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ロブ・ナイト博士がマイクロバイオーム研究のパイオニアになるまで

マイクロバイオーム研究者ロブ・ナイト博士
マイクロバイオーム研究者ロブ・ナイト博士(©コロラド大学ボルダー行政・研究センター 東キャンパス、
、マリーン・ストリート3100、UCBボルダー584、コロラド)

マイクロバイオーム研究の第一人者の一人が、カリフォルニア大学サンディエゴ校のロブ・ナイト教授です(>>> 教授の研究室とプロジェクト)。ナイト教授は『子供の人生は「腸」で決まる』(本のレビュー)という著作で、科学やビジネスの分野に限らず、一般からも注目を集めました。著作の成功によって、科学の専門家でない一般の人々も、自分の体の中で何が起きているのか、そして体の中で起きていることが日々の生活にどのような影響を及ぼすのかに関心があることが明らかになりました。教授は長い間、自分の研究が大きな影響力を持つとは信じていませんでした。マイクロバイオームの研究はずっと二次的な興味しか持たれていなかったのです。しかし、時代は変わりました。

ロブ・ナイト教授の経歴とキャリア

ロブ・ナイト教授は1976年にニュージーランドのダニーデンで生まれました。父親も母親も遺伝学者で、教授は3人兄弟の長男です。両親の影響で子供の頃から科学に興味を持ち、基本的な研究の仕方を学びました。幼少期から青年期にかけてはニュージーランドの豊かな自然の中で育ち、少年の頃には化石や恐竜、SF小説、成長してからはコンピューターに関心を持ちました。このような興味は他の多くの青少年たちと同じです。

細菌学の研究を始めたのは、1994年にオタゴ大学の生化学科に登録をしてからです。ナイト教授はすぐにラボ研究の魅力に気が付き、通常の半分の期間で課程を終えました。大学の登録から1年後には、奨学金を得て米国ニュージャージー州のプリンストン大学に留学しました。そこで遺伝学、特に遺伝ドライブ技術(>>> ウィキペディア「遺伝子ドライブ」)について素晴らしい学習を行いました。

ロブ・ナイト博士の素晴らしい業績

オタゴ大学を1997年に卒業した後、教授はプリンストンに戻り、進化論と実験生物学の研究に打ち込みました。しかし、研究者としてのキャリアを積む中で、関心は進化論の研究に有用なプログラミングへと次第に移っていきました。

最終的に、ロブ・ナイト教授はDNAの研究に至ります。特にコンピューター技術を用いたDNAコードの解読を専門としました。そして、過去には現象としてしか記述できなかったものを数学的に説明できるようにし、生命現象の理解を進めることに成功しました。

ナイト教授の次の仕事はアメリカのボルダーにあるコロラド大学でした。コロラド大学ではポスドク研究としてRNAの研究を行いました。データ処理技術を用いて、博士はRNAシークエンスやRNAの機能解析に重要な洞察を行いました。例えば、タンパク質の結合について研究です。RNAの解析に求められる数学がどれほど高度であったかは、計算のためにスーパーコンピューターが必要だったという事実から伺えます。スーパーコンピューターを利用することで、ナイト教授は繰り返し配列、いわゆる配列モチーフの特定に成功しました。

博士の功績は、全く同じアミノ酸をエンコードするのに異なる種で異なる塩基配列が用いられている理由を説明したことです。博士が開発したソフトウェアは研究の非常に大きな助けとなっています。過去には経験的にしか記述されなかったものが、現代では定量的に扱えるようになったからです。ロブ・ナイト博士の開発した最も著名な二つのソフトウェアがUniFracQIIMEです。

マイクロバイオーム研究への道

ポスドクを終えた後、ナイト教授はコロンビア大学に残り、ノーマン・ペイス博士と共にrRNAシークエンシングの研究を行いました。教授はこの時にUniFracのソフトウェアを開発しました。彼の2004年の論文はすでに4000回以上も引用されています。

その後、ジェフリー・ゴードン博士(>>> ゴードン博士について)との共同研究のために、ロブ・ナイト教授はセントルイスのワシントン大学メディカルスクールに移りました。そこでもナイト教授はマイクロバイオームの研究を継続します。ゴードン博士とナイト博士の二人によって、消化管細菌叢と健康全般との関係についての理解が深められました。ナイト教授は初めはもっぱら個人的な関心からマイクロバイオームの研究を追及しました。大学外の人間は誰もマイクロバイオームに本当の興味は示しませんでした。そして、二人の教授はマウスの実験から消化管細菌叢と肥満の関係について興味深い結論を得ました。

遺伝研究のバックグラウンドがあるナイト教授は、肥満と環境要因の関係に気が付いていました。かつて、肥満の原因は遺伝的要因に帰されていました。博士は2009年に行った人間の双子(一方が肥満でもう一方がやせ型)を対象にした一連の研究で、人間の肥満が腸の特定の細菌集団にも相関していることを明確に示しました(>>> 研究の詳細(英語))。ナイト教授の研究グループは、QIIMEによってこの革命的な洞察に統計的な裏付けを与え、2013年にサイエンス誌に論文を投稿しました(>>> 論文へのリンク(英語))。これにより、教授の研究チームは大きな注目を浴びます。それは本来であれば、ずっと以前にマイクロバイオームが浴びるべき注目でした。

マイクロバイオームだけを解析することで、研究者は90%の精度で肥満になるかどうかを判定できるようになりました。遺伝子の解析だけでは精度はわずか57%です。

マイクロバイオーム研究のさらに革命的な洞察を行う

ヒトマイクロバイオームの研究は現在、数多くの魅力的な成果を生み出しています。ナイト教授は、共同生活を送る人々では、例え住居が変わったとしても類似したマイクロバイオームを持つことを示しました。食事、特に肉の割合は重要な要素と見なされます。

ナイト教授の研究成果が人々の健康にとって重要なものであることはすぐに明確になりました。ロブ・ナイト教授はアメリカン・ガット・プロジェクトアース・マイクロバイオーム・プロジェクトでイニシアティブを取りました。これらは人々を啓蒙して知識を普及させる、とても価値のある利他的なプロジェクトだと言えます。二つのプロジェクトの素晴らしい目的は、世界中のマイクロバイオームを解読することに加え、人類への恩恵を最大化することです。

ナイト教授は科学と人々の間の架け橋です

アメリカン・ガット・プロジェクトとアース・マイクロバイオーム・プロジェクトは科学と一般の人々をつなぐ架け橋です。ナイト教授はこの架け橋を二つの著作『子どもの人生は「腸」で決まる』『細菌が人をつくる』によって完成させました。

これらの著作はマイクロバイオーム研究から得られた成果を生き生きと解説し、興味がなかった方も面白く理解できるようになっています。

科学における数多くの功績に加えて、ロブ・ナイト教授は多くの一般人にマイクロバイオームの問題に目を向けさせ、(願わくば)実際に人々の健康を改善するという大きな功績を上げたのです。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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