消化器の疾患とマイクロバイオーム、腸内フローラ
下痢
抗生物質関連下痢症は、体の細菌生態系がバランスを失ったときに起こる疾患として知られています。消化管の細菌生態系は、抗生物質によって弱ってしまいます。その結果、消化管は病原菌と戦うために必要な武器と健全に消化を行うために必要な道具、つまり善玉菌の多くを失ってしまいます。善玉菌がいなくなって剥き出しとなった腸壁は、病原体が定着するには最適な場所です。クロストリジウム・ディフィシルと呼ばれる細菌は最も数が多く、最も危険な病原菌の一つです。この細菌は二種類の強力な毒素を放出して腸の粘膜を傷つけ、結腸に炎症を起こします。
肥満
消化管の微生物組成は人間の食欲と脂肪の沈着に影響します。
胃に生息する細菌、ヘリコバクター・ピロリ菌のおかげで、人間は空腹と満腹を感じることができます。ピロリ菌は胃の酸性度を調整し、食欲調整に関わるホルモンのグレリンを減少させます。胃の中にピロリ菌が生息していないとグレリンの分泌量が増え、食欲が増大してしまいます。不幸なことに、ピロリ菌は過去数十年の間、過敏症の人々に消化性潰瘍を引き起こす病原菌と見なされていました。そのため、抗生物質によってピロリ菌は多くの人の胃の中から根絶されています。例えば、米国の2~3世代前では80%の人がピロリ菌を保有していました。今ではアメリカ人の子供のわずか6%以下しかピロリ菌を保有していません。このことは米国において子供の肥満が増えている一つの原因と考えられています。同時に、過去には珍しかった食道がんが10倍に増えています。
腸内フローラの構成は人間が食べ物から得るカロリー量にも影響します。かつて食料が貴重だった時代には、食べ物からより多くの脂肪を体内に貯蔵できるマイクロバイオームを持った人間の方が、より大きな生存のチャンスがありました。現代ではいつでも食料が手に入るため、そのようなマイクロバイオームは肥満を起こしてしまいます。二人の人間が同じ量の食べ物を食べて肥満になるかスリムなままでいられるかは、マイクロバイオームが炭水化物からどのようにエネルギーを得ているかによって決まります。
また、食事の内容も消化管マイクロバイオームに影響を与えます。植物由来の炭水化物を多く摂取している日本のような国に住む人々の例を見ると、消化管細菌の多くが植物性炭水化物を分解できることが分かります。また、高脂肪食品を摂取すると消化管マイクロバイオームの細菌の数が減り、急速に脂肪を沈着させる細菌の成長を促してしまいます。
消化管間質腫瘍
マイクロバイオームは消化管間質腫瘍とも相関しています。がんを引き起こすのはマイクロバイオームではありません。人間の食べ物が原因となって、有害な細菌が腸に定着するのです。特に欧米の食事(肉と脂肪の摂取量が多く、野菜の量が少ない)は、特定の酵素と胆汁酸を生成する細菌の増殖を促します。これらの酵素は、人間に無害な化合物をヘテロサイクリックアミンのような発がん物質に変えてしまいます。ヘテロサイクリックアミンは焼いた肉にも付着しています。無害な化合物が求電子性誘導体という有害な物質に変わるとDNAが傷つけられ、結果的にがんを引き起こしてしまいます。1日1個のりんごを心がけましょう。
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)という病気は、ある一種の細菌が他の種の細菌にどれだけ依存しているのかを示しています。IBDは消化管の慢性的な再発性の炎症で、粘膜損傷を引き起こします。通常、健康な人の消化管ではフィルミクテス門とバクテロイデス門の細菌が優勢です。IBD患者ではこれらの細菌の割合が減っています。フィルミクテス門が少ないと、クロストリジウム種(IXaおよびIV群)の数が減ってしまいます。クロストリジウム種は、酪酸を放出して炎症誘発性サイトカインレベルを低下させる細菌です。また、IBD患者ではバクテロイデス・フラギリスも減少しますが、この細菌は制御性T細胞を活性化し、炎症性T細胞が活発化しすぎないように抑制しています。要するに、免疫系を抑制している細菌が炎症性腸疾患によって減ってしまうと、免疫系が過剰に活性化して自らの細胞を攻撃してしまうのです。
免責事項:このサイトやブログの内容は医学的助言、診断や治療を提供することを意図したものではありません。