消化管マイクロバイオームの乱れが多発性硬化症と関連
多発性硬化症は自己免疫疾患
多発性硬化症(MS)は中枢神経系(CNS)の慢性炎症疾患です。MSは自己免疫疾患と考えられており、免疫細胞(T細胞)がミエリンペプチド(神経を保護する層)を攻撃してしまいます。その結果、MS患者は炎症と神経変性に苦しみ、感覚や運動、認知の障害を訴えます。MS発症のメカニズムは複雑で、遺伝要因と環境要因の両方が病因となっています。疾患リスクの30%が遺伝要因で、残りの70%が環境要因です。最近の研究で得られたエビデンスによると、MSの環境要因に消化管マイクロバイオームが大きく関わっていることが示唆されています。
MSや1型糖尿病、炎症性腸疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患患者のマイクロバイオームを解析すると、いずれの病気でも患者のマイクロバイオームが変容していることが示されています。そこには共通のパターンがあります。善玉菌が減少し、有害な細菌が増殖しているのです。
MS患者はディスバイオーシス(マイクロバイオームの乱れ)を起こしている
MS患者のマイクロバイオームの特徴を調査するために、世界中で多くの研究が行われました。それらの研究結果を比較すると、研究の全てでMS患者でディスバイオーシス(マイクロバイオームの乱れ)が起きていることが示されました。しかし、MS患者に特有の細菌の構成パターンは見つりませんでした。このことは、MS患者では特定の細菌が多かったり、逆に少なかったりするのではなく、マイクロバイオーム全体が炎症を起こす状態になっていることを意味しています。従って、マイクロバイオームのデータは慎重に取り扱う必要があります。地理環境や遺伝、解析方法や食事などの影響を考慮する必要があるのです。特定の種類の細菌を調べるのではなく、マイクロバイオーム全体の細菌の比率変化が及ぼす影響を重視するべきです。
近い将来、MS患者(また、他の自己免疫疾患患者についても)の消化管の細菌の変化が及ぼす影響について明らかにされるはずです。そうなれば、治療法のさらなる進歩も期待できます。
MS患者に共通する細菌の構成パターンは、プレボテラ属やバクテロイデス・フラジリスなどの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する細菌の数が少ないことです。SCFAはエネルギー源となるだけでなく、炎症反応のダウンレギュレーションを起こして免疫系に強く働きかけます。
消化管細菌叢は多発性硬化症に大きな影響を及ぼします
消化管細菌叢は、SCFAや胆汁酸、フィトエストロゲンなどのさまざまな代謝経路に影響を及ぼすことで、宿主の免疫調節を行っています。この働きがMSの発展に大きな影響を及ぼしていることは明らかです。マイクロバイオームの細菌、人間の代謝、免疫系の複雑な相互作用を明らかにするために、さらなる研究が必要です。
近い将来、マイクロバイオームの治療がMSの治療につながるはずです!
詳細情報(英語): Freedman et al., 2018
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