土や泥で汚れるのは良いこと?過度な衛生が免疫系に及ぼす影響
土や泥で汚れるのは良いことです-これはロブ・ナイトとジャック・ギルバートが2018年の夏に出版した著作のタイトルです。ギルバート博士はシカゴ大学で教鞭を取る、第一線で活躍するマイクロバイオーム研究者です。著作のタイトルは『子供の人生は「腸」で決まる―3歳までにやっておきたい最強の免疫力の育て方』(原題は”Dirt is Good. The Advantage of Germs on your Child`s Developing Immune System”)で、著者たちの目標を表しています。つまり、若い親たちに土や泥の中で遊ぶことが子供たちの健康にどれだけ良い影響を与えるのかを示すことです。
消化器内科医で著作家のエメラン・マイヤー氏がギルバート博士に行ったインタビューが、2018年12月にYoutubeで放送されました。インタビューの中で、この本の概要が紹介されています。今回の記事はインタビューの内容をまとめたものです。
抗生物質が主犯です
マイヤー氏のインタビューは、妊娠した女性や赤ん坊、幼児に対する抗生物質の過剰投与の話題から始まりました。ギルバート博士は病気になる可能性(見込み)と蓋然性(確率)を区別しています。特にアメリカの内科医は、病気になる見込みを完全になくすために抗生物質を処方する傾向があります。これは長年受け入れられていた考え方ですが、抗生物質には全く副作用がないと言う判断に基づいて抗生物質を処方することを正当化します。しかし、最新の研究によると、抗生物質の投与は子供の未成熟なマイクロバイオームに大きな影響を及ぼすことが示唆されています。従って、私たちは抗生物質の投与に関してもう一度評価を行う必要があります。もし小児科医が従来の考え方に従って抗生物質を投与しようとしたら、両親は臨床の方針についてオープンな話し合いを求めるべきです。病気が起こる確率を知れば、抗生物質を投与すべきかどうなのか、また副作用を考慮すべきかどうなのかの判断が容易になります。
マイヤー氏はギルバート博士に、抗生物質投与後の治療としてプロバイオティクスを使うことの懸念について意見を求めました。プロバイオティクスは、抗生物質によって排除された体内の善玉菌を回復させると考えられています。ギルバート博士はこのような治療を認めていません。患者の中にはプロバイオティクスに強い反応を示す人もいるため、研究結果を臨床に応用することはまだできません。博士は抗生物質の治療後にプロバイオティクスを使うことは推奨していません。
本のタイトルのように、土や泥の汚れの中で遊ぶことは健康に良いのですか?
ギルバート博士は著作のタイトルが、出版社が読者の注目を集めるために採用した挑発的なものであることを認めています。しかし、博士はこうも主張しています。西洋諸国の都市部では、外で遊んで土や泥で汚れることに対する不安が不当にも長年共有されていました。その結果、衛生手段が過度に発達し、限りなく無菌状態に近い環境になりました。両親はこの問題に関して健全な判断を行うようにアドバイスされます。
土壌が豊かな栄養と微生物に満ち溢れているのであれば、子供たちを泥や土の汚れの中で遊ばせることは賢明な判断です。外で遊べば免疫が刺激され、マイクロバイオームの多様性が発達する助けとなります。悲しいことに、工業的な農業が発達した現代では、地面の土は生命のない土壌となっていることもあります。それでもまだ良い方です。もっとひどい場合には、地面は子供たちの健康に有害な水銀や肥料によって汚染されています。
動物の体毛やほこり、花粉-過敏な親たちの敵
土や泥の汚れ以外にも、環境が及ぼす影響に対して同様に健全な判断を行った方が良いとアドバイスできます。子供たちに「新鮮な空気」を与えるのは良いアイディアですが、深刻な大気汚染が起こっている地域では実現困難です。犬や猫を自宅で飼い、ペットが子供にキスする度に消毒剤で洗浄することをやめれば、後で動物の体毛に対してアレルギーが起こるのを避けられる良い条件となります。また、動物の体毛と接触する機会をつくるために、都市部に住む子供たちをバスに乗せて出かけ、たくさんの家畜と触れ合わせるのは、やり過ぎでもなければ実現が難しいことでもありません。
家庭で衛生状態のレベルを調節するのはもっと簡単です。アーミッシュの農家の子供たちはいわゆる現代的な衛生手段とは無縁に育ち、最も優れた免疫系を持っています。アレルギーを持ったマウスをアーミッシュの農場のほこりに曝すと、過感作が起こりアレルギー症状が軽くなります。したがって、どんな場合であっても住居を無菌状態にしたり、強力すぎる洗浄剤の使用を控えるのは良いアイデアです(自宅にサルモネラ菌が存在するような場合は除きます。サルモネラ菌を排除した後、再び衛生状態を適度なレベルに戻してください)。
私たちが行えることと行えないこと
ギルバート博士は、健康的な生活を営むためのアドバイスでインタビューを締めくくってくれました。一般的には、新鮮な空気を吸いながら運動を行い、健康な食事をすれば健全なマイクロバイオームを育むことができます。食物繊維が豊富で、未加工か加工度合いの少ない食品、そして多くの魚と果物、野菜(ギルバート博士が言うには、虹のような色彩豊かな食べ物)を食べることが推奨されます。私たちはどんな環境で育った小麦やワイン、果物を食べているのでしょうか?その食べ物にはどんな農薬や化学肥料が使われたのでしょうか?土壌の質は良いのでしょうか?食べようとしている魚は重金属やマイクロプラスチックで汚染された川や海で採れたものではないでしょうか?
これらの基準に基づいて、私たちは自分や子供たちが食べるものを意識的に選択することができます。環境問題や汚染の規制に関して言えば、私たちは直接何かできるわけではありません。これらの問題は政治やロビー活動に強く依存しています。しかし、ギルバート博士は自由市場経済にも言及しています。もし私たちが、製造から梱包の過程まで環境に及ぼす影響が可能な限り小さく、有害な化学物質を使っていないサステイナブル(持続可能)な製品だけを消費するようにすれば、自由市場と政治は次第にこれらのニーズに応えるようになるはずです。
最後に、ギルバート博士は楽天的な展望を示しています。世界中ですでにたくさんの試みが始まっています。多くの人々が、将来の世代が健康に生きられる地球環境の維持に強い関心を示すなら、本当に実現させられるはずです。https://www.uchicagomedicine.org/
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