2019年09月12日
細菌とはどんな生き物なのですか?
人間と共存している細菌はどんな生き物なのですか?
地球の年齢はおよそ45億歳です。微生物の痕跡は38億6000万年前の岩石から見つかっています。つまり、微生物は地球最初の入植者だったのです。
細菌の細胞は人間の細胞の1/10の大きさしかありません。また、細菌の形状はさまざまで、球状や棒状、湾曲型の細菌や、尾部や毛、性線毛を持つ細菌がいます(細菌が形成するチューブは相互につながり、遺伝情報を交換します)。


細菌には性があるのですか!?
その通り、細菌には性があります。細菌はお互いにつながって遺伝情報を交換します (細菌に薬剤耐性が拡大する理由のひとつです)。細菌は泳ぐことができ、物体の表面に付着して巨大な集合体(バイオフィルム)を作ります。また、化学的な言葉でお互いにコミュニケーションをとることができ、残っている栄養や外敵の接近などについて情報交換を行います。
人間の体内に善玉菌だけがいる場合には、細菌のおかげで免疫寛容が維持されます。病原菌がいる場合には、細菌は人間の免疫系と協力して戦ってくれます。抗菌性ペプチドを放出し、人間の体内で増殖することで、病原菌の増殖を防いでくれるのです。
細菌は人間のためにビタミン類を産生している
人間にとって細菌は発電所のようなものです。人間が食物から得るカロリーの30%は、消化管の細菌によって生み出されています。また、細菌は人間のためにビタミンKなどのビタミン類を産生しています。
なぜ細菌はこのようなことができるのですか?
細菌の多様性の大きさに秘密があります。細菌はそれぞれの種が固有の道具(遺伝子)を使って、協力して働きます。これは、人間の遺伝子の150倍以上の数の遺伝子が働いていることになります。
細菌の詳細図
ハンス・クリスチャン・グラム医師、グラム染色を発明

細菌の細胞壁は、細菌を分類するときにとても重要な特徴となります。1884年、デンマーク人医師のハンス・クリスチャン・グラムはベルリンの病院で働いていたときに、ある細菌を他の細菌と区別したいと考えました。細菌感染症によって毎年何千人もの人々の命が奪われていたので、感染症を起こす細菌を特定したいと考えていたのです。グラム博士は細菌を染料で染めて標識することにしました。とても驚いたことに、多くの細菌株は染色できなかったのですが、染めることのできた細菌株も存在していたのです。グラムはこの問題をさらに深く追求し、固くて厚い細胞壁を持った細胞内圧の高い細菌、つまりグラム陽性細菌を発見しました。グラム陰性細菌は細胞壁が薄いのですが、身を守るための外部膜を持っています。このような細菌は染料で染めることができず、グラム医師の発明した標識方法を使えません。そのため、現在ではグラム陰性細菌と呼ばれています。現在、グラム医師の手法は微生物学において最も重要な分類ツールとなっています。そしてまったく偶然にも、グラム陰性細菌は抗生物質に対して最も強い耐性を持っています。自然な薬剤耐性を持っているのです。グラム陰性細菌群に属する細菌の名前を一度は聞いたことがあるかもしれません。例えば、大腸菌、シュードモナス、アシネトバクター、サルモネラなどです。グラム陽性細菌の中にも、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のような非常に有名な細菌が含まれています。MRSAは最も危険な細菌としてよく知られていますが、大きな多様性を持つ細菌の中ではほんの一部の存在でしかありません。
細菌の遺伝的多様性の大きさは、代謝の多様性の大きさを反映しています。それぞれの細菌種は、生息する環境で得られる栄養分の利用に特化しています。ある細菌種が生息している生態系では、別の細菌種は生存することはできません。その環境で得られる栄養分を利用することができないからです。
細菌は光合成、発酵、好気呼吸や嫌気呼吸、脱窒、メタン生成に曝され、これらの代謝プロセスで産生される水や酸素、二酸化炭素、硫化水素、窒素、鉄、糖分などを利用しています。

この幅広い代謝経路は、多様な遺伝子によってコードされている様々な酵素の存在によって可能となっています。これらの酵素は細菌にとってのツールであるだけでなく、細菌が生息する環境やわたしたち人間にとっても必要不可欠なものなのです!
細菌が生存するために必要な栄養分を分解すると、宿主は細菌が生み出す副産物を利用できます。宿主とは人間、つまり、あなたや私のことです!
2019年09月12日
マイクロバイオームの10の真実
マイクロバイオームの10の真実

マイクロバイオームいう言葉は、ジョシュア・レーダーバーグ によって2001年につくられました。
レーダーバーグはこの言葉を、人間と体内空間を共有している片利共生性、相利共生性、そして病原性生物の生態群集という意味で用いました。
専門的に言えば、ヒトマイクロバイオームは、人間の体に生息するあらゆる微生物の完全ゲノム(遺伝子を含む微生物の完全なDNAセット)と定義されていますが、現在では人間の体に住むすべての微生物群という意味で使われています。

その通りです! ヒトマイクロバイオームは
10~100兆の共生微生物を含んでおり、特に消化管には最も多くの細菌が生息しています。人間の体に生息する細菌は人間の細胞よりも1.3:1の割合で多く、人間の体重の約1~3%を占めています(体重60kgあたり0.6~1.8kg)。

人間の体はそれ自体が複雑な生態系なのですが、長い間、生理学的には独立した存在だと考えられていました。
この考えは大きな誤りです!
人間と体を共有している数兆の細菌がいなければ、人間は必須栄養素を分解したり、空腹や満腹を知らせる体のシグナルを受け取ったり、免疫系を抑制することはできません。

興味深いことに、マイクロバイオームによって人間は特別な存在になっています。
人間の遺伝子カタログをヒトマイクロバイオームと比較すると、人間の遺伝的多様性は色あせてしまいます。人間の細菌叢の多くが存在している消化管だけでも330万の遺伝子が報告されていますが、ヒトゲノムではわずか2万2,000の遺伝子しかありません。人間の個体ではゲノムの99.9%が同じですが、ヒトマイクロバイオームのゲノムは80~90%が異なります。
画像:ギャビー・ダレッサンドロ / アメリカ自然史博物館

実は、新生児は無菌状態で生まれ、誕生と授乳のときに母親から片利共生細菌を受け取っています。そして、無数の細菌を持つ両親や祖父母、兄弟姉妹、ペット、環境そのものと接触を続けることで、細菌と接触し続けるのです。
生まれてから最初の1年でマイクロバイオームは成人と同じ状態となり、人間は世界で最も複雑な生態系のひとつとなります。
この時期、そしてその後も、体に取り入れた栄養分によってマイクロバイオームの特徴が決まります。人工栄養児と母乳栄養児では、消化管の細菌叢に顕著な違いが見られます。また、新しい食べ物を食べる度に細菌叢は大きく変化し、細菌の多様性が時間の経過とともに増大していきます。

人間の免疫系は、攻撃と寛容の間で絶えず微妙なバランスを保っています。免疫系は、細菌叢の手助けがあってはじめてこのバランスを保つことができます。細菌叢は免疫系にどの細胞を攻撃し、どの細胞を攻撃してはいけないのかを伝えています。
バクテロイデス・フラギリスというよく見られる片利共生細菌は制御性T細胞を強化し、また炎症性T細胞が活性化しすぎないように抑制していることが発見されました。この発見は、人間の免疫系が体に害のない細胞を攻撃しないためには、細菌の助けが必要であることを示しています。このような働きを持つ細菌がいなくなってしまうと、人間の体はあらゆる細胞に対して過剰に反応し、アレルギーや喘息を引き起こしてしまうでしょう。

普通、体の中の細菌と聞くと人々は病原菌を思い浮かべます。これが長い間有害な病原菌の研究ばかり行われ、「善玉菌」が無視されていた理由です。
カリフォルニア工科大学の生物学者サーキス・K・マズマニアンは、マイクロバイオームが無視されていたのは、人間の歪んだ世界の見方が原因だと言っています。「人間のナルシズムが考え方を変えることを妨げています。人間は自分たちだけで、健康のために必要なすべての機能を持っていると考えていました」と博士は言います。「しかし、人間にとって細菌が外からきたよそ者だからという理由や、人間が日々の生活を通じて細菌を体の中に取り込んでいるからという理由では、細菌が人間の根本的な一部をなしているという事実は否定できません」。
マイクロバイオームが長らく無視されてきたもう一つの理由は、過去の研究技術が十分でなかったことです。マイクロバイオームの最初の研究はアントニ・フォン・レーウェンフックが1680年代に始め、排泄物中の細菌と口内の細菌で顕著な違いがあることを発見しました。しかし、過去に使われた技術は、マイクロバイオームを完全に調査するには不十分なものでした。現在では、最新の分子技術によって、あらゆる細菌-分離が難しい嫌気性細菌であっても-を分離できるようになっています。そして、これらの細菌が人間にどのような恩恵をもたらしているのかも特定できるようになっています。

この質問に対する答えは、次の二つの理由から「イエス」です。
- 私たちの食べ物は消化管のマイクロバイオームに影響を与えます善玉菌や悪玉菌も。人間の食べ物を利用しています。細菌は人間の食物からエネルギーを得ているのです。高脂肪食品を摂取すると、消化管マイクロバイオームの細菌が減ってしまい、脂肪を急速に体内に沈着させる細菌の成長が促されます。肥満マウスの消化管マイクロバイオームを無菌のマウスに定着させると、痩せたマウスのマイクロバイオームを定着させたマウスと比べて、脂肪沈着が速くなる傾向が観察されています。
- 消化管マイクロバイオームは私たちに食事のタイミングを教えてくれます。胃に生息している細菌のヘリコバクター・ピロリは、人間に空腹や満腹を知らせてくれます。ピロリ菌は胃の酸性度を調整するだけでなく、食欲の調整に関わるホルモンのグレリンを減少させます。胃の中にヘリコバクター・ピロリがいなければ、グレリンの分泌量が増え、食欲過多となってしまいます。不幸なことに、ピロリ菌は過去数十年の間、過敏症の人に消化性潰瘍を起こす病原菌と見なされ、抗生物質によって胃の中からほぼ根絶されてしまいました。2、3世代前の米国では80%のアメリカ人がピロリ菌を保有していましたが、今ではアメリカ人の子供の6%以下しかこの菌を保有していません。このことは米国で子供の肥満が増えている一つの原因と考えられています。
2019年09月07日
日光浴をするなら健康な皮ふマイクロバイオームが不可欠です
日光浴をするなら健康な皮ふマイクロバイオームが不可欠です

2019年4月、グラーツ大学の研究チームが皮ふマイクロバイオームと紫外線に対する内因的な肌の保護機能との相互作用に関する研究結果を公表しました。紫外線が免疫系を傷つけることは早くも1970年代に科学的に証明されています。マウスを使い、がん細胞を皮下に移植して放射線を照射する実験が行われています。この処置を受けたマウスはそうでないマウスと比較して、傷ついた細胞を取り除く能力が下がることが示されています。しかし、科学者たちは最近、皮ふマイクロバイオームが傷つくことも、紫外線による悪影響の原因の一つであることを発見しました。
放射線による免疫抑制ががん細胞の成長を促す
放射線に曝露した皮ふは常に、火傷などの直接的な傷害のリスクが上昇します。さらに、がんを引き起こす可能性もある長期的な傷害のリスクも上昇します。皮ふ科医のペーター・ヴォルフ教授の研究チームは、皮ふマイクロバイオームと肌の保護機能の相互作用について研究を行いました。教授たちは、ラボで皮ふモデルに有害な放射線を照射する実験を行いました。健康なマイクロバイオームを定着させた皮ふモデルを、防腐剤によって傷ついたマイクロバイオームを定着させた皮ふモデルと比較したのです。実験結果は明確に皮ふマイクロバイオームと肌の保護機能の相関を示しました。
適度な日光浴をお勧めします!
結果として、私たちは皮ふがんを予防するために、日光に肌を晒すことを完全に避けるべきなのでしょうか?ヴォルフ博士の答えはノーです。適度な日光浴はまったく日に当たらないよりも健康に良いのです。人間の体はビタミンDを産生するために日光を必要としています。西洋諸国の緯度では、サプリメントの助けなしに十分な量のビタミンDを産生することはほとんど不可能です。ビタミンDは丈夫な骨をつくったり、筋肉をつくるために不可欠なのです。ビタミンDが不足していると、特に子供でくる病が起こる可能性があります。子供にビタミンDのサプリメントが推奨されるのはこの理由からです。ですが、大人にとってもビタミンは重要です。特に屋内で働いて日光を浴びる機会が少なく、充分な量のビタミンDをつくる力が落ちている方には大切です。それでは、どの程度の日光浴が健康に良いのでしょうか?
適切なスキンケア製品を適切な量で使う
すべての人に等しく適用できる基準はありません。人によって必要な量は大きかったり、小さかったりします。ビタミンDの産生量が増える速さも、肌のタイプによって異なります。したがって、ヴォルフ博士はみんなで同じ時間日光浴をすることは勧めません。皮ふマイクロバイオームに関して言えば、スキンケア製品の使用はできるだけ控えた方が肌に良いです。日焼け止めなどを使うときは、マイクロバイオーム・フレンドリーな製品を選ぶことが重要です。また、防虫剤や消毒液はなるべく使わないようにしましょう。
2019年09月03日
1日1個のりんごで健康にーりんごがマイクロバイオームを養う
1日1個のりんごで健康に

りんごは世界で最もよく食べられている果物です。
りんごは人間の食べ物の中で、最も大切な栄養素であるフラボノイドの摂取源のひとつです。りんごに含まれるりんご由来プロシアニジンとペクチンは、人間の健康を大きく促進してくれる物質です。ですが、りんごが健康に良い理由はそれだけではありません。毎日1個のりんごを食べれば、たくさんの細菌を体内に取り込むことができます。これまで、りんごに生息している細菌を詳細に調査した人はいませんでした。オーガニックなりんごと従来の農法で栽培されたりんごに違いはあるのでしょうか?グラーツ大学(オーストリア)のガブリエル・バーグ博士の研究チームはりんごの詳細な調査を行いました。
バーグ博士はりんご (セイヨウリンゴ)を切り分けて、幹、果肉、皮、種をそれぞれ調査しました。全体で、りんご1gからおよそ10億の細菌が発見されました。りんごの各部位には、それぞれ異なる種の細菌が生息していました。驚くことに、果肉と種で最も多くの細菌が見つかり、皮に生息していた細菌は少なかったのです。オーガニックなりんごの皮と果肉だけを食べた場合、4000万の細菌を摂取することになります。従来の農法で栽培されたりんごでは、摂取できる細菌の数は10分の1になります。
りんごの種で最も多くの細菌が見つかった一方で、種に生息する細菌の種類は果肉の細菌と非常に類似していたのは興味深いことです。りんごのマイクロバイオームは子孫たちに直接受け継がれているように思えます。
従来の農法で栽培されたりんごよりもオーガニックなりんごの方が健康に良い?
細菌の数はオーガニックなりんごと従来の農法で栽培されたりんごの両方で同じでした。しかし、細菌の多様性は大きく異なっていることが分かりました。オーガニックなりんごは従来の農法で栽培されたりんごよりも、細菌の多様性がずっと大きかったのです。オーガニックなりんごでは、果肉で最も細菌の多様性が大きく、従来の農法のりんごでは皮で細菌の多様性が最も大きくなっていました。しかし、オーガニックなりんごでは、どの部位でも細菌の多様性は大きかったのです。
りんごではプロテオバクテリアが80%を占め、次にバクテロイデスが9%、放線菌(5%)、フィルミクテス(3%)と続きました。従来の農法で栽培されたりんごでは、オーガニックなりんごよりも多くの腸内細菌が見つかりました。この腸内細菌は、食中毒を起こす可能性のある細菌です。
オーガニックなりんごは従来の農法で栽培されたりんごより多くの細菌がいましたが、それらは乳酸桿菌種のように私たちの健康に良い細菌です。オーガニックなりんごで細菌の多様性がとても大きいということは、病原菌が繁殖する余地がないことを意味します。
ガブリエル博士の研究は、未加工の食品が加工食品よりも私たちの健康にずっと良いということを改めて示しています。加工プロセス自体も健康に良くありませんが、加工によるりんご内部の変化も健康への良い影響を減らしてしまいます。りんごを食べるときはスーパーマーケットで買うのではなく、隣人の家のりんごの樹から採りましょう。もちろん、事前に許可をもらってから。


