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2019-12-02 15:00
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

不死身のツマグロ-サメのマイクロバイオームと皮ふの修復

サメのマイクロバイオームは皮ふの修復に関わっている可能性があります。
サメのマイクロバイオームは皮ふの修復に関わっている可能性があります。

セイシェルに生息するツマグロ(メジロザメ属のサメの一種)を対象にした実験(英語)で、サウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学の研究チームは、サメの傷ついた皮ふの組成が無傷の皮ふの組成と類似していることを発見しました。明らかに、特定の物質が傷ついた皮ふを修復し、感染症と炎症を防いでいます。2019年9月に、「アニマル・マイクロバイオーム」誌(英語)はこの研究に関する記事を公開しました。

研究チームはサメの鰓と背部からサンプルを採取しました。

現代的なシークエンス技術を用いて、研究チームはサメのマイクロバイオームを構成する細菌を正確に特定し、健康なサメと皮ふが傷ついたサメのサンプルを比較しました。研究チームのリーダーであるクラウディア・ポゴロイツは驚くべき結果を次のように要約しました。健康なサメと皮ふが傷ついたサメでは、鰓と背部のマイクロバイオームに有意な違いはありませんでした。このことは、サメの皮ふが炎症を起こしにくく、皮ふから体内に感染が広がっていく感染症に対して盾の役割を果たしていることを証明しています。

この発見は大したことのない話に聞こえるかもしれません。しかし、傷ついた皮ふが感染症を起こすことは、一部の動物の生存戦略にとって大きな意味があります。つまり、獲物を直接倒すよりも、傷つけて感染症を起こさせるという戦略です。スカベンジャー(腐肉食動物)と呼ばれる動物は獲物を傷つけ、獲物が感染症で命を失った後、その腐肉を食べます。ひどい戦略だと思いますか?

ツマグロはこの不公平な戦いに対する答えを見つけました。ツマグロは皮ふが傷ついても感染症を起こさないのです。今回の記事の「不死身のツマグロ」というタイトルはもちろん、少しばかりキャッチーなものです。ツマグロがひどく傷ついた場合はもちろん、怪我が原因で命を失ってしまいます。しかし、ツマグロは感染症によって命を失う可能性を効果的に低下させています。

この現象はサメの特定の生息地と関係しているのですか?

この研究は追跡実験が行われており、科学者たちは最初の実験で研究対象となったツマグロの生息地から、数マイル離れたエリアに住む複数のツマグロを調査しました。面白いことに、ツマグロたちは各々のテリトリーに留まり、他の生息地のツマグロと交わることはありませんでした。このことは、サメの集団の特徴は数マイルごとに完全に異なる可能性があることを示しています。異なるテリトリー間のサメの比較を行えば、光の量、海水温、栄養、集団の密度などがマイクロバイオームの「不死身さ」に与える影響について、明らかにしてくれるはずです。

この様々な場所に生息するサメの群れ(バンド)を対象にした研究では、マイクロバイオームの部位特異的な変化がよく起こることが示されました。そして、マイクロバイオームの部位特異的な変化は、サメの傷ついた皮ふと無傷の皮ふで同じように起こることが観察されました。従って、この現象はセイシェルのサメの群れで偶然に起こったのではなく、すべての種のサメで同じであると考えられます。

この発見は人間にとってどのような意味があるのでしょうか?

クラウディア・ポゴロイツ博士は次のように結論付けています。サメのマイクロバイオームは皮ふの修復に関わっています。どの細菌が皮ふの修復に大きな役割を果たしているのかについては、さらに研究の必要があります。 また、皮ふの修復に対する外部要因の影響についても同様です。この研究結果を医療や化粧品の分野にどのように活かすのかということも、将来的な課題でしょう。それでも、これまでの研究成果は、将来の研究が興味深い結果をもたらす可能性が高いことを示しています。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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