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2019-09-12 19:26
by Kristin Neumann
  Last edited:

マイクロバイオームに良い食事と科学的根拠

食事は人間の体に住む細菌と健康にどのような影響を与えますか?

プロバイオティクスは生きた細菌です
プロバイオティクスは、食品や栄養補助食品として摂取できる生きた細菌のことです。

プロバイオティクス

プロバイオティクスは、食品や栄養補助食として摂取できる生きた細菌のことです。国際プロバイオティクス・プレバイオティクス学術機関(ISAPP)は最近、プロバイオティクスに関する国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の定義を批准しました。その定義とは、「適切な量で摂取したときに、宿主(人間)の健康に有益な生きた微生物」というものです。ISAPPの定義には、プロバイオティクスに含まれる細菌の種類と量を明確に定義し、安全に用いられなければいけないという考えが含まれています。生きていない細菌を含んだ製品や成分、定義に含まれない細菌を用いた食品などはプロバイオティクスには該当しません。従って、定義に含まれない細菌叢を使った発酵食品もプロバイオティクスではありません

プロバイオティクス・・・適切な量で摂取すれば、宿主(人間)の健康に有益な生きた細菌

プロバイオティクスの定義について、ヨーロッパの状況は少し違います。欧州食品安全機構(EFSA)によってプロバイオティクスと認められた製品は一つだけしかありません。Winclove Probiotics社が培養・生産しているプロピオニバクテリウム・フロイデンライシイW200です。この細菌は適量のビタミンB12を含み、EFSAから健康強調表示を行う認可を得ています。EFSAは2011年に、プロバイオティクスという言葉を健康強調表示に使うためには、科学的な根拠が必要であるとの声明を出しています。ヨーロッパにはとても大きな「プロバイオティクス」製品の市場があるにも関わらず、プロピオニバクテリウム・フロイデンライシイW200を除き、正式にプロバイオティクスと表示できる製品がないのは驚きです。それ以外の「プロバイオティクス」製品には健康強調表示を行う医学的根拠がありません。

 


ラクトバチルス属ラムノサス種GG株TEM画像
ラクトバチルス属ラムノサス種GG株の透過電子顕微鏡画像
(ロイナネン他、2012年)

プロバイオティクスに最もよく使われている細菌-ビフィズス菌乳酸桿菌

「プロバイオティクス」製品に最もよく使われている細菌は、乳酸桿菌属またはビフィズス菌属です。ビフィズス菌属には短鎖脂肪酸(SCFA)、特に乳酸と酢酸塩を産生する種が含まれています。ある研究では、プロバイオティクスの性質を持つビフィズス菌を投与することによって、人間や鳩の排泄物中にSCFAが増加することが明らかにされています。SCFAは人間の消化管に直接的に良い影響を与えます。また、他の細菌叢によって酪酸塩のような物質に変えられても、健康に良い影響を与えます。例えば、SCFAは消化管の運動と収縮機能にSCFA受容体を通じて好影響を与えたり、抗炎症性サイトカインIL-10を刺激することで抗炎症効果を示します。

乳酸桿菌ビフィズス菌は「毛」を持ち、消化管に付着できる

グラム陽性細菌(例えば、乳酸桿菌ビフィズス菌)の細胞表面は、宿主と細菌の直接の相互作用を可能にする特別な性質を帯びています。これは、プロバイオティクスの細菌が消化管に定着するために極めて重要な機能です。髪の毛のように見える細菌の付属物は、線毛と呼ばれます。線毛は細胞表面の特徴的な構造で、これによって細菌は内皮に付着することができます。線毛の機能は、病原菌の競合排除や免疫調整、腸粘膜の構造保全に関わっています。ビフィズス菌乳酸桿菌で3本の線毛が見つかっています。実験の結果によって、特にラクトバチルス属ラムノサス種GG株 (LGG)がバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などの病原菌エンテロコッカス・フェシウムを攻撃することが示されています。

ラクトバチルス属ラムノサス種GG株(LGG)はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を攻撃

グラム陽性細菌の細胞表面の特徴は、細胞壁の構造それ自体による免疫調節です(例えば、ペプチドグリカンやリポタイコ酸)。これらの特徴的な細胞壁構造は乳酸桿菌とビフィズス菌によって維持され、プロバイオティクスの細菌の重要な働きである腸管バリア機能に良い影響を与えます。

LGGは最も特徴的なプロバイオティクス細菌

プロバイオティクス製品の誇大広告の背景には何があるのでしょうか?もっともよく使われているプロバイオティクスの細菌の働きを見ると、健康上の利益は明らかです。プロバイオティクスの細菌のラクトバチルス属ラムノサス種GG株(LGG-GG、1985年に人間の腸管細菌叢からこの細菌株を発見したシャーウッド・ーバックとバリー・ールディンにちなんで名付けられました)は世界で最も多くの記事や論文で扱われ、300回を超える臨床試験の対象となっています。特に小児科で多くの研究が行われており、小児における急性胃腸炎の治療と抗菌薬関連下痢症(AAD)の予防に有効であることが証明されています。また、LGGは院内下痢症と呼吸器感染症の予防に有効であることも証明されています。しかし、ヘリコバクター・ピロリ菌の抗生物質治療に関しては、成人においてのみ有意な結果が得られています。

プロバイオティクスの細菌は有害な細菌を攻撃し、健康上の利益をもたらす

プロバイオティクスの細菌に関する科学論文を考察すると、プロバイオティクスの細菌は消化管のマイクロバイオームが機能不全に陥った患者や、免疫系が弱っている患者の治療に適していると言えます。一連の研究によると、プロバイオティクスの細菌は子供や優れたスポーツ選手、抗生物質治療を受けた患者や炎症性腸疾患(IBD)患者に良好な転帰をもたらします。治療が奏効する理由はすべて同じで、細菌の日和見感染を防ぐことによります。健康な成人では、プロバイオティクスの摂取後にはマイクロバイオームの変化が見られましたが、健康上の利益までは見出せませんでした。また、プロバイオティクスの細菌は、下痢を起こす有害な細菌の増殖を防ぐ目的で、健康な人にも旅行前などに使うことが推奨されています。

プロバイオティクスを摂食または服用する場合は、製品に含まれる細菌株の種類と量を知ることが大切です。プロバイオティクスの細菌には胃の強い酸性環境中で生存し、消化管に定着することが求められます。また、副作用も含めて、その特徴をよく把握しておく必要があります。プロバイオティクスの細菌は特に健康な人には、消化管のマイクロバイオームの構成を劇的に変化させることはありません。しかし、抗生物質の投与後や、病原菌の侵入を受けやすいマイクロバイオームのバランスが崩れた人では、有害な細菌の定着を防いでくれます。

Prebiotics sounds good, right?
きっと毎日プレバイオティクスを食べたくなります!

プレバイオティクス

プレバイオティクスのことを知った方は、毎日食べたいと思うのではないでしょうか?プレバイオティクスを食べるとどのようなメリットがあり、体の中の細菌叢と体にどのような影響を与えるのでしょうか?プレバイオティクスについて深く掘り下げ、すでに分かっている事実をご紹介します!

プレバイオティクスとは何ですか?

プレバイオティクス―宿主(人間)のマイクロバイオームが選択的に利用して、健康上の利益をもたらすもの

現在使われているプレバイオティクスの定義は、ISAPPが提案したものです。その定義は、宿主(人間)のマイクロバイオームが選択的に利用することで、人間に健康上の利益をもたらすもの、となっています

炭水化物に限定されず、多くの研究でさまざまな種類のオリゴ糖もプレバイオティクスに含めています。

ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)…200種類以上のHMOが同定されています。HMOはブドウ球菌ビフィズス菌などの特定の細菌群の成長を促進します。HMOは素晴らしいプレバイオティクスです。

 

食物繊維とデンプンは細菌によって短鎖脂肪酸 (SCFAs)に分解されます

  • 食物繊維とデンプン・・・消化管で細菌によって短鎖脂肪酸(SCFAs)に分解されます。酪酸、酢酸塩、プロピオン酸が最も多く、これらは嫌気性発酵の最終産物です。
    • レジスタントスターチ(RS)・・・小腸を通過し、大腸に到達して細菌に発酵されるデンプンです。大腸で細菌がRSを発酵することでSCFA(特に酪酸)が産生され、消化管に生息する細菌の多様性が増します。
    • 食物繊維・・・消化することができない化合物で、ほとんどが炭水化物です。食物繊維の多くは穀物、豆類、果物、野菜から抽出されます。長時間咀嚼し、ゆっくりと消化すれば満腹感を得られます。また、食物繊維は小腸のグルコース吸収率を低下させます。
      • 難消化性オリゴ糖(NDOs)・・・単糖類と多糖類の中間体です。消化管の細菌生態系の多様性、生化学的作用と生理学的作用を改善します。
      • NDOの中では、インシュリンやオリゴフルクトースなどのフラクトオリゴ糖(FOS)がプレバイオティクスとして最もよく研究されています。

プレバイオティクスが人間とヒトマイクロバイオームの両方に有益であるという示唆は多いのですが、科学的根拠のある研究はまだまだ少ないです。

多くの研究がフラクトオリゴ糖(FOS)などの食物繊維に焦点を置いています

レジスタントスターチとプレバイオティクスを摂取すると、特定のプレバイオティクスと炭水化物を代謝する細菌の数が変化します。特にビフィズス菌乳酸桿菌などが影響を受けます。ヒト対照試験では、食物繊維の摂取がビフィズス菌と短鎖脂肪酸、特に腸内pHを低下させる酪酸の増加に相関していることが示されました。

その他の食品が健康に与える影響
その他の食品が健康に与える影響

その他の食品の健康への影響

乳化剤は繊維構造を維持し、加工食品の賞味期限を延ばします。
マリー・K・ホルダーと彼女の研究チームは、乳化剤の影響を調査するためにマウスモデルを構築しました。ホルダーたちは一般的な二種類の乳化剤、ポリソルベート80(P80)とカルボキシメチルセルロース(CMC)を、加工食品に使われているのと同程度の量で使用しました。このマウスモデルで、ホルダーの研究チームは炎症誘発性特性を持つ消化管細菌叢の増加を観察しました。最も多く発見された炎症性分子はリポ多糖 (LPS、グラム陰性細菌の外細胞膜由来)とフラジェリン(細菌フラジェリン由来のタンパク質、細菌の移動または「歩行」に用いられるモーターの一種)でした。
 

乳化剤によってマウスは慢性腸炎とメタボリックシンドロームを発症

リボ多糖とフラジェリンの二つは自然免疫系を活性化させることで知られています。その結果、マウスは慢性腸炎(慢性大腸炎を促進)とメタボリックシンドローム(腹部肥満、高血圧、高血糖、高血清トリグリセリドおよび高比重リポタンパク (HDL) の5つの病状のうち、少なくとも3つが認められる)を発症しました。このことは心血管病と2型糖尿病のリスクに関連していました。乳化剤によって変化したマイクロバイオームは腸内を覆う堅い粘液層に浸透することもあります。他の研究では、乳化剤が大腸がんの発症率を高めることも示されています。

乳化剤を与えたマウスで不安が増加

ホルダーの研究チームはまた、乳化剤を与えた後のマウスの振る舞いを観察しました。マイクロバイオームの乱れが脳腸軸を通じて神経系にも影響を与えることが広く知られていたからです。乳化剤を与えたマウスで不安の増加が観察されました。また、乳化剤が食欲に影響を及ぼすペプチドとホルモン(アグーチ関連ペプチド(AgRP)とαメラニン細胞刺激ホルモン(αMSH))に影響を与えることも認められました。つまり、乳化剤を摂取すると食事量が増加する可能性があるのです。

この記事では、数多くのトピックについてご紹介しました。ここで扱った内容はそれぞれ、加工食品や発酵食品、ポリフェノール、オススメの料理レシピなどのトピックでさらに掘り下げます。ぜひご覧になってください!

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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