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2019-06-24 17:01
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

未開拓の領域とチャンスに溢れたマイクロバイオーム研究

microbiome therapy
専門家たちはマイクロバイオーム研究がまだ始まったばかりであることを認めています。

科学誌『ネイチャーバイオテクノロジー』11月号で、18人のマイクロバイオーム専門家が研究の現状について評価し、研究動向や研究者にとってのチャンス、課題を論じました。

この要約記事は2018年5月に開催されたニューヨーク医学アカデミーの討論会に基づいています。討論会の司会はガスパー・タロンヒャー・オルデンブルク(グローバル・エンゲージ社コンサルタント)とスーザン・ジョーンズ(ネイチャーバイオテクノロジー共同編集者)が務めました。

マイクロバイオーム研究は未だ黎明期にあります

まず最初に、マイクロバイオーム研究で十分に研究が行われていない領域について報告されました。討論会に参加した専門家のすべてが、マイクロバイオーム研究は未だ黎明期にあることを認めています。マイクロバイオームと人間の健康の関係について、まだ分かっていないことがたくさんあります。このことは、マイクロバイオーム研究は研究者にとって多くのチャンスがあることを意味しています。また、マイクロバイオームを構成する細菌については研究の蓄積があるものの、マイクロバイオームと人間の臓器の相互依存関係に関する研究は始まったばかりです。この領域は、人類の健康に貢献するやりがりのある研究分野です。

これまでの研究はイン・ヴィトロ研究や動物実験がほとんどでした。そのため、実験で得られた結果を無条件に人間のマイクロバイオームに当てはめることは困難でした。現在でも人間を対象とした研究の数は十分でなく、再現性のある一般化は難しい状況です。このような現状を考慮すると、マイクロバイオーム研究の未開拓の分野のひとつとして、微生物学者や生態学者、疫学者、生物情報学者や統計学者などの隣接分野の力を借りて、ヒトマイクロバイオームの仕組みを一般化することが挙げられます。

細菌だけでなく、体の中のウイルス集団にも注目が集まっています

近年の研究動向は、マイクロバイオームを構成する細菌からウイルス集団に対象が移りつつあります。ウイルスを研究対象とするときの困難な問題は、ウイルスは細菌や菌類のようにマーカーとなる遺伝子を持っていないことです。とは言え、ウイルスの研究が不十分であることもまた、マイクロバイオームの研究が未だ黎明期にあることを示しています。統計の許容差の問題など、統計的に信頼できるデータも不足しています。

肺にもマイクロバイオームが存在しています

もう一つの新しい研究動向も話題となりました。現状では消化管マイクロバイオームに研究の重点が置かれているのですが、これは消化管マイクロバイオームの細菌の密度が濃く、サンプルを簡単に採取できるからです。将来的には、肺や皮ふ、口内のマイクロバイオームが研究対象として注目されるようになるでしょう。肺は完全な無菌環境ではありません。近年、肺からも細菌が発見され、データが収集されているのですが、これまで注目されることはほとんどありませんでした。すでに述べたとおり、肺の細菌やウイルスは密度が低く、サンプル採取が困難です。最後に、マイクロバイオームとゲノムの線引きをすることが課題となります。また、適切なプロバイオティクスや抗生物質を開発することは常に重要な目標です。

研究の方向を定める第一歩は踏み出されています。方法論に関して言えば、細菌の特徴を単に記述するだけの記録方法と経験に基づく試験方法から、より複雑で普遍的な方法が検討されています。

専門家はマイクロバイオーム研究をビックデータ技術と関連させる大きな好機と捉えています

現在のマイクロバイオーム研究には技術的に大きな限界があります。マイクロバイオームの専門家は近い将来、現在発展しているビッグデータの助けを借りて研究を進展させることを望んでいます。ビッグデータの技術はマイクロバイオーム治療を臨床レベルまで発展させるために、長らく待ち望まれていた手段となる可能性があります。討論会では病気の治療よりも予防を重視することに意見が一致しました。もちろん、実現にはまだ時間がかかります。しかし、討論会の様子からは、マイクロバイオーム研究が将来大きな進展を見せることは間違いないと期待できました。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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