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消化器の疾患とマイクロバイオーム、腸内フローラ

下痢

抗菌剤関連下痢症は抗生物質治療の5~35%で発生しています
抗菌剤関連下痢症は抗生物質治療の5~35%で発生しています

抗生物質関連下痢症は、体の細菌生態系がバランスを失ったときに起こる疾患として知られています。消化管の細菌生態系は、抗生物質によって弱ってしまいます。その結果、消化管は病原菌と戦うために必要な武器と健全に消化を行うために必要な道具、つまり善玉菌の多くを失ってしまいます。善玉菌がいなくなって剥き出しとなった腸壁は、病原体が定着するには最適な場所です。クロストリジウム・ディフィシルと呼ばれる細菌は最も数が多く、最も危険な病原菌の一つです。この細菌は二種類の強力な毒素を放出して腸の粘膜を傷つけ、結腸に炎症を起こします。

肥満

マイクロバイオームは食欲に影響を与えます
マイクロバイオームは食欲に影響を与えます

消化管の微生物組成は人間の食欲と脂肪の沈着に影響します。

胃に生息する細菌、ヘリコバクター・ピロリ菌のおかげで、人間は空腹と満腹を感じることができます。ピロリ菌は胃の酸性度を調整し、食欲調整に関わるホルモンのグレリンを減少させます。胃の中にピロリ菌が生息していないとグレリンの分泌量が増え、食欲が増大してしまいます。不幸なことに、ピロリ菌は過去数十年の間、過敏症の人々に消化性潰瘍を引き起こす病原菌と見なされていました。そのため、抗生物質によってピロリ菌は多くの人の胃の中から根絶されています。例えば、米国の2~3世代前では80%の人がピロリ菌を保有していました。今ではアメリカ人の子供のわずか6%以下しかピロリ菌を保有していません。このことは米国において子供の肥満が増えている一つの原因と考えられています。同時に、過去には珍しかった食道がんが10倍に増えています。

腸内フローラの構成は人間が食べ物から得るカロリー量にも影響します。かつて食料が貴重だった時代には、食べ物からより多くの脂肪を体内に貯蔵できるマイクロバイオームを持った人間の方が、より大きな生存のチャンスがありました。現代ではいつでも食料が手に入るため、そのようなマイクロバイオームは肥満を起こしてしまいます。二人の人間が同じ量の食べ物を食べて肥満になるかスリムなままでいられるかは、マイクロバイオームが炭水化物からどのようにエネルギーを得ているかによって決まります。

また、食事の内容も消化管マイクロバイオームに影響を与えます。植物由来の炭水化物を多く摂取している日本のような国に住む人々の例を見ると、消化管細菌の多くが植物性炭水化物を分解できることが分かります。また、高脂肪食品を摂取すると消化管マイクロバイオームの細菌の数が減り、急速に脂肪を沈着させる細菌の成長を促してしまいます。

消化管間質腫瘍

焼いた肉に付着しているヘテロサイクリックアミンはがんを起こす可能性があります。
焼いた肉に付着しているヘテロサイクリックアミンはがんを起こす可能性があります。

マイクロバイオームは消化管間質腫瘍とも相関しています。がんを引き起こすのはマイクロバイオームではありません。人間の食べ物が原因となって、有害な細菌が腸に定着するのです。特に欧米の食事(肉と脂肪の摂取量が多く、野菜の量が少ない)は、特定の酵素と胆汁酸を生成する細菌の増殖を促します。これらの酵素は、人間に無害な化合物をヘテロサイクリックアミンのような発がん物質に変えてしまいます。ヘテロサイクリックアミンは焼いた肉にも付着しています。無害な化合物が求電子性誘導体という有害な物質に変わるとDNAが傷つけられ、結果的にがんを引き起こしてしまいます。1日1個のりんごを心がけましょう。

炎症性腸疾患

炎症性腸疾患(IBD)という病気は、ある一種の細菌が他の種の細菌にどれだけ依存しているのかを示しています。IBDは消化管の慢性的な再発性の炎症で、粘膜損傷を引き起こします。通常、健康な人の消化管ではフィルミクテス門バクテロイデス門の細菌が優勢です。IBD患者ではこれらの細菌の割合が減っています。フィルミクテス門が少ないと、クロストリジウム種(IXaおよびIV群)の数が減ってしまいます。クロストリジウム種は、酪酸を放出して炎症誘発性サイトカインレベルを低下させる細菌です。また、IBD患者ではバクテロイデス・フラギリスも減少しますが、この細菌は制御性T細胞を活性化し、炎症性T細胞が活発化しすぎないように抑制しています。要するに、免疫系を抑制している細菌が炎症性腸疾患によって減ってしまうと、免疫系が過剰に活性化して自らの細胞を攻撃してしまうのです。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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