未開拓の領域とチャンスに溢れたマイクロバイオーム研究
科学誌『ネイチャーバイオテクノロジー』11月号で、18人のマイクロバイオーム専門家が研究の現状について評価し、研究動向や研究者にとってのチャンス、課題を論じました。
この要約記事は2018年5月に開催されたニューヨーク医学アカデミーの討論会に基づいています。討論会の司会はガスパー・タロンヒャー・オルデンブルク(グローバル・エンゲージ社コンサルタント)とスーザン・ジョーンズ(ネイチャーバイオテクノロジー共同編集者)が務めました。
マイクロバイオーム研究は未だ黎明期にあります
まず最初に、マイクロバイオーム研究で十分に研究が行われていない領域について報告されました。討論会に参加した専門家のすべてが、マイクロバイオーム研究は未だ黎明期にあることを認めています。マイクロバイオームと人間の健康の関係について、まだ分かっていないことがたくさんあります。このことは、マイクロバイオーム研究は研究者にとって多くのチャンスがあることを意味しています。また、マイクロバイオームを構成する細菌については研究の蓄積があるものの、マイクロバイオームと人間の臓器の相互依存関係に関する研究は始まったばかりです。この領域は、人類の健康に貢献するやりがりのある研究分野です。
これまでの研究はイン・ヴィトロ研究や動物実験がほとんどでした。そのため、実験で得られた結果を無条件に人間のマイクロバイオームに当てはめることは困難でした。現在でも人間を対象とした研究の数は十分でなく、再現性のある一般化は難しい状況です。このような現状を考慮すると、マイクロバイオーム研究の未開拓の分野のひとつとして、微生物学者や生態学者、疫学者、生物情報学者や統計学者などの隣接分野の力を借りて、ヒトマイクロバイオームの仕組みを一般化することが挙げられます。
細菌だけでなく、体の中のウイルス集団にも注目が集まっています
近年の研究動向は、マイクロバイオームを構成する細菌からウイルス集団に対象が移りつつあります。ウイルスを研究対象とするときの困難な問題は、ウイルスは細菌や菌類のようにマーカーとなる遺伝子を持っていないことです。とは言え、ウイルスの研究が不十分であることもまた、マイクロバイオームの研究が未だ黎明期にあることを示しています。統計の許容差の問題など、統計的に信頼できるデータも不足しています。
肺にもマイクロバイオームが存在しています
もう一つの新しい研究動向も話題となりました。現状では消化管マイクロバイオームに研究の重点が置かれているのですが、これは消化管マイクロバイオームの細菌の密度が濃く、サンプルを簡単に採取できるからです。将来的には、肺や皮ふ、口内のマイクロバイオームが研究対象として注目されるようになるでしょう。肺は完全な無菌環境ではありません。近年、肺からも細菌が発見され、データが収集されているのですが、これまで注目されることはほとんどありませんでした。すでに述べたとおり、肺の細菌やウイルスは密度が低く、サンプル採取が困難です。最後に、マイクロバイオームとゲノムの線引きをすることが課題となります。また、適切なプロバイオティクスや抗生物質を開発することは常に重要な目標です。
研究の方向を定める第一歩は踏み出されています。方法論に関して言えば、細菌の特徴を単に記述するだけの記録方法と経験に基づく試験方法から、より複雑で普遍的な方法が検討されています。
専門家はマイクロバイオーム研究をビックデータ技術と関連させる大きな好機と捉えています
現在のマイクロバイオーム研究には技術的に大きな限界があります。マイクロバイオームの専門家は近い将来、現在発展しているビッグデータの助けを借りて研究を進展させることを望んでいます。ビッグデータの技術はマイクロバイオーム治療を臨床レベルまで発展させるために、長らく待ち望まれていた手段となる可能性があります。討論会では病気の治療よりも予防を重視することに意見が一致しました。もちろん、実現にはまだ時間がかかります。しかし、討論会の様子からは、マイクロバイオーム研究が将来大きな進展を見せることは間違いないと期待できました。
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