体のいろいろな場所のマイクロバイオーム
宇宙から地球を見ると、動物も植物も昆虫も、地球上の生命は何も見られません。
一人の人間を見たときも同じことが起こります。
私たちは惑星に似ています。数兆もの「住人」である微生物の宿主なのですから。
顕微鏡で人体を見ると、砂漠や河谷、危険な沼地、酸性湖、多湿のジャングルを探検することができます。
鼻を見てください。くしゃみをするたびに、侵入者と戦うペプチドを含んだ風速300kmのハリケーンが起こります。
人間の体という惑星の生態系はとても多様です。そして、その住民たちである微生物も同じように多様性に満ちています。
中でも、細菌たちは多様な生態系への適応力の点で、間違いなく最も優れています。
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口
口の中には60億以上の細菌が生息しています。細菌は、口腔粘膜や歯、舌でそれぞれ異なった生態系をつくっています。
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胃
胃は酸性湖のようなもので、ごく僅かな種類の特別な細菌だけが生存できます。これらの細菌は胃の酸性度を整え、食欲を調整しています!
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腸と結腸
人体の中をさらに下っていくと、最も多くの細菌が生息する腸に至ります。腸には皮ふや口よりも百万倍多い数の細菌が生息していて、腸壁は細菌のカーペットで覆われています。
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膣のマイクロバイオーム
膣にはとても独特な生態系があります。乳酸桿菌とその仲間だけが生存することができます。これらの細菌は侵入してくる有害な微生物と戦ってくれます。
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皮ふ
人間の皮ふは場所ごとに特徴が異なり、それぞれに独自の生態系があります。前腕であれば砂漠、脇の下であれば多湿のジャングル、そして額は脂ぎった世界となっています。しかし、過度に衛生的な西洋社会では、皮ふの細菌の多様性の多くが失われてしまっています。
尿生殖路に生息する細菌を見つけようと思うと、限られた種類の細菌しか見つかりません。膣のマイクロバイオームはとても特別で、ごく一部の種の細菌だけが生存できます。マイクロバイオームの多様性が乏しいにも関わらず、膣の細菌は独特な生態系をつくっていて、pHを適切なレベルに保ち、有害な細菌の侵入を防いでくれます。この環境を好むのは乳酸桿菌種です。ほとんどの女性は5タイプの乳酸桿菌群のうちの1種類を持っています。いずれのタイプも、ラクトバチルス種 (L.クリスパタス、L.イネルス、L.イエンセニまたはL.ガセリ)が優勢です。これらの細菌は乳酸と「科学兵器」(H2O2とバクテリオシン)を放出し、イースト菌や病原菌などの有害な細菌の侵入を防いでくれます。
皮ふの面積は1.8 m2あり、そのマイクロバイオームはとても複雑です。皮ふは場所によって特徴が異なり、それぞれ独特の生態系が存在しています。皮ふの「砂漠地帯」(臀部、前腕、手のさまざまな部位などの乾燥した部分)では、細菌の多様性はとても豊かです。19種類の細菌門が存在し、特に4種類の細菌が優勢です(アクチノバクテリア (52%)、フィルミクテス (24%)、プロテオバクテリア (17%) およびバクテロイデス(7%))。かつては消化管からの汚染によって存在していると考えられていたグラム陰性細菌さえも、皮ふの乾燥した部分に生息しています。面白いことに、乾燥した皮ふに住む細菌は、消化管や口腔内の細菌よりも系統発生的な意味での多様性が豊かです。
皮ふの脂ぎった部分(額や耳の後ろ側、鼻孔の後ろや両側などの皮脂性部分)には、主にプロピオニバクテリウム種が生息しています。この細菌は通常は無害ですが、外敵となる細菌の侵入者と戦うときにだけ攻撃的になります。思春期になると、皮ふ、特に顔の皮ふの化学組成がホルモンの変化によって変わります。この変化によって免疫系とプロピオニバクテリウムに争いが起こり、皮脂腺の感染によってにきびができます。
多湿なジャングル(へそ、脇の下、鼠径部、臀部のくぼみ、足の裏、膝と内肘の後ろ側などの湿った部分) はコリネバクテリウム種とブドウ球菌の生息地です。これらの場所のマイクロバイオームの多様性は乾燥した皮ふと比べると乏しいのですが、細菌の数は多く、スタンプ一個分の範囲で1,500万もの細菌が見つかります。
表皮ブドウ球菌は、皮ふの細菌の中で最も重要な戦士です。皮ふの免疫系と活発に協力して病原菌(例えば、黄色ブドウ球菌)を排除してくれます。人間の体の細菌生態系において、細菌と免疫系の共存関係が乱れる―つまり、ディスバイオーシスが起こると病気になります。アトピー性皮ふ炎、乾癬、尋常性痤瘡、慢性創傷などの皮ふ疾患は、ディスバイオーシスによって起こる病気として良く知られている例です。
口から始まる消化器系に住む60億の細菌は、4つの主要細菌門に属しています(フィルミクテス、プロテオバクテリア、バクテロイデス、放線菌およびフソバクテリウム)。口腔粘膜や歯、舌には細菌が住んでいて、それぞれ異なる生態系をつくっています。一般的には、人間の口の中は一種類の細菌、レンサ球菌が占めています。
酸性環境のせいで、胃にはわずかな種類のマイクロバイオームしか存在していませんが、重要なことに変わりはありません。胃のマイクロバイオームの大半は放線菌とヘリコバクター(例えば、H.ピロリ)です。これらの細菌は胃の酸性度を調整し、H.ピロリはホルモンのグレニン分泌を減少させます。グレニンは食欲の調整に関わっています。不幸にも、H.ピロリは過去数十年の間、過敏性の人々に消化性潰瘍を引き起こす病原菌と見なされていました。その結果、抗生物質によって人間の胃の中からほぼ根絶されています。このことは、特に米国において子供の肥満が増えている理由の一つと考えられています。
胃からさらに小腸を経て結腸まで降りていくと、下に行くにつれて細菌の数は劇的に増えていきます。腸には皮ふや口と比べて百万倍も多い数の細菌が生息しています。結腸の腸壁を直接見ることができないのは、細菌のカーペットによって覆われているからです。
消化管のマイクロバイオームでは二種類の細菌門、バクテロイデスとフィルミクテスが優勢です。この二種類の細菌の比率は個々人で大きく異なり、肥満のなりやすさに大きく影響します。バクテロイデスに対してフィルミクテスの割合が大きいと、肥満になる傾向があります。
消化管のマイクロバイオームは程度の差こそあれ食物からエネルギーを蓄えています。また、ビタミン合成のような代謝機能のほか、化学物質や栄養素の分解、脂肪代謝のサポート、病原菌の排除や免疫系の刺激・熟化といった重要な役割も担っています。
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