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2019-06-29 13:10
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

土や泥で汚れるのは良いこと?過度な衛生が免疫系に及ぼす影響

汚れるのは良いこと
土壌は豊かな栄養と微生物に満ち溢れています。子供たちを土や泥の中で遊ばせるのは良いことです(画像:© Phils Photography、stock.adobe.com)

土や泥で汚れるのは良いことです-これはロブ・ナイトとジャック・ギルバートが2018年の夏に出版した著作のタイトルです。ギルバート博士はシカゴ大学で教鞭を取る、第一線で活躍するマイクロバイオーム研究者です。著作のタイトルは『子供の人生は「腸」で決まる―3歳までにやっておきたい最強の免疫力の育て方』(原題は”Dirt is Good. The Advantage of Germs on your Child`s Developing Immune System”)で、著者たちの目標を表しています。つまり、若い親たちに土や泥の中で遊ぶことが子供たちの健康にどれだけ良い影響を与えるのかを示すことです。

消化器内科医で著作家のエメラン・マイヤー氏がギルバート博士に行ったインタビューが、2018年12月にYoutubeで放送されました。インタビューの中で、この本の概要が紹介されています。今回の記事はインタビューの内容をまとめたものです。

抗生物質が主犯です

マイヤー氏のインタビューは、妊娠した女性や赤ん坊、幼児に対する抗生物質の過剰投与の話題から始まりました。ギルバート博士は病気になる可能性(見込み)と蓋然性(確率)を区別しています。特にアメリカの内科医は、病気になる見込みを完全になくすために抗生物質を処方する傾向があります。これは長年受け入れられていた考え方ですが、抗生物質には全く副作用がないと言う判断に基づいて抗生物質を処方することを正当化します。しかし、最新の研究によると、抗生物質の投与は子供の未成熟なマイクロバイオームに大きな影響を及ぼすことが示唆されています。従って、私たちは抗生物質の投与に関してもう一度評価を行う必要があります。もし小児科医が従来の考え方に従って抗生物質を投与しようとしたら、両親は臨床の方針についてオープンな話し合いを求めるべきです。病気が起こる確率を知れば、抗生物質を投与すべきかどうなのか、また副作用を考慮すべきかどうなのかの判断が容易になります。

マイヤー氏はギルバート博士に、抗生物質投与後の治療としてプロバイオティクスを使うことの懸念について意見を求めました。プロバイオティクスは、抗生物質によって排除された体内の善玉菌を回復させると考えられています。ギルバート博士はこのような治療を認めていません。患者の中にはプロバイオティクスに強い反応を示す人もいるため、研究結果を臨床に応用することはまだできません。博士は抗生物質の治療後にプロバイオティクスを使うことは推奨していません。

本のタイトルのように、土や泥の汚れの中で遊ぶことは健康に良いのですか?

ギルバート博士は著作のタイトルが、出版社が読者の注目を集めるために採用した挑発的なものであることを認めています。しかし、博士はこうも主張しています。西洋諸国の都市部では、外で遊んで土や泥で汚れることに対する不安が不当にも長年共有されていました。その結果、衛生手段が過度に発達し、限りなく無菌状態に近い環境になりました。両親はこの問題に関して健全な判断を行うようにアドバイスされます。

土壌が豊かな栄養と微生物に満ち溢れているのであれば、子供たちを泥や土の汚れの中で遊ばせることは賢明な判断です。外で遊べば免疫が刺激され、マイクロバイオームの多様性が発達する助けとなります。悲しいことに、工業的な農業が発達した現代では、地面の土は生命のない土壌となっていることもあります。それでもまだ良い方です。もっとひどい場合には、地面は子供たちの健康に有害な水銀や肥料によって汚染されています

ジャック・ギルバート博士
「私たちを取り囲む環境は、本質的に私たちの健康に関係しています」ジャック・ギルバート博士(画像: https://www.uchicagomedicine.org/)

動物の体毛やほこり、花粉-過敏な親たちの敵

土や泥の汚れ以外にも、環境が及ぼす影響に対して同様に健全な判断を行った方が良いとアドバイスできます。子供たちに「新鮮な空気」を与えるのは良いアイディアですが、深刻な大気汚染が起こっている地域では実現困難です。犬や猫を自宅で飼い、ペットが子供にキスする度に消毒剤で洗浄することをやめれば、後で動物の体毛に対してアレルギーが起こるのを避けられる良い条件となります。また、動物の体毛と接触する機会をつくるために、都市部に住む子供たちをバスに乗せて出かけ、たくさんの家畜と触れ合わせるのは、やり過ぎでもなければ実現が難しいことでもありません。

家庭で衛生状態のレベルを調節するのはもっと簡単です。アーミッシュの農家の子供たちはいわゆる現代的な衛生手段とは無縁に育ち、最も優れた免疫系を持っています。アレルギーを持ったマウスをアーミッシュの農場のほこりに曝すと、過感作が起こりアレルギー症状が軽くなります。したがって、どんな場合であっても住居を無菌状態にしたり、強力すぎる洗浄剤の使用を控えるのは良いアイデアです(自宅にサルモネラ菌が存在するような場合は除きます。サルモネラ菌を排除した後、再び衛生状態を適度なレベルに戻してください)。

私たちが行えることと行えないこと

ギルバート博士は、健康的な生活を営むためのアドバイスでインタビューを締めくくってくれました。一般的には、新鮮な空気を吸いながら運動を行い健康な食事をすれば健全なマイクロバイオームを育むことができます。食物繊維が豊富で、未加工か加工度合いの少ない食品、そして多くの魚と果物、野菜(ギルバート博士が言うには、虹のような色彩豊かな食べ物)を食べることが推奨されます。私たちはどんな環境で育った小麦やワイン、果物を食べているのでしょうか?その食べ物にはどんな農薬や化学肥料が使われたのでしょうか?土壌の質は良いのでしょうか?食べようとしている魚は重金属やマイクロプラスチックで汚染された川や海で採れたものではないでしょうか?

これらの基準に基づいて、私たちは自分や子供たちが食べるものを意識的に選択することができます。環境問題や汚染の規制に関して言えば、私たちは直接何かできるわけではありません。これらの問題は政治やロビー活動に強く依存しています。しかし、ギルバート博士は自由市場経済にも言及しています。もし私たちが、製造から梱包の過程まで環境に及ぼす影響が可能な限り小さく、有害な化学物質を使っていないサステイナブル(持続可能)な製品だけを消費するようにすれば、自由市場と政治は次第にこれらのニーズに応えるようになるはずです。

最後に、ギルバート博士は楽天的な展望を示しています。世界中ですでにたくさんの試みが始まっています。多くの人々が、将来の世代が健康に生きられる地球環境の維持に強い関心を示すなら、本当に実現させられるはずです。https://www.uchicagomedicine.org/

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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