1990年から年間1,600万人の死亡
バクテリオファージは抗生物質の素晴らしい代替薬なのですが、現時点では大勢の患者に提供することができません。バクテリオファージ治療を行う医療施設が世界中に設立され、治療に使えるバクテリオファージのデータが完成しなければ、現実の医療で広く使うことは難しいでしょう。現時点でバクテリオファージ治療を受けることは難しく、実現の可否は各国の規制当局や政治家、巨大製薬企業が変化を望むかどうかにかかっています。
2019年09月24日

現在、マイクロバイオームは大きなトレンドとなっており、私たちの体に住む細菌と私たちの健康の関係が日々明らかにされています。マイクロバイオームについて論じるとき、私たちは普段、マイクロバイオームがとても複雑な相互作用の一部分でしかないことを忘れてしまっています。マイクロバイオームの細菌構成は個々人の栄養、ライフスタイル、誕生したときの母系伝達、免疫の状態、そして遺伝子などの要因から影響を受けます。
とても嬉しいことに、私たちと共生している微生物たちが科学の研究対象となり、一般の方にも少しずつ認知され始めています。抗生物質治療や過剰な衛生によって、私たちは長年とても大切な友人たちに誤った扱いをしてきました。
ですが、ときにはマイクロバイオームだけが全ての物事に影響を与え、意図的にマイクロバイオームを操作することが可能であるかのように思われていることもあります。
最近のある研究によって、実際には話はそう単純ではないことが示されました。マイクロバイオームに関係する遺伝子が今までに想定されていたよりも大きな役割を果たしており、どんな種類の細菌が私たちの体に定着するかに影響していることが分かったのです。この研究を行ったグループは、新しく生まれたマウスにおいて、どの程度環境要因がマイクロバイオームの発達に影響を及ぼすのかを調査しました。環境要因には、誕生時の母親からの細菌の授受も含まれます。
実験では、遺伝的に異なるマウスを交配させ、遺伝的に同じ子供を誕生させました。遺伝的に異なる親マウスのマイクロバイオームは20%程度の差異がありました。ですが、遺伝的に同じ子マウスのマイクロバイオームはわずか3%の違いしかありませんでした。遺伝的に異なる2匹の親マウスから生まれた1匹のメスと1匹のオスを、遺伝的に異なる相手と交配させました(図示すると♀A♂Bペアと♀B♂Aペアとなります)。その結果、2グループの孫マウスが生まれましたが、どちらも遺伝的に異なる母親なのに、遺伝的傾向は同じだったのです。孫マウスは母親マウスとだけしか接触していないに関わらず、孫マウスのマイクロバイオームは母親のマイクロバイオームから影響を受けなかったのです。
しかし、これらのデータは、それぞれのマウスのマイクロバイオームを構成する細菌のごく一部でしかないことは言っておかなければいけません。なぜなら、全てのマウスのマイクロバイオームは非常に類似していたからです。また、子孫のマイクロバイオームの細菌構成は相互に非常に似ていたとは言え、わずかながらも決して無視できない母マウスからの影響も認められました。より大規模な研究を実施すれば、母マウスからの影響が明らかになるはずです。
この研究の結論は、遺伝的傾向が私たちのマイクロバイオームの細菌構成に強い影響を与えるというものでした。腸粘膜の構造、さまざまな代謝(例えば、胆汁酸分泌)、抗菌ペプチドや免疫寛容などが、人の体における細菌の定着を制御しています。
以上の発見は目新しいものではありませんが、今回の研究によって説が強化されたと言えます。このことは、マイクロバイオームが単純に永遠に変化しないということは不可能であることを示しています。マイクロバイオームはある程度環境に適応しますが、環境が変わればすぐに元の状態に戻ります。プロバイオティクスのみ、摂取し続けている間は変化を起こすことができます。食事の変化は細菌叢のバランスを変えますが、その変化はその食事を取り続けている間だけ保たれます。
従って、少なくとも部分的には、私たち自身の手によってどんな種類の細菌を増やすか決めることはできます。しかし、細菌の構成パターンの基礎は私たちの遺伝的傾向によって決まるのです。
2019年09月17日
薬剤耐性菌が脅威となっている現状を打開する技術が求められています。抗生物質の代替薬がなければ、傷からの感染や昆虫の咬傷が死を意味する時代が再びやってくるかもしれません。
抗生物質の代替薬はまだ十分には開発されていません。新しく改良された抗生物質だけが束の間の効果を発揮しています。しかし、ほとんど場合、すぐに薬剤耐性菌が現れてしまいます。ときには新しい抗生物質が販売される前に薬剤耐性菌が現れることもあります。
人類にとって本当に必要なのは、病気の原因となる細菌だけを標的として作用し、マイクロバイオームを傷つけることのない成分を持つ抗生物質です。細菌が薬剤耐性を獲得しにくい成分であれば理想的です。

ダプトマイシンとコリスチンはよく知られている抗生物質ぺプチドです。ダプトマイシンは2003年に導入された最新のぺプチドで、ブドウ球菌や腸球菌などのグラム陽性細菌に対して効果があります。
コリスチンは1959年に使われ始めましたが、腎毒性が強いため現在ではほとんど使われていません。アシネトバクターや緑膿菌、クレブシエラなどの高薬剤耐性を持つグラム陰性細菌に対する最後の手段として使われています。
これら二つの抗生物質ぺプチドはそこまで頻繁に使われているわけではありませんが、すでに薬剤耐性が発生しています。あるアメリカ人女性が亡くなった原因は、感染した細菌が最終手段であるコリスチンも含めた26種類の抗生物質に耐性を持っていたからでした。
他の抗生物質ペプチド(AMP)は、植物や哺乳動物において細菌やウイルスと戦うための防御機構として自然に産生されます。その薬効範囲は非常に幅広く、細菌やウイルスに対応してさまざまに変化します。
AMPの作用機序はまだ詳しくは分かっていません。AMPは細菌の細胞膜を崩壊させ、浸透圧を高めることで細胞の逸出や溶解を引き起こします。また、AMPは細胞内の標的と相互作用することで、細胞代謝に干渉している可能性もあります。
AMPを使用する際の大きな懸念は、薬効範囲が広いにも関わらず薬剤耐性が発達することです。特に、AMPが自然免疫系に由来している場合は、定期投与のリスクが大きくなります。自然免疫系由来のペプチドを頻繁に投与して薬剤耐性菌が発生すると、この耐性菌は人間の免疫系に対して耐性を持っていることになるため、非常に危険です。感染症が抗生物質で治療された後、次に何が起こるのかはもうお分かりだと思います。

ペプチドが抗生物質の抱える問題の解決策でないことは明らかです。
では他に何が残されているのでしょうか?

「敵の敵は味方」
バクテリオファージは細菌だけを攻撃するウイルスです。外部環境中や植物や哺乳動物の体内など、細菌がいる場所であればどこにでも存在しています。数十億年の間、バクテリオファージは細菌とともに進化してきました。バクテリオファージは細菌に対して非常に選択的に作用します。溶菌性ファージは細菌のDNAに感染し、細菌が新しいバクテリオファージを生み出すように再プログラムします。十分な数のバクテリオファージが生み出されると、今度はバクテリオファージのDNAからエンドリシンと呼ばれる「ハサミ」がつくられ、細菌の細胞壁を切り崩してしまいます。細胞壁が崩れた細菌が破裂すると、バクテリオファージは再び自由に動き出します。そして次の標的となる細菌に向かい、すべての細菌が死滅するまで同じプロセスを繰り返します。標的となる細菌が存在しなくなると、バクテリオファージは体外に出ていくか、新しい細菌が現れるのを待ち構えます。
1. バクテリオファージは非常に選択的です。「選択的」とは感染症を起こす細菌とだけ戦い、他の善玉共生菌は攻撃しないことを意味します。
2. バクテリオファージは標的となる細菌すべてが死滅するまで増殖を続けます。
3. バクテリオファージは人間の体の細胞を攻撃しないため、副作用が起こりません。
4. バクテリオファージは簡単に産生することができます。
ファージセラピーはフランスで1917年にフェリックス・デレーユという人が始めました。今日でも東ヨーロッパの一部で行われています。ジョージアのトビリシでは、デレーユとジョージ・エリアヴァによってファージ治療の施設(設立者にちなんで「エリアヴァ」と呼ばれています)が設立されました。現在でも、エリアヴァでは患者がファージ治療を受けており、成功を収めています。
それには理由がいくつかあります。
1. 現在では抗生物質が使われているため、代わりとなる治療法が必要とされていない。誰も抗生物質が人間の体に及ぼす危険性に気付いていない。
2. 製薬会社がバクテリオファージに関心を持っていない。バクテリオファージは自然発生するものなので特許を取得することができず、製薬会社は大きな利益を得ることができない。
3. バクテリオファージに対する耐性が非常に早く発生する。ただし、各々の細菌に対して10タイプのバクテリオファージが存在するため、耐性の発生は問題ではありません。問題は、感染を引き起こす細菌と戦うバクテリオファージを見つけなければいけないことなのです!
敗血症や急性呼吸器感染症のような重篤な感染症では、感染源の細菌株をすぐに特定する必要があり、時間がかかることは大きな問題となります。また、複数の細菌株によって引き起こされる感染症も、適切なマイクロファージの組み合わせを見つけるために時間がかかります。
4. バクテリオファージは感染源の細菌のDNAを「利用」しますが、これは望ましくない影響を与える可能性もあります。例えば、比較的害の少ない大腸菌を危険な腸管出血性大腸菌に変化させてしまう可能性があります。
バクテリオファージ治療は個々の患者に合わせたオーダーメイド治療です。新しい医薬品の承認には数年の時間と数億円の費用がかかります。ヨーロッパやアメリカの規制当局で適切な承認プロセスを受けていては、患者にとって意味のある治療を行うことは不可能です。
東ヨーロッパではバクテリオファージ治療の膨大な量の経験が蓄積されているのですが、蓄積されたデータは西側諸国の保健医療の基準を満たしていません。したがって、現時点ではこれらのデータはヨーロッパや米国の規制当局から承認を得るのには役立ちません。バクテリオファージ治療は、一般的に利用可能な他の薬剤(抗生物質)で効果が得られなかった場合にだけ、オーダーメイド治療として利用できます。それ以外には、ジョージアのトビリシまで行くしかありません。

バクテリオファージからエンドリシンの話に移りましょう。 エンドリシンは、バクテリオファージが細菌の中で増殖したのち、細菌の細胞を溶解するために用いる道具です。20世紀初頭にエンドリシンの研究が盛んになりました。エンドリシンは細菌の細胞外皮を切り落とし、細菌を溶解させます。バクテリオファージは細菌を内部から分解しますが、バイオ技術によって生産されたエンドリシンは細菌の外部からも細菌を攻撃します。これは特に黄色ブドウ球菌や腸球菌などのグラム陽性細菌に効果的です。これらの細菌の持つ細胞壁は外部から容易に接触できるからです。対照的に、外部膜層を持つグラム陰性細菌の細胞壁はエンドリシンに対して強固です。
エンドリシンは効果的かつ選択的に素早く作用し、マイクロバイオームを傷つけることがありません。また、高度薬剤耐性菌や慢性感染症の休眠中の(常在)細菌にも効果があります。
エンドリシンの有効性はすでに複数の動物モデルや食品への応用で示されています。
地球上に存在するすべての細菌それぞれに対して10タイプのバクテリオファージが存在し、各々のバクテリオファージは特有のエンドリシンの遺伝子を有しています。このことは、地球上のすべての細菌に対して、それらを排除するためのエンドリシンが存在していることを暗示しています。
エンドリシンには以下の利点があります。
すでに触れたとおり、エンドリシンの難点の一つはグラム陽性細菌にだけ効果があることです。頻繁に現れる薬剤耐性菌は、緑膿菌やアシネトバクター・バウマニ、クレブシエラ・ニューモニエなどのグラム陰性細菌なのです!
従って、エンドリシンは抗生物質の代替薬として優れているのですが、すべての問題を解決してくれるわけではありません。
私たちには新しいエンドリシンが必要です。
新規エンドリシン®は合成抗菌タンパク質です。基本的な作用機序はエンドリシンと同じですが、生体工学的に改良されており、作用範囲が広くなっています。ペプチド部分が追加された新規エンドリシン®はグラム陰性細菌の外膜を通過し、細胞壁まで到達することができます。そして細胞壁を不安定化させ、細胞内圧(浸透圧)を高めることで細菌の溶解と破裂を引き起こします。内圧の高い車のタイヤに針を突き刺すことを想像してみてください。新規エンドリシン®は細菌に対して同じようなことを行います。このように、新規エンドリシン®はエンドリシンと同じ特徴を持つだけでなく、エンドリシンでは対処できない多剤耐性グラム陰性細菌に対しても有効です。また、複数の例において、新規エンドリシン®はグラム陽性細菌に対してもより効果的でした。
新規エンドリシン®は2009年から世界中の科学者によって開発が続けられています。その新しい分子構造はグラム陽性細菌とグラム陰性細菌の両方に対応しています。また、新規エンドリシン®の基本的な構造はエンドリシンと同じですので、科学者たちは各々の細菌に合わせて理論的に新規エンドリシン®を作ることができます。
新規エンドリシン®は私たちの要求を完全に満たしています。選択的に作用するため、マイクロバイオームを守ることができます。また、あらゆる種類の細菌、多剤耐性菌に対しても有効です。新規エンドリシン®は非常に堅固な細胞構造も攻撃することができるため、細菌が耐性を獲得することは非常に困難です。
新規エンドリシン®はポスト抗生物質の時代に生きる私たちに希望を与えてくれます。
現在、非常に有効な3つの抗生剤があります。いずれも現在主流の抗生物質の代替薬となる可能性があり、また抗生物質よりも効果的かつ安全です。これまで見てきた、バクテリオファージ、エンドリシン、新規エンドリシン®の3つです。
バクテリオファージは抗生物質の素晴らしい代替薬なのですが、現時点では大勢の患者に提供することができません。バクテリオファージ治療を行う医療施設が世界中に設立され、治療に使えるバクテリオファージのデータが完成しなければ、現実の医療で広く使うことは難しいでしょう。現時点でバクテリオファージ治療を受けることは難しく、実現の可否は各国の規制当局や政治家、巨大製薬企業が変化を望むかどうかにかかっています。
エンドリシンはとても効果的ですが、すべての細菌に効くわけではありません。特に人間にとって最も脅威の大きいグラム陰性細菌に対して有効性を欠いています。
新規エンドリシン®はエンドリシンの利点を持ち、さらにあらゆる細菌に対して効果があります。抗生物質の代替薬として現時点では最適です。多くの患者に提供することができ、製薬会社は十分な利益を上げることができます。規制当局から承認を得る必要もありません。細菌が薬剤耐性を獲得するには長い時間がかかります。新規エンドリシン®によって、マイクロバイオームは抗生物質乱用の100年間に受けてきたダメージから回復できます(少なくとも子供や孫たちのマイクロバイオームは)!
以下の表に抗生物質の代替薬の候補をまとめました。いずれも細菌感染症の治療に用いられることが証明されています。特に今後の発展に重要な特徴について評価しました。
2019年09月17日
マイクロバイオームは「オーガニック」や「ナチュラル」、「ヴィーガン」などと並ぶ、持続可能な環境・社会を目指すムーブメントの最新トレンドです。このトレンドは食品業界と化粧品業界にしっかりと定着しています。現代の意識的な消費者は、購入する商品が高品質かつ健康的で、持続可能性に配慮したものであることを求めています。私たちはこの素晴らしいムーブメントの理念を共有します。

マイクロバイオームの研究は各国で行われています。健康なマイクロバイオームを養うさまざまな商品が、市場に溢れるようになるまでに長くはかからないでしょう。私たちは細菌やライセート(死んだ細菌の溶解液)を含んだ製品を突然目にすることになります。また、マイクロバイオーム製品の広告・宣伝(科学的根拠のないものも含めて)も無数に耳にすることになります。日々の生活で使うものに関しては、少なくともマイクロバイオームを傷つけるものではないことが求められます。
消費者は、製造メーカーがマイクロバイオームに配慮した化粧品やスキンケア商品を販売していると信じることしかできません。マイクロバイオームを考慮せずに開発された製品は、私たちの小さな友人である共生細菌にどのような影響を与えるのか分かりません。また、抗菌成分を含んだ商品が一体どのくらい販売されているのかも知る由はありません。制汗剤やクリーム、リップスティック、石鹸、歯磨き粉、マウスウォッシュなど、日常で使う製品のすべてにこのような不安がつきまとっています。
この不安な状況はもう終わりにしましょう。健康に意識的な消費者が商品を選ぶのをお手伝いするために、MyMicrobiomeは世界初のマイクロバイオーム・フレンドリー認証制度をつくりました。Microbiome Standard 18.10です。化粧品とスキンケア製品を綿密に検査し、皮ふと粘膜のマイクロバイオームに与える影響を調査しました。検査に合格した製品だけが「マイクロバイオーム・フレンドリー」であることを示すシールを張ることができます。
MyMicrobiome Standard 18.10は皮ふや粘膜に何らかの影響を与える製品を評価するための基準です。胴体や口、足、頭皮など、人間の体のさまざまな場所に使う製品が対象となります。具体的には、石鹸、シャワージェル、制汗剤、クリーム、オイル、血清、歯磨き粉、マウスウォッシュ、化粧品、パウダー、シャンプー、鼻腔用スプレーなどです。
認証検査では化粧品やスキンケア商品が皮ふのマイクロバイオームに与えるさまざまな影響を調べます。
病原菌や菌類の汚染はないか?
製品を使う場所に生息している細菌の成長に悪影響を与えないか?
製品を使ってもマイクロバイオームの多様性は保たれるか?
人間を守る細菌の成長を抑え、逆に有害な細菌の成長を助け、皮ふの細菌叢のバランスを乱すことはないか?
これらの検査項目はグレード1から3で評価されます。平均グレードが2以下で合格となります。可能な場合には、製造メーカーに「マイクロバイオーム・フレンドリーな」(または、よりマイクロバイオーム・フレンドリーな)製品をどのように開発すれば良いのかアドバイスを提供します。
結論を言えば、日常生活で使う化粧品やスキンケア製品で、皮ふのマイクロバイオームに悪影響を与えないものが認証を受けることができます。マイクロバイオームに良い影響を与える商品であればもっと理想的です。
すべての検査に合格し、マイクロバイオーム・フレンドリーな製品として認証されると、「マイクロバイオーム・フレンドリー」認証シールを貼ることができます。

マイクロバイオーム・フレンドリーと認証された商品を
定期的にご報告します。
2019年09月16日

食品業界が砂糖の代替品を探し求めてから数十年が経過しています。砂糖は食品の味を良くします。ある研究によれば、人間が砂糖を美味しいと感じるのは、母乳の優しい甘さに似ているからと言われています。また、甘い果物の多くは食べることができますが、苦みのある植物には毒のあるものも少なくありません。苦みは植物が身を守るための手段で、食べようとする生き物に警告を与えるためのものです。ある試験結果によると、食品が多くの砂糖を含んでいるほど、人間はその食品を好むことが分かっています。チョコレートだけでなく、ケチャップでも同様です。そうならば、食品メーカーが消費者の好みに応え、ライバル企業に勝つために、商品に砂糖を加えるという安上がりな手段を見逃さないわけがありません。
もちろん、砂糖の摂り過ぎが健康に良くないことは、科学の理論としても、個人の経験としても目新しいことではありません。そのため、消費者は「ノンシュガー」と記された製品を好みます(この話題に関して、「アメリカに移民すると肥満になる可能性が高まり、マイクロバイオームが変化する」の記事を読むことをお勧めします)。その結果、食品メーカーは、本物の砂糖を使わず、甘味料を代用することで食品に甘みをつけるようになっています。しかし、甘味料が無害か健康に良くないのかについては、いつものように議論が分かれています。長い間、人工甘味料は健康に良くないと考えられており、人工甘味料を含む食品はスーパーマーケットでは少ししか取り扱われていませんでした。しかし、最近公表されたローバッハらの研究は、甘味料には問題がないと結論しています。LoCarb NoCarb Sweeteners (LCNS)という甘味料は人間の消化管マイクロバイオームに無害で、規制機関に承認された量では安全であるとされています。
研究を再検証すると、試験結果を再現することはできませんでした。ローバッハの主張は誤りです。甘味料は消化管マイクロバイオームを傷つけます。通常の量で摂取した場合もです。
研究ではそれぞれ10匹のラットからなる5グループを調査しています(ラットは米国FDAによって、人間の消化管マイクロバイオームと比較可能な種であると認められたものです)。12週の間、それぞれのグループのラットに体重1kgあたり1.1mg、3.3mg、5.5mg、そして11mgのスクラロース(人工甘味料)を与えました。比較グループには通常の飲料水が与えられました。ラットの糞便サンプルを毎週採取し、ビフィズス菌、乳酸桿菌、バクテロイデス、クロストリジウム、好気性菌、嫌気性菌を分析しました。合計で4200回の測定を行っています。結果は、先行研究でも示されたように、マウスの消化管細菌が減少するというネガティブな副作用を示すものでした。
スクラロースを与えた12週間の実験が終わった後も、マウスの消化管マイクロバイオームは実験前の多様性の大きさを完全に取り戻すことはできませんでした。別の調査では、平均体重の人が1日1杯のソフトドリンクを飲むと、心血管疾患、メタボリックシンドローム(2型糖尿病)、過剰な体重増加のリスクが上昇することが証明されています。試験参加者は、インシュリン感受性の低下に伴って、インシュリン分泌が増えました。この試験結果と先行研究を考慮すると、ローバッハたちの研究が誤っていることが証明されます。スクラロース(ほぼすべての人口甘味料で使われています)は明らかに消化管マイクロバイオームを傷つけるものです。ローバッハたちの研究が誤っていた理由の一つとして考えられのは、人口甘味料の製造企業によって出資されている貿易グループから資金提供を受けていたことです。
不安に思う消費者の方は、どの研究が正しいのか、また砂糖や人工甘味料は取った方が良いのか疑問に思うでしょう。正直なところ、エンドユーザーである消費者の方にどの研究が信頼できるものなのか伝えることは難しいです。なぜなら、研究の資金提供源について常に公開されているわけではないからです。砂糖や人工甘味料が健康に良いものなのかどうかに関しては、マイクロバイオームの研究者は決してそれらを推奨したいとは思わないはずです。なぜなら、砂糖には健康にネガティブな影響もあるからです。従って、私たちは工業的に製造された加工食品を避け、家庭で調理した新鮮な食べ物を食べることをお勧めします。また、砂糖や甘味料を含む食事を欲さないように、味覚を慣らしましょう。
2019年09月13日

マイクロバイオームは免疫系を強化するというとても重要な役割を担っています。
自己免疫疾患の多くは、免疫系のバランスが乱れた結果として起こります。1型糖尿病や関節リウマチ、喘息のような自己免疫疾患が増えているのは、人間の体を取り巻く環境が変化しているからだと推測している人もいます。偏った食事や抗生物質の多用などの環境要因、帝王切開や消毒剤の乱用、兄弟姉妹が少ないなどの理由によって、マイクロバイオームの多様性が減少してきました。
その結果、ディスバイオーシス(マイクロバイオームの乱れ)が起こり、体の中の細菌群のバランスが乱れ、細菌と言う免疫系の「トレーナー」がコントロールを失ってしまいます。こうなると人間の免疫系は良い細胞と悪い細胞を区別することができず、自分の体を攻撃し始めてしまいます。これが自己免疫疾患やアレルギーと呼ばれるものです。
2019年09月13日

あなたは直観に従いますか(英語の格言、直訳すると「腸の感覚に従いますか」)?この古い格言には、人々が想像する以上に多くの真実が含まれています。
腸は人間の感覚に影響を及ぼします。また、脳は脳腸相関を通じて消化管を制御しています。そして、この連携の多くにマイクロバイオームが関わっているのです。
消化管と脳をつなぐ最も重要な経路が迷走神経です。迷走神経は唾液分泌、心臓の鼓動や消化を制御しています。逆に言うと、消化管は脳に「満腹している」と伝え、リラックスしているときには心臓の鼓動を抑えるといった役割を担っています。迷走神経が受け取るメッセージは、消化管のマイクロフローラの代謝物や免疫・ホルモン細胞のメッセンジャー物質に由来しています。そして、消化管の免疫細胞やホルモン細胞由来のメッセンジャー物質は、消化管マイクロバイオームの働きに依存しています。腸からのメッセージが脳に届けられるもう一つの経路は血液で、何十万もの細菌代謝産物が体の中を駆け巡っています。
マウスを用いた実験によって、消化管の細菌と脳の関係が証明されています。大人しいマウスの消化管の細菌を情緒不安定なマウスに移植すると、情緒不安定なマウスの恐怖の感情がおさまることが分かっています。また、これまでにヨーグルトやプロバイオティクスの摂取が人間の気分に良い影響を及ぼすことが示されています。これらを考慮すると、将来的には憂鬱に苦しむ患者の消化管マイクロバイオームをスクリーニングし、不足している善玉菌を食事として与えるというようなことが行われるかもしれません。その時が来るまでは、健康な食事を心がけましょう!
2019年09月13日
感染症の死亡率が低下しているとは言え、病原菌と寄生虫による死亡数は緩やかにしか減っていません。1990年には年間1,600万人の死者数でしたが、2010年の死者数は年間1,500万人です。死亡数は1年に1%しか下がっていません。
世界保健機関(WHO)は、何らかの対策が取られなければ、2050年までに感染症によって1,300万人が死亡し、さらに薬剤耐性菌の感染によって世界で1,000万人が死亡する(これは現在のがんの死者数よりも多い数です)と予測しています。これらの死者の大半はわずか数種類の病原菌が原因となります。
1990年から年間1,600万人の死亡
2010年までに年間1,500万人の死亡
薬剤耐性菌が発生し、新しい抗生物質が開発されていないため、感染症による死者数の減少にブレーキがかけられています。過去50年間で、新しい抗生物質はわずか二種類しか開発されませんでした。ブドウ球菌と他のグラム陽性細菌(以前から耐性が存在)に対する抗生物質です。
過去には抑制されていた結核が、非常に薬剤耐性の高い結核菌株を伴って再流行しています。

バランスを保って宿主と共存している病原菌にはほとんど害はありませんが、ときに慢性感染症を起こすことがあります。慢性感染症を起こす細菌は「休眠」することができ、生息するための空間さえあれば長い期間生存することができます。分裂や代謝を行わないため、抗生物質さえ効きません。このような細菌は宿主の免疫系が弱ったときにだけ目覚め、病気を引き起こします。
そうなると、急性感染症を起こす可能性が出てきます。急性感染症は、急速で劇的な発症が特徴的です。最も危険な急性感染症は呼吸器感染で、特に発展途上国の子供で死亡率が高くなっています(2002年で死者数400万人)。次に死者数が多いのがHIVの慢性感染症と急性感染症による下痢です。

特に危険な高度薬剤耐性細菌は病院で見つかっています。このような薬剤耐性細菌、例えば緑膿菌は弱った免疫系につけ込み、患者を死亡させます。毎年ヨーロッパだけで250万例の感染症が病院で起こっており、9万人の死者が出ています。患者は感染症と戦い、感染症を予防するために抗生物質を使用します。その結果、自分を守ってくれるマイクロバイオームを破壊し、さらなる薬剤耐性を引き起こしてしまいます。そして、最終的に宿主(人間)を死に至らしめるスーパー耐性菌を生み出すという悪循環に陥ってしまいます。最後には、患者の弱った免疫系はスーパー耐性菌に抗うことができず、利用できる有効な抗生物質も残されていません。
マイクロバイオームが傷ついていない健康な人では、病原菌の「大群」(ほとんどの場合はウイルスか細菌)に襲われたときにしか感染は起こりません。健康な人が大量の病原菌に感染すると、免疫系とマイクロバイオームが感染症と戦うために総動員され、宿主(人間)は戦いが終わるまでの間ベットの上で苦しむことになります。
免疫不全となっていたり、マイクロバイオームが傷ついている人たちは、ごくわずかな細菌やウイルスだけで感染が起こってしまいます。感染を引き起こす細菌はすでに体内にいるものかもしれません。HIVや自己免疫疾患、がんのような慢性病に苦しんでいる人は免疫不全に陥っていることが多くなっています。子供や妊娠した女性、高齢者も同様です。また、数週間から数か月前に抗生剤治療を受けて一度は感染症から回復したものの、抗生物質によってマイクロバイオームが傷ついてしまった人も免疫も弱っています。

そう、抗生物質は初期の急性感染症を治療することはできるのですが(感染症が細菌によって引き起こされた場合)、同時にその後で侵入してくる病原菌を防ぐ力を弱めてしまうのです。抗生物質は、病原菌の侵入に対して最大の盾となる善玉共生菌も排除してしまいます。マイクロバイオームが傷ついていない人では、感染症が起こるためには数十万もの細菌が侵入する必要があります。しかし、抗生物質治療を受けた人ではわずかな数の細菌でも重篤な感染症が起こってしまいます。この現象はマウスの実験だけでなく、人間でも観察されています。
1950年代、 マージョリー・ボンホッフとC. フィリップ・ミラーは、マウスの腸管微生物叢を調査する実験を行っているときにこの現象を確認しました。彼らは、人間に重い下痢を引き起こす病原菌のサルモネラ菌をマウスに感染させました。健康なマウスに感染を起こすためには、10万もの細菌を感染させる必要がありました。一方、第二群のマウスには、感染を起こさせる前に抗生物質(ストレプトマイシン)を投与しました。すると数日後にはサルモネラに感染したのです。あらかじめ抗生物質を投与したマウスを感染させるためには、わずか3つの細菌で十分だったのです。3万倍の違いです!科学者たちはこの問題をさらに調査し、他の抗生物質でも同じ結果となることを確認しました。実験の数週間前に抗生物質を投与していた場合でも、感染を起こすにはわずかな数の細菌で十分だったのです。
2019年09月13日

抗生物質関連下痢症は、体の細菌生態系がバランスを失ったときに起こる疾患として知られています。消化管の細菌生態系は、抗生物質によって弱ってしまいます。その結果、消化管は病原菌と戦うために必要な武器と健全に消化を行うために必要な道具、つまり善玉菌の多くを失ってしまいます。善玉菌がいなくなって剥き出しとなった腸壁は、病原体が定着するには最適な場所です。クロストリジウム・ディフィシルと呼ばれる細菌は最も数が多く、最も危険な病原菌の一つです。この細菌は二種類の強力な毒素を放出して腸の粘膜を傷つけ、結腸に炎症を起こします。

消化管の微生物組成は人間の食欲と脂肪の沈着に影響します。
胃に生息する細菌、ヘリコバクター・ピロリ菌のおかげで、人間は空腹と満腹を感じることができます。ピロリ菌は胃の酸性度を調整し、食欲調整に関わるホルモンのグレリンを減少させます。胃の中にピロリ菌が生息していないとグレリンの分泌量が増え、食欲が増大してしまいます。不幸なことに、ピロリ菌は過去数十年の間、過敏症の人々に消化性潰瘍を引き起こす病原菌と見なされていました。そのため、抗生物質によってピロリ菌は多くの人の胃の中から根絶されています。例えば、米国の2~3世代前では80%の人がピロリ菌を保有していました。今ではアメリカ人の子供のわずか6%以下しかピロリ菌を保有していません。このことは米国において子供の肥満が増えている一つの原因と考えられています。同時に、過去には珍しかった食道がんが10倍に増えています。
腸内フローラの構成は人間が食べ物から得るカロリー量にも影響します。かつて食料が貴重だった時代には、食べ物からより多くの脂肪を体内に貯蔵できるマイクロバイオームを持った人間の方が、より大きな生存のチャンスがありました。現代ではいつでも食料が手に入るため、そのようなマイクロバイオームは肥満を起こしてしまいます。二人の人間が同じ量の食べ物を食べて肥満になるかスリムなままでいられるかは、マイクロバイオームが炭水化物からどのようにエネルギーを得ているかによって決まります。
また、食事の内容も消化管マイクロバイオームに影響を与えます。植物由来の炭水化物を多く摂取している日本のような国に住む人々の例を見ると、消化管細菌の多くが植物性炭水化物を分解できることが分かります。また、高脂肪食品を摂取すると消化管マイクロバイオームの細菌の数が減り、急速に脂肪を沈着させる細菌の成長を促してしまいます。

マイクロバイオームは消化管間質腫瘍とも相関しています。がんを引き起こすのはマイクロバイオームではありません。人間の食べ物が原因となって、有害な細菌が腸に定着するのです。特に欧米の食事(肉と脂肪の摂取量が多く、野菜の量が少ない)は、特定の酵素と胆汁酸を生成する細菌の増殖を促します。これらの酵素は、人間に無害な化合物をヘテロサイクリックアミンのような発がん物質に変えてしまいます。ヘテロサイクリックアミンは焼いた肉にも付着しています。無害な化合物が求電子性誘導体という有害な物質に変わるとDNAが傷つけられ、結果的にがんを引き起こしてしまいます。1日1個のりんごを心がけましょう。
炎症性腸疾患(IBD)という病気は、ある一種の細菌が他の種の細菌にどれだけ依存しているのかを示しています。IBDは消化管の慢性的な再発性の炎症で、粘膜損傷を引き起こします。通常、健康な人の消化管ではフィルミクテス門とバクテロイデス門の細菌が優勢です。IBD患者ではこれらの細菌の割合が減っています。フィルミクテス門が少ないと、クロストリジウム種(IXaおよびIV群)の数が減ってしまいます。クロストリジウム種は、酪酸を放出して炎症誘発性サイトカインレベルを低下させる細菌です。また、IBD患者ではバクテロイデス・フラギリスも減少しますが、この細菌は制御性T細胞を活性化し、炎症性T細胞が活発化しすぎないように抑制しています。要するに、免疫系を抑制している細菌が炎症性腸疾患によって減ってしまうと、免疫系が過剰に活性化して自らの細胞を攻撃してしまうのです。
2019年09月12日
抗生物質以外にも、私たちは日々の生活の中でさまざまな抗菌剤を使っています。
毎日使っている製品を見直してみてください。

これらの製品はすべてトリクロサンや銀、アルミニウムなどの抗菌成分を含んでいます。抗菌成分はどんな種類の細菌やウイルスでも攻撃してしまいます。つまり、善玉菌も攻撃してしまうのです。それだけでなく、重篤な副作用を引き起こすこともあります!
トリクロサンは乳がんのリスクを高める疑いがあります。母乳からも検出され、ホルモンに影響を与えます。米国ではFDAによって禁止されていますが、ヨーロッパでは禁止されていません。アルミニウムは塩として添加された場合、乳がんの原因となるだけでなく、アルツハイマー病との関連も疑われています! ナノ粒子として加えられたときの副作用はまだ分かっていません。

化粧品やスキンケア用品を使ったり購入する前には、成分をよく注意して確認してみてください。
また、手を洗うときには普通の石鹸で十分です。いつも抗菌石鹸を使う必要はなく、消毒剤を使う必要もありません(医療機関などで働いている場合を除きます)。
最近、著者は口内に善玉菌を増やす歯磨き粉の宣伝を目にしました。この歯磨き粉を使ってみたら、また感想をご報告します!
2019年09月12日
1928年にアレクサンダー・フレミングがペニシリンを偶然に発見したとき、抗生物質は「薬物治療の黄金時代」の到来を予告しました。以降、この特効薬は数百万人の命を救ってきました。抗生物質は薬物治療と人間の健康のあり方を根本的に変化させました。髄膜炎や心内膜炎、結核や産褥熱といった致死的な病気が治療できるようになったのです。

外科手術も安全になりました。手術前に抗生物質を投与することで、術中に感染する可能性のある感染症が予防できるようになりました。感染症に罹った場合にも、抗生物質は効果を発揮します。
今日では、外科手術の感染症、肺感染症やチフスによって患者が死亡しないことは当然のこととされています。
A・フレミングがペニシリンを発見したとき、彼はすでに薬剤耐性について警告していました。抗生物質を使う場合は十分注意するべきです。抗生物質が存在するところには、耐性遺伝子も存在するからです。細菌の多様性は増大し、常に環境に適応してきたということ、細菌は地球上で10億年以上も生存してきたということを忘れないでください。細菌は適応の達人なので、抗生物質にも適応します。抗生物質の使用が拡大すればするほど、薬剤耐性菌も増えていくでしょう。
しかし、フレミングの警告は受け止められませんでした。ペニシリンの発見から90年後の現在、私たちは「ポスト抗生物質の時代」に直面しています。薬剤耐性菌は世界中に拡大しています。既存の抗生物質すべてに対して薬剤耐性菌が知られており、完全に効果のある抗生剤は残されていません。それだけでなく、スーパー耐性菌と呼ばれる、あらゆる種類の抗生剤に耐性を獲得した細菌も現れました。きっと、この細菌にだけは感染したくないと思うことでしょう。
…細菌の細胞壁合成を阻害する。細菌が細胞壁を合成できないと、分裂することができず、結果的に増殖することができません。無傷の細胞壁がなければ、細菌は自滅してしまいます(アポトーシス)。
…細菌のタンパク質生合成を阻害する。例えば栄養素の生成、細胞壁の合成や再生など、タンパク質は細菌の生存に不可欠です。
…細菌のDNA複製を阻害する。細菌が増殖することができなければ、宿主にとって大きな脅威とはならず、宿主の免疫系が細菌を常に監視できます。
細菌は抗生物質の結合標的を変え、活発に抗生物質を細胞外に排除し、抗生物質の分子を破壊・変形することで、抗生物質に対抗します。

薬剤耐性の仕組みは、細菌のDNAに遺伝子として保存されています。細菌は自ら遺伝子を変えることができます。ある抗生物質の薬剤耐性を持つ細菌が、また別の抗生物質の薬剤耐性を持つ細菌と出会うと、細菌の間で「セックス」が行われ、複数の抗生物質に対して薬剤耐性を持つスーパー耐性菌が生まれます。

薬剤耐性菌の多くは病院に集中しています。最も危険なスーパー耐性菌もまた病院で発生します。また、地球上で南に行けば行くほど、多くのスーパー耐性菌に遭遇します。南ヨーロッパ、南アフリカ、アジアやインドでは、抗生物質の乱用が北部に位置する国よりも多くなっています。また、これらの国々の多くで、病院の衛生水準を高めるための資金が不足しています。
最も多くの抗生物質が使われるのは、人間の医薬品ではありません。動物飼料における抗生物質の消費量は人間の医薬品の2倍になります。抗生物質は感染症の治療目的だけでなく、家畜の成長促進のためにも数多く使われているのです!家畜を成長させるために投与されたわずかな量の抗生物質が、薬剤耐性菌の拡大を引き起こしています。
また、抗生物質を製造する工場での無責任な取り扱いにも薬剤耐性菌拡大の原因があります。一部の工場では、廃棄物が河川に投棄されています(この恐ろしい話についてはこちらの記事(英語)をお読みください)。

抗生物質はとても緩やかなスピードでしか分解されません。使われた抗生物質はいずれ環境中(土壌、河川、植物)に戻っていきます。一方で、海外旅行や国際ビジネスは最も危険なスーパー耐性菌を世界中に拡大させています。
このことは地球に住む私たち全員にとっての懸念です。
これまでの話を聞いて恐怖を感じた方もいると思います。ですが、さらに恐ろしい話があります。私たちはまだ抗生物質とマイクロバイオームについて話をしていません。
3日から5日、症状が続く尿路感染症に抗生物質を使ったとしましょう。ちゃんとした方であれば、医師の指示に従って5日間ずっと抗生物質を服用するはずです。この5日の間に何が起こっているのでしょうか?処方されたのは、おそらく膀胱の大腸菌を攻撃するシプロフロキサシンだと思います。しかし、シプロフロキサシンは膀胱に直接投与されるわけではありません。口から飲むものです。そして、この抗生物質の錠剤は、膀胱に到着してから作用するわけではありません。シプロフロキサシンは消化管や、この薬を運ぶ血液が通る全ての場所で大腸菌を攻撃します。この抗生物質の働きは、ただ大腸菌を排除するということだけです。シプロフロキサシンは広域抗生物質です。つまり、この抗生物質が消化管に到達すると、そこでほとんどのグラム陰性細菌やグラム陽性細菌を排除してしまいます。大半の細菌が死滅し、非薬剤耐性の共生菌はいなくなってしまいます。その一方で、薬剤耐性を持つ共生菌は抗生物質を吸収してしまうのです。薬剤耐性菌はその後数年間とどまり続け、接触した全ての細菌に薬剤耐性遺伝子を共有します。
数か月後、あなたは家族のために調理した鶏肉からいくらかサルモネラ菌を取り込むかもしれません。消化管のマイクロバイオームはまだ弱った状態なので、わずかな数のサルモネラ菌でも重篤な下痢を引き起こすには十分です。マイクロバイオームが弱っているので感染を防ぐことはできません。しかも、マイクロバイオームが回復するにはまだ時間がかかるのです。数か月かかるかもしれませんし、数年、あるいは永遠に元に戻らないかもしれません。
これは本当に恐ろしい話です。
抗生物質の乱用は薬剤耐性菌を世界的に拡大させるだけでなく、近い将来、抗生物質を役に立たないものにしてしまいます。さらに、抗生物質はヒトマイクロバイオームを弱らせ、次の感染を起こしやすくしてしまいます。こうなってしまうと、次に感染症に罹ったときには、それが強力な薬剤耐性菌でないことを祈るしかありません。

私たちは目を覚まさなければいけません!
未来の世代のために、抗生物質を効果のある医薬品として残すことは、私たちが果たさなければいけない義務です。また、マイクロバイオームを守るためにも、必要なときにだけ抗生物質を使うようにしなければいけません。
解決方法はとても簡単です。抗生物質を使う前によく考えてください。ウイルスによって感染が起きたのであれば、抗生物質を使ってもあまり効果はありません。
抗生物質の予防的投与は、感染のリスクが副作用のリスクよりも大きいときにだけ検討されるべきです。個人個人が抗生物質に過剰に頼るという習慣をやめられるなら、政治家の助けを借りることなく多くの変化を起こせます。
しかし、実際には、多くの関係者や政治家の協力がなければ実現できません。スーパー薬剤耐性菌に対処するためには、国際的な対策ネットワークと人々への啓蒙が必要です。世界規模の資金投入を行って病院の衛生環境を向上させ、新しい抗生物質の研究開発を行うことが求められます。
しかし、現実を受け入れましょう。このような動きは決して期待できません!そうなるといずれ手遅れになります。スーパー耐性菌は人間との戦いに勝利をおさめるでしょう。

自分たちや子供たち、孫たちの未来のために正しいことを行えるかどうかは、私たち自身にかかっています。
免責事項:このサイトやブログの内容は医学的助言、診断や治療を提供することを意図したものではありません。