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2018-09-01 18:13
by Kristin Neumann
  Last edited:

私たちを脅かす新しい胃がん

私たちを脅かす新しい胃がん
H. ピロリの根絶によって胃がんは減少しました。しかし、新しい胃がんである食道腺癌が増えています

 

ブレイザー博士とチェン博士執筆の論考(2018年)から

1900年には、胃がんはアメリカや他の国で死者の最も多いがんでした。現在では、胃がんは胃の共生細菌であるヘリコバクター・ピロリ菌の根絶によって減少しています。ピロリ菌は胃がんの原因だと考えられたのです。胃がんの減少は確かに良いニュースですが、悪いニュースもすぐに出てきました。H・ピロリの根絶と胃がんの減少にともなって、新しいがんが増えてきたのです。食道腺がんです(このがんの多くはGEJと呼ばれる胃食道接合部に発生します)。アメリカの非ヒスパニック系白人ではGEJがんが従来の非噴門胃がん(噴門は食道とつながる胃の入り口です) よりも増えており、また多くの先進国で顕著に増加しています。

非噴門胃がんの減少は、H.ピロリと前駆病変がGEJに存在する場合と逆相関になっています。つまり、H.ピロリはGEJから離れた部位の胃がんを引き起こす原因となるのですが、同時にGEJがんから守ってくれる存在でもあります。H.ピロリの根絶によって胃がんの罹患率は低下しましたが、GEJがんの罹患率は上昇しているのです!

胃がんから食道腺がんへのシフト

アメリカ国立衛生研究所(NIH)のウィリアム・アンダーソン教授らの研究によると、食道がんだけでなく、「新しい」胃がんの増加も観察されています。この胃がんは非常に年齢特異的で、また性別特異的であるという新しい特徴を持っています。全体的に胃がんの罹患率は低下していますが、このことは50歳以上の年齢にのみ当てはまります。50歳以下の年齢では、胃がんの罹患率は年間1.3%増加しています。

新しい胃がんは女性に多く見られます

かつて胃がんは男性に多いがんだったのですが、新しい胃がんは50歳以下の年齢において男性よりも女性で多くみられます。この新しいタイプのがんは特定の集団で多いため、GYF優位がんと呼ばれています。 胃(gastric)に関して、若年齢(young)女性(female)で多いからです。

最も重要な疑問・・・新しい胃がんの原因は何なのでしょうか?

ブレイザー教授たちは、最終的にマイクロバイオームの変化が影響を及ぼしているという仮説を立てました。まず、胃の主要な細菌であったH.ピロリの根絶は、他の細菌が胃に定着するための空間を生み出すことにつながります。そして、新しく定着した細菌の中には、胃の粘膜に有害な細菌が含まれている可能性があります。また、CYF優位がんの増加は、時期的に抗生物質を多用するようになった時代と一致しています。

西洋諸国でマイクロバイオームを変容させる抗生物質の使用が増えたことが、CYFがんの増加につながりました。最後に大事なことを指摘しておきます。自己免疫疾患もまたマイクロバイオームの細菌構成を変化させますが、自己免疫疾患は特に女性に多く見られます。このことは、マイクロバイオームの変化による新しい胃がんの増加を説明する三番目の理由になるかもしれません。

マーティン・ブレイザー教授は著作の中で「抗生物質への曝露、細菌叢、腫瘍サブタイプ、そして前癌状態のすべてを考慮した複合的な研究を行うことで、仮説の検証が可能になる」と述べています。

ブレイザー教授やアンダーソン教授などの第一線の研究者たちが、このような重要な研究を行ったことはとても幸運なことです。マイクロバイオームの変化ががんの発達に及ぼす影響を理解するために、さらなる研究の進展が待たれます。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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