MyMicrobiomeはマイクロバイオーム検査キットのレビューを行いました。結果をご報告します。複数の企業が無料で製品提供を行ってくれました。大変感謝いたします。このことはもちろん、私たちの中立的な評価には何の影響も与えません。どうぞ、楽しんでお読みになってください。
調査したマイクロバイオーム検査キットと評価結果
『おしゃべりな腸』(著者ジュリア・エンダース)が出版されてから、腸が健康と幸福のために最も大切な存在であるということが一般にも知られるようになりました。それまではずっと重要視されていませんでしたが、ここ10年間で腸とその住民であるマイクロバイオームの研究に重点が置かれるようになってきています。これにともない、世界中の科学者が皮ふ、口、肺、尿生殖路、そして特に腸のマイクロバイオームの分類を行うようになりました。体のそれぞれの場所で、どの微生物や化合物がマイクロバイオームの健康バランスを示すのかや、体の微生物生態系が乱れたときにどうすれば良い形でバランスを取り戻すことができるのかなどが研究されています。
マイクロバイオームの検査キットが世界中で雨後のたけのこのように売り出されています
科学者たちの研究が活発になるのと同時に、一般の消費者も購入できるマイクロバイオームの検査キットが世界中で売り出されました。検査キットは役立つのでしょうか? 「検査」とは一体どのような内容で、各社の製品にはどんな違いがあるのでしょうか?現時点で購入することができるマイクロバイオーム検査キットのレビューを行いました。
マイクロバイオームの自己検査キットについて、uBiome、Viome、Biohm、IhcodeやDayTwoなど10社以上のサプライヤーに問い合わせました。その結果、全部で5社の企業が参加に同意してくださいました。
- Biomes.world (ドイツ)
- Thryve (アメリカ)
- Atlas Biomed (イギリス)
- TFTAK (エストニア)
- Medivere (ドイツ)
プロバイオティクスヨーグルトを2週間毎日食べた前後で、各社の検査キットを二回使用しました。
複数の評価基準による検査キットの評価
発送/梱包/マニュアル/サンプルの返送方法
全ての検査キットがすぐに届けられました(一週間以内)。アメリカから届いたキットだけ税関で止められました。いずれの製品も丁寧に梱包されていましたが、TFTAKキットには改善の余地がありました。Biomes、Thryve、TFTAKの内容物は類似していて、スワブ(綿棒状の採取キット)、検査サンプル用の安定剤が入った小さなチューブ、サンプル採取のマニュアルが入っていました。Atlasのサンプル用チューブは少し大きく、より多くのサンプル採取が必要でした。Medivereの製品はチューブの中に安定剤が入っておらず、25mlのサンプルが必要でした。これは減点対象です。TFTAK、MedivereとAtlasの検査キットには排泄物の採取キットが入っていました。また、TFTAKとThryveの製品には失敗した場合の交換セットが含まれていました。
検査サンプルの返送がいちばん楽だったのはAtlas、Biomes、Medivereで、料金前納済みの返送用封筒や梱包箱が入っていました。Thryveにも返送用の梱包箱が入っていましたが、一度郵便料金を支払わなければならず、支払い後にレシートを送ると送料がPayPalで返金されるようになっていました。TFTAKには返送用の梱包箱や封筒が入っておらず、送料の表示さえありませんでした。将来的にはしっかりと改善されることを期待します。
検査結果
検査結果が戻ってくるのまでの期間は2週間から3ヶ月で、TFTAKが最も時間がかかりました。
結果は各社ウェブサイトのダッシュボードで確認できるか(Thryve、Biomes、Atlas)、レポートにまとめられていました(Biomes、Medivere、TFTAK)。ダッシュボードにログインすると概要ページが開き、そこから各項目のページに移動できます。全体的にダッシュボードは使いやすいデザインになっていました。Biomes とThryveのダッシュボードはとても簡単に利用できましたが、Atlasでは確認したいデータを探すのに苦労することがあり、また一部の項目が隠れていました。
各社ウェブサイトのダッシュボード
ダッシュボード形式の方がレポートでの報告よりも情報量が多いのですが、確認のために何度もページを閲覧し、検索する必要があります。ダッシュボードの利点は、検査したマイクロバイオームに含まれる細菌について、それぞれの項目をクリックすればより詳しい情報を得られることです。
Biomes、Medivere、TFTAKのレポートは整った体裁で、結果を分かりやすくまとめてくれていました。Medivereは分析した細菌を機能グループごとに分け、検査で見つかった細菌ドメインをリストにしています。
Biomesでは2018年11月半ばから新しいダッシュボードの運用が始まっています。新しいダッシュボードでは旧ダッシュボードの検査データを要約し、検査で判明したマイクロバイオームに適した食事内容を示してくれています。
TFTAKでは検査サンプルで最も多く見つかった細菌をリストにまとめ、健康なエストニア人の比較サンプルで最も多く見つかる細菌との比較結果を示しています。
各検査キットの解析方法と検査結果には大きな違いがありました
各検査キットの解析結果では、マイクロバイオームの多様性と健康・栄養に関して詳細に説明していました。BiomesとMedivereでは、検査サンプルのマイクロバイオームの多様性は非常に大きいと評価していました。他の三社の検査結果では多様性の評価は低くなっていましたが、ヨーグルトを食べ続けた二週間後には多様性は増大していました。多様性が大きいほど、健康に良くなります。
インフォボックス:エンテロタイプ
エンテロタイプに分類することで、マイクロバイオームを構成する主要な細菌について知ることができます。主要な細菌が分かれば、普段の食事の傾向についても知ることができます。
マイクロバイオームの中で優勢となっている細菌を基準にして、3種類のエンテロタイプのうち1つに分類することができます。エンテロタイプは普段の食事に関係しています。
マイクロバイオームの主要な細菌はバクテロイデス属で、平均80%を占めています。これは、マイクロバイオームの多様性が低いことを意味します。バクテロイデス属の細菌は単糖類、動物性脂肪、タンパク質を栄養源にしています。
プレボテラが主要な細菌となります。プレボテラは一般にアマゾンやアフリカの先住民から検出されます。これら先住民たちの食事は主に植物繊維で、単糖類や肉、脂肪は全く食べないか、食べたとしてもごくわずかな量です。ヨーロッパではこのエンテロタイプは主にベジタリアンに見られます。
ルミノコッカスが最も多く、次にユーバクテリウム、ドレア、その他の細菌と続きます。これらの細菌は特に酪酸と抗炎症作用のある短鎖脂肪酸を産生する能力に優れ、主に難消化性でんぷんやセルロースなどの炭水化物を用います(レンティル豆、豆類、全粒穀)。
エンテロタイプについて記載があったのは一部の検査キットだけでした
ThryveとTFTAKの検査結果ではエンテロタイプについて何の記載もありませんでした。Biomesが報告したエンテロタイプの結果はAtlasと同じでした。Medivereの報告ではエンテロタイプ3であると書かれていましたが、実際の検査結果はエンテロタイプ1、つまりバクテロイデスの優勢を示していました。
もう一つの面白い違いは、バクテロイデスに対するフィルミクテスの比率でした。フィルミクテスは特に脂肪の利用に優れているのですが、フィルミクテスの比率が高い人は、体重が増えやすい傾向があります。最適な比率は1から3の間です。Biomesの検査結果では、マイクロバイオームのカロリー利用率がとても高かったのですが、その他の検査キットでは最適な比率でした。Atlas、Biome、TFTAKの報告ではフィルミクテスとバクテロイデスの関係について触れていませんでした。
検査結果の詳細は各社によって大きく異なっていました
すべての検査キットのレビューで同じサンプルを使いました。まず、必要なサンプル量と保存方法に明らかな違いがありました。Biomes、Thryve、TFTAKではトイレットペーパーで拭った程度の量のサンプルで十分でしたが、Atlasは約2ml、 Medivereに至っては25mlのサンプルが必要でした。Medivereを除くすべての検査キットで、サンプル採取用の容器に安定剤が入っていました。安定剤は、サンプルをラボに送るまでの間に細菌の増殖を防ぎ、ラボでの検査中に細菌のDNAとRNAを安定させるためには不可欠です。また、安定剤の種類は検査結果に影響を及ぼす可能性もあります。
すべての検査キットで、16SリボソームRNA系統解析を用いてマイクロバイオームを解析していました。これは標準的な解析方法ですが、一部の細菌種を解析することができません。細菌はそれぞれ異なる数の16SリボソームRNAの複製を持っているので、実際のサンプル中の細菌数を決定するには正確なアルゴリズムを使う必要があります。そのため、検査を再度行うと、異なった結果になってしまう可能性もあります。また、検査の結果は比較に用いたデータベースの影響も受けます。各社は独自のデータベースを持っていますが、データ量は限られています。検査結果は常にデータベースと比較され、数値の調整を行うこともあります。マイクロバイオームの検査キットを利用する場合は、同じ国または少なくとも同じ大陸の企業の製品を選ぶことをお勧めします。例えば、ヨーロッパ人の平均的なマイクロバイオームは北アメリカやアジアの人のものとは大きく異なります。
検査結果の詳細は異なっていたものの、各社ともマイクロバイオームの構成について同じ傾向を結果として示していました。
1回目の検査では、マイクロバイオームの評価はエンテロタイプ2に近かったのですが、2回目の検査ではエンテロタイプ3でした(Biomes、TFTAK、Atlas)。これらのエンテロタイプは、被験者の食事内容と矛盾なく一致していました。3社(Biomes、TFTAK、Medivere)の製品で、2回目の検査時に炎症誘発性細菌(プロテオバクテリア)の割合が増加していました。また、すべての検査キットで、2回目の検査結果で細菌の多様性が増加するか、少なくとも現状のまま維持されていました。
推奨する食事内容は共通でした
- BiomesとThryveは似た内容のプロバイオティクス混合食を推奨していました。どちらも不足している細菌群または細菌種を補う特別な食事を提案しています。Biomesは新しく運用が始まったダッシュボードで詳細なPDFレポートを提供しています。その中でマイクロバイオームに合った食事レシピを紹介しています。解析したマイクロバイオームにとってどの栄養素が良いのかや、不足している栄養素を知ることができます。また、マイクロバイオームの構成が原因となって起こる可能性がある食事不耐症についても解説していました。
- Atlasは電子メールによって毎週おすすめの食事を知らせてくれます。
- Thryveではウェブサイトのダッシュボードで、どのような食事をすれば消化管の中でそれぞれの細菌の成長を促せるのか示しています。
すべての解析レポートで発症する可能性のある疾患を説明していました
すべての検査キットの解析レポートで、被験者のマイクロバイオームのバランスが失われると発症する可能性のある疾患について説明
- BiomesとAtlasは、マイクロバイオームのビタミン類の合成能について評価し、問題がある場合は指摘を行っています。また、ウェブサイトのダッシュボードで、カロリー利用率や炎症マーカー、腸管粘膜、便秘についてコメントしています。
- Thryveでは、疲労や不安、睡眠不足、皮ふ、体重の問題などの症状について言及し、これらの症状にマイクロバイオームがどの程度関わっているのか説明しています。ダッシュボード上で該当の項目をクリックすると、症状を改善するために必要な栄養素について知ることができます。
- Atlasではマイクロバイオームの乱れに相関している疾患 (2型糖尿病、肥満、小腸炎、動脈硬化症)をリスト化して、検査したマイクロバイオームの状態に基づく発症リスクを示しています。
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Medivereは診断と言えるほど詳細な健康レポートを提供してくれました。過敏性腸症候群、自己免疫疾患、神経疾患、代謝疾患のリスクを、マイクロバイオームのデータに基づいて評価し、消化管の細菌のさまざまな特徴について詳細に説明しています。
- TFTAKは検査で見つかった細菌に関して、善玉菌と悪玉菌を表で説明しています。また、検査サンプルの細菌を健康なエストニア人のサンプルで最も多い細菌と比較しています。比較によってどの細菌が不足し、どの細菌が多いのかを知ることができます。
結論
ヒトマイクロバイオームの科学はまだ黎明期にあります。それにも関わらず、マイクロバイオームが私たちの健康にどのような影響を与えているのかについて、はっきりと分かっていることも少なくありません。各社の検査キットの解析結果が異なっていたのは、検査キットの内容や解析に使われたデータベースが異なっていたことが原因ですが、結果に一定の傾向があったことも事実です。今回レビューを行った検査キットで、どの製品が最も優れていたのかを言うことはできません。ですが、腸の健康に問題を抱えている人にとって、また純粋に健康のために何かしたいと思っている人にとって、マイクロバイオームの検査キットはきっと役立ちます。
検査キットの解析結果で、低タンパク質と低脂肪の食事、つまり植物繊維が豊富な食事がマイクロバイオームの多様性を増やすと記載されていたことは共通でした。ただし、これはタンパク質と脂質をまったく摂取してはいけないことを意味するのではありません。すでにご理解頂いていると思いますが、それよりもできる限り未加工で新鮮な食べ物、できるだけ色彩豊かな食べ物を食べることが大切です。食事内容が多彩になるほど、マイクロバイオームの多様性は増します。
各社の検査キットはとても優れており、今後開発されるであろう新しい技術によって、より信頼できるものになることは確実です。一方で、マイクロバイオームの解析方法とサンプル採取の方法を標準化し、一致した結果を得られるようにすることは喫緊の課題と言えます!
MyMicrobiomeでは定期的にマイクロバイオーム検査キットのレビューを行い、最新の情報をお届けします。
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