります。マイクロバイオームの専門家は近い将来、現在発展しているビッグデータの助けを借りて研究を進展させることを望んでいます。ビッグデータの技術はマイクロバイオーム治療を臨床レベルまで発展させるために、長らく待ち望まれていた手段となる可能性があります。討論会では病気の治療よりも予防を重視することに意見が一致しました。もちろん、実現にはまだ時間がかかります。しかし、討論会の様子からは、マイクロバイオーム研究が将来大きな進展を見せることは間違いないと期待できました。
2019年06月19日
アメリカに移民すると肥満になる可能性が高まるー移民とマイクロバイオームの変化
アメリカに移民するとマイクロバイオームが変化し、肥満になる可能性が高まる

2018年11月、ミネソタ大学は食習慣の「西洋化」と移民の消化管マイクロバイオームにおける細菌の多様性低下との関連について研究を公表しました。食習慣の西洋化によるマイクロバイオームの変化は、移民の体内の細菌の多様性を低下させ、メタボリックシンドロームや肥満になる可能性を高めます。
この研究では、タイの農村部に住んでいて、後にアメリカのミネアポリスに移住したタイ人女性のグループを対象としています。タイで女性たちは伝統的なタイ料理(多くの米と自家製の野菜が中心で、肉がほとんどない)を食べていました。アメリカのライフスタイルに適応するため、女性たちは移民後にアメリカの食習慣を取り入れました。つまり、タンパク質と糖分の豊富なインスタント食品を多く食べるようになったのです。この少数の女性グループにおいて、タイでは5%だった肥満率が、米国への移住後には30%を超えました。
マイクロバイオームを徹底的に調査
肥満率の増加は驚くべきことではありません。健康的なタイの食事からアメリカのジャンクフードに食事が変わったとき、BMIが増えることは予測済みだったからです。しかし、この研究の優れている点は、対象者のマイクロバイオームを徹底的に調査していることです。研究では3つのグループのマイクロバイオームを調査しています。1)東南アジアに住む女性のグループ、2)タイからアメリカに移住したタイ人女性のグループ、3)両親が東南アジア出身で、アメリカで生まれて育った移民第二世代の女性グループ、そして比較グループとしてヨーロッパ・アメリカ系の女性グループのマイクロバイオームをそれぞれ調査しています。
食習慣だけが問題となるわけではありません
注目すべき点は、食習慣の変化が問題の一部でしかないことです。もっと重要なことは、マイクロバイオームの多様性の低下が、後にメタボリックシンドロームを引き起こす要因となっている可能性があることです。この研究では、移民女性がアメリカに到着してから6ヶ月の間に、例えば食物繊維を分解する酵素などの元々持っていたマイクロバイオームを失ったことが分かっています。タイ人女性のグループでは、プレボテラというアジア人のマイクロバイオームで良く見られる細菌の数が減少し、西洋人に多いバクテロイデスが増えていました。これは消化管の機能が弱まったことを意味します。例えば、レジスタントスターチのような炭水化物を簡単に消化したり、発酵することができなくなります。
マイクロバイオームの著しい「西洋化」
移民がアメリカで長い時間を過ごせば過ごすほど、そのマイクロバイオームは比較グループのヨーロッパ・アメリカ系の人々のものに似てきました。移民がアメリカに到着してから6ヶ月から9ヶ月後には、マイクロバイオームは西洋系の人々のものに類似し始めます。移民二世のマイクロバイオームは完全に「西洋化」しており、消化管の機能は弱まっています。しかし、これは研究結果の核心となる部分なのですが、移民女性がアメリカに到着してから半年では、食生活はそこまで西洋化していません。移住後6~9ヶ月目では、まだタイ人女性たちはヨーロッパ・アメリカ系の人々よりも多くの米を食べていました。しかし、マイクロバイオームの変化はすでに始まっていました。このことは、食習慣だけがマイクロバイオームに影響を与える要因ではないという重要な問題を示唆しています。
2019年06月19日
プロバイオティクスは役に立たない?
プロバイオティクスは役に立たない?

BBCの記事がプロバイオティクスの関係者に混乱をもたらしています。イスラエルの科学者 (ワイツマン科学研究所)の科学論文に基づき、BBCはプロバイオティクスが「全く役に立たない」という見出しの記事を公表しました。しかし、この記事は気を付けて読むべきです。イスラエルの科学者ズモラたちの研究では、健常者ボランティア25名が一般的な11種の細菌を含んだカクテルを1ヶ月の間飲み続けました。研究者たちはボランティアの胃と小腸、大腸からサンプルを採取しました。参加したボランティアの半数でカクテルに含まれていた細菌は腸管を通り抜けました。残りの半数ではしばらくの間、消化管に定着しました。しかし、後者で細菌が消化管に定着していたのは、既存のマイクロバイオームの細菌が新しく入ってきた細菌を排除してしまうまでの間でした。この結果は別に驚くことではありません。また、プロバイオティクスが役に立たないことを証明するものでもありません。
私たちは、健康なマイクロバイオームの細菌が消化管の中を占めていて、外部からやってくる細菌の定着を防ぐことを知っています。健康なマイクロバイオームを持つ人々では、ほとんどの場合プロバイオティクスは予防効果しかありません(そのため、健康な人では、抗生物質を使うときや、海外旅行で悪玉菌を体内に取り込んでしまった場合にプロバイオティクスを使います)。マイクロバイオームが乱れている人では、プロバイオティクスは多くの場合に有益な効果を示します。
プロバイオティクスには確かな効果があります
この問題のもう一つのポイントは、プロバイオティクスの細菌が短時間しか消化管に定着しなかったとしても、消化管を通るときに確かな効果をもたらすということです。
さらに言えば、適切なプロバイオティクスを使うことが大切です。スーパーマーケットで販売されているプロバイオティクス製品の多くに、有益な健康効果がないことは本当でしょう。プロバイオティクスに含まれる細菌に関しては、特徴を詳細に示すことが求められます(製品に含まれる細菌株を正確に栄養表示する義務があります)。また、それぞれの細菌の推奨摂取量の記載も必要です。これらの情報が表示されていない製品は決して利用しないでください!
BBCの記事はまた、プロバイオティクスが抗生物質の投与後にマイクロバイオームの回復を遅らせる可能性があることにも言及しています。この問題については、ワイツマン科学研究所の別の論文で扱われています。論文中で科学者たちは、過去の論文と同じプロバイオティクス細菌株の混合カクテルを使っています。参加したボランティアの半数で細菌株が定着しなかったのにも関わらず(先ほど言及したとおりです)、抗生物質が投与されていた場合には、細菌株は宿主のマイクロバイオームに良い影響を与えました。プロバイオティクス製品の副作用については十分分かっているわけではないので、この結果に不安要素があるのは事実です。この研究で使われたプロバイオティクス細菌の混合カクテルには乳酸桿菌、ラクトコッカス、ビフィズス菌、そしてレンサ球菌が含まれていますが、これらの細菌はプロバイオティクス製品で良く使われているものです。しかし、研究では正確な細菌株の名前と数量の記述されていません。これは重大な問題です。プロバイオティクスに抗生物質関連下痢症を防ぐ可能性を示すエビデンスが数多くあることからも、正しい細菌株を選ぶことはこれまで以上に重要です。
プロバイオティクスに最適な細菌株
オランダの研究グループは最近、プロバイオティクスに関するすべての臨床試験を分析した素晴らしい総論を公表しました。抗生物質関連下痢症(AAD)の減少・予防効果を考慮すると、以下の細菌種が最適なプロバイオティクス細菌として推奨されています。
- ラクトバチルス・ラムノサス・GG (1日摂取量2 x 109 CFU)
- ラクチバチルス・ラムノサス・GG、ラクトバチルス・アシドフィルスLA-5、ビフィドバクテリウム ラクティスBB-1の混合カクテル
オランダで利用できるプロバイオティクス製品の臨床試験を分析した結果、いずれの乳製品もAADの減少に有意な効果を示さず、ラクトバチルス・ラムノサ・GGを含むサプリメント(最小使用量20億 CFU)のみ3件の臨床試験でAADに有益だとする結果を得ています。
注意してプロバイオティクス製品を選びましょう
一連の研究結果を考慮すると、適切なプロバイオティクス製品を選ぶことが、プロバイオティクスの健康効果を得るための鍵であることが分かります。また、プロバイオティクスは、健康な消化管マイクロバイオームを持つ人たちに必ずしも有益な効果をもたらす必要はありません。しかし、これはプロバイオティクスが役に立たないことを意味するものではありません。消費者と医師の両方に、適切なプロバイオティクスの選び方を周知することが重要です。やるべき仕事はたくさんあります。最善を尽くしましょう!
あなたのマイクロバイオームを救いましょう!
2019年06月17日
アメリカン・ガット・プロジェクト
アメリカン・ガット・プロジェクト

考えるきっかけに―世界最大のマイクロバイオーム市民科学プロジェクト
カリフォルニア大学サンディエゴ校の教授と共同研究者たちが、アメリカン・ガット・プロジェクトを立ち上げました。クラウドソーシングを利用して世界中の人々が参加できるプロジェクトで、5年前から始まっています。2018年5月に最初の結果が公表されました。
1万1000人の参加者から1万5000を超えるマイクロバイオームのサンプルが採取されました。参加者の国籍のほとんどがアメリカ、イギリス、そしてオーストラリアですが、他にも42ヵ国の国や地域の人々から提供されたマイクロバイオームが解析されています。アメリカン・ガット・プロジェクトで得られたデータはすべて一般に公開されており、参加者の個人情報を除き詳細な情報を知ることができます。オープンなデータ公開によって、世界中の科学者が研究のためにデータを利用できます。
アメリカン・ガット・プロジェクトは誰でも参加することができます。一般の方は99ドルを支払って検査キットを受け取り、糞便や皮ふ、口からサンプルを採取します。
科学ディレクターを務める研究者たち(ロブ・ナイト、ジェフ・リーチ、ジャック・ギルバート、ダニエル・マクドナルド) はこのプロジェクトによって、人間のマイクロバイオームについて理解の枠組みを得ようとしています。実際、アメリカン・ガット・プロジェクトによって、さまざまな国や地域の人々からサンプルを採取したマイクロバイオームの多様性は、サンプル数の少ない小規模な研究よりも大きいことが分かっています。
以下の興味深い結果がこれまでに得られています。
- 多くの種類の野菜を食べれば食べるほど、消化管マイクロバイオームの多様性が大きくなります。1週間に30種類以上の野菜を食べる人は、1週間に10種類以下の野菜しか食べない人よりもマイクロバイオームの多様性が大きくなっていました。
- 抗生物質の投与によって消化管マイクロバイオームの多様性が低下することは、予測通りでした。しかし、抗生物質を使った人では細菌の産生する化合物のバリエーションが大きく、過去1年の間に抗生物質を投与されなかった人よりもずっと大きくなっていたのは驚くべき結果でした。検出された化合物は抗生物質の投与に関係していると考えられます。今後の研究が必要な課題のひとつです。
- もう一つの予想外だった結果は、サンプル採取を行う1年前から抗生物質は使っていないと申告した人々で、農業用の抗生物質が検出されたことです。このことは、私たちが普段食べる肉から、マイクロバイオームを傷つける抗生物質を摂取している可能性があることを示しています。
- イギリスとアメリカのどちらも同じ西洋の人々を比較すると、サンプルの多様性に顕著な違いがありました。イギリス人のマイクロバイオームはアメリカ人よりも多様性が大きくなっていました。
- 研究者はマイクロバイオームの構成と抑うつ症状の関連を発見しました。大西洋の二つの地域、アメリカとイギリスで採取したサンプルで同様の関連が見られました。このことは人々が住んでいる地域とは無関係に、マイクロバイオームと疾患が相互に強く影響しあっていることを示しています。

アメリカン・ガット・プロジェクトの最大の特徴は、すべてのデータが共通の方法によって解析されており、世界中から集めたサンプルの解析結果を相互に直接比較できることです(アメリカン・ガット・プロジェクトはアース・マイクロバイオーム・プロジェクトの一部です)。
サンプルの多くはアメリカ、イギリス、オーストラリアから採取されました。世界中の国々から各国を代表するサンプルを集めるため、マクドナルド教授たちはさらにマイクロセッタ・イニシアティブという新しいプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトで、マクドナルド教授たちは世界中の研究者や協力者たちと密に協力して研究を行っています。
誰でも市民科学者になれます。世界最大のマイクロバイオーム市民科学プロジェクトに参加しましょう!
詳細情報(英語):
アメリカン・ガット・プロジェクトに参加する
アメリカン・ガット・プロジェクト
マイクロセッタ・イニシアティブ
研究結果の公表
アース・マイクロバイオーム・プロジェクト
2019年06月14日
自閉症が消化管マイクロバイオームの変化と相関
自閉症が消化管マイクロバイオームの変化と相関

自閉スペクトラム症(ASD)は神経・発達障害で、患者と他者との関わり方に影響を及ぼします。ASDには遺伝要因と環境要因の両方が関わっています。ほとんどのASD患者では、下痢、便秘、鼓腸などの胃腸症状が随伴しています。このことは消化管マイクロバイオームとASDに相関があることを強く示しています。消化管マイクロバイオームは腸脳軸を通じて神経系に影響を及ぼしている可能性があります。消化管マイクロバイオームの乱れによって生み出される細菌毒が、神経内分泌や神経免疫、自律神経系に影響を及ぼしていることを示す証拠が多く見つかっています。
ASD患者の腸管では透過性が上昇している
消化管の状態がASDに影響するというエビデンスを支持する重要な事実は、ASD患者では腸管の透過性が上昇しており、「腸管壁浸漏」と呼ばれる状態になっていることです。また、ASD患者では血液脳関門に障害があり、細菌代謝物や細菌毒が容易に神経系に到達するようになっています。
消化管マイクロバイオームのディスバイオーシス(乱れ)と相関する他の障害と同様に(参考:「傷ついたマイクロバイオームが健康に及ぼす影響」)、ASDはマイクロバイオームが傷ついた子供でよく見られます。妊娠中の母親の肥満、帝王切開、人工栄養、妊娠中から生後3年目までの抗生物質投与などの環境要因が、ASDのリスクを高める恐れがあります。ASDの小児では、平均的により早い時期により多くの抗生物質が投与されています。そのため、早い時期に小児の消化管マイクロバイオームの自然な発達が促されていれば、後に抗生物質を使う必要はなくなります。
ASD患者の消化管で微生物相が変化すると、イースト菌(カンジダ菌)の成長が促されます。イースト菌は自閉症的行動を引き起こすアンモニアと毒素を産生します。健康なマイクロバイオームであれば、カンジダ菌の増殖は防がれます
消化管の微生物相の調整が自閉症治療につながる可能性を秘めています
これまでASDには有効な治療はなく、患者の両親はASD小児の個々のニーズに合わせた治療的介入を受けていました。これまでに積み重ねられたエビデンスのすべてが、消化管の微生物相の調整がASD患者の治療につながる可能性を秘めていることを示唆しています。プロバイオティクス、プレバイオティクス、糞便細菌移植(FMT)、食事療法などが有効な選択肢になると考えられています。
乳酸桿菌やビフィズス菌のプロバイオティクスを用いた治療は、人間とマウスを対象にした複数の研究で腸障壁を強化することを示しています。しかし、マイクロバイオーム治療に関しては、まだ大規模な多施設無作為化比較対照試験が行われていません。このような試験は、特にASD患者で生じる可能性のある副作用を除外するためには不可欠です。
詳細情報(英語):
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fncel.2017.00120/full
2019年06月13日
分娩中の抗生物質投与は、幼児の健全な腸内フローラの定着を遅らせる
分娩中の抗生物質投与は、幼児の健全な腸内フローラの定着を遅らせる

妊娠女性のおよそ3分の1が、消化管と膣にB群レンサ球菌(GBS)を保有しています。GBSは成人には無害なのですが、ごく一部の幼児に髄膜炎などの重篤な疾患や死亡を引き起こす可能性があります。アメリカの医師は通常の妊婦検診でGBS検査を行いますが、ドイツでは母親からGBS検査を求める必要があります。母体にGBSが定着したときに幼児が病気になるリスクは200分の1です。病気になったときの重症度が大きいため、医師は分娩中の抗生物質の予防的投与を勧めています。
ジェニファー・C・スターンズは最新の研究で、分娩中の抗生物質投与が幼児の消化管マイクロバイオームに与える影響を調査しています。彼女の研究チームは、産道を通って生まれた抗生物質に曝露していない幼児と、抗生物質に曝露した幼児(通常分娩と帝王切開の両方)を比較しました。分子解析(16s rRNA)の結果、分娩中にGBSの抗生物質に曝露した幼児は、ビフィズス菌の定着が生後12週の間遅れ、大腸菌の存在持続が確認されました。ビフィズス菌は幼児に定着する最初の主要細菌のひとつです。抗生物質の曝露期間が長いほどビフィズス菌の増殖に及ぼす影響が大きく、マイクロバイオームの形成の遅れが長くなることを示唆しています。帝王切開で生まれた幼児のマイクロバイオームにも違いが認められ、バクテロイデスが顕著に少なくなっていました。このことは初期の研究ですでに観察されています。
生まれて早い時期に細菌叢が正常に成熟しないと、宿主(人間)に長期的な影響がある可能性があります。しかし、マイクロバイオームの初期形成について詳しいことはほとんど分かっていません。MyMicrobiomeのさまざまな記事で書いているように、ディスバイオーシス(マイクロバイオームの乱れ)は肥満やアレルギー疾患、炎症性腸疾患や結腸癌などのさまざまな病気と相関しています。マイクロバイオームの成熟プロセスは非常に複雑なため、研究は始まったばかりです。幼児期のマイクロバイオームの初期形成が成人してからの慢性病に直接及ぼす影響を証明するには、さらに多くの研究が必要です。
アメリカでは、帝王切開やGBSを伴った出産の50%(低リスク、満期出産)で分娩時に抗生物質の予防的投与が行われています。分娩時の抗生物質投与は安全と考えられていますが、幼児の消化管マイクロバイオームの形成に及ぼす影響については不透明なままです。
詳細情報(英語):
2019年06月11日
ドイツでマイクロバイオームのスクリーニングを無料で受けましょう!
ドイツでマイクロバイオームのスクリーニングを無料で受けましょう!

メタゲノム解析センター(CeMet)はチュービンゲン大学病院と協力し、1万人のボランティアを対象に消化管マイクロバイオームの調査を行います(チュービンゲン計画)。一般の方がこの研究に参加するための条件は、ドイツ在住であることと、E-mailアドレスを持っていることです。後は登録を行い、検査キットを受け取って質問票に記入するだけです。あなたの消化管に住む細菌のことを知る素晴らしい機会です!
詳細:https://www.tuebiom.de/de/