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2019-02-11 11:42
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

マイクロバイオームと腸脳軸の話がハリウッド映画でも扱われています

消化管マイクロバイオームの話は今ではエンターテインメント作品にも登場します。
消化管マイクロバイオームの話は今ではエンターテインメント作品にも登場します。

ここ数年、科学者たちや関心を持つ人々は、マイクロバイオームと人間の病気の関係にずっと興味を示してきました。今では、消化管細菌叢の話はエンターテインメント作品でも扱われています。映画やテレビ番組はときに、人々の考えや政治に無意識的な影響を及ぼします。消化管マイクロバイオームの話題に関して言えば、『女王陛下のお気に入り』『アリー/スター誕生』『ある女流作家の罪と罰』などの2018年に公開された映画や、テレビドラマシリーズの『ザ・テラー 極北の恐怖』で、食事やアルコール摂取が原因となる病気について精神的に不安定にさせるような描写がありました。

「消化管をもっと理解する-かつては王族の問題だったものが、今では一般人にとっての問題に」

2018年にヒットした映画『アリー/スター誕生』と『ある女流作家の罪と罰』は、ミュージシャンや著述家として一度は成功した人々が、スターの座を失って抑うつ状態に陥っていく姿を描いています。そして、登場人物たちの抑うつ状態はアルコール乱用によって悪化していきます。2018年に賞を受賞した『女王陛下のお気に入り』は、消化管マイクロバイオームや食事が原因となって起こる病気を主題としたものでありません。しかし、興味深いことに、女王が痛風によって嘔吐し、苦しむ場面が出てきます。痛風は17世紀イングランドのアン女王を苦しめたことで知られる病気で、豪奢な食事に溺れた他の王族たちも苦しめています。2010年に、ハーバード大学医学部はこの問題について、「消化管をもっと理解する-かつては王族の問題だったものが、今では一般人にとっての問題に」(英語)というヘルスレターを公表しました。王のように豪華な食事をすることは自らの富を誇示する一つの手段ですが、21世紀に贅沢な食事をとれる人が増えたことは、痛風が再び流行する原因となりました。

『ザ・テラー 極北の恐怖』と同じ恐怖が消化不良に悩むイギリスの貴族たちを襲っていた-ドラマの中では偏執病や錯覚などの症状が主題に

AMCのテレビシリーズ『ザ・テラー 極北の恐怖』で描写されたのと同じ恐怖が、かつて消化不良に悩むイギリスの貴族たちを襲っていました。不運に見舞われることになるフランクリンの探検(1845-1848年)では、将校とクルーたちが鉛に汚染された水や鉛メッキの缶詰(当時は高級品とされていました)を食べていたと考えられています。さまざまな映像作品の中でも、『ザ・テラー 極北の恐怖』は心理描写の点で最も魅力的です。「知らずに鉛を摂取すること」によって登場人物の精神と肉体の両方が蝕まれ、乗組員たちは結核や肺炎、壊血病などの病気に罹りやすくなってしまいます。劇中では偏執病や錯覚などの精神症状が主題となり、「恐怖」が乗組員たちに襲い掛かります。彼らはカナダ北極圏への航路を求めて3年間も悲惨な航海を続けることになりました。

消化管の細菌は行動や認知のプロセスに影響を及ぼします

消化管の状態が心身に何らかの影響を及ぼすことは科学的に証明されているのでしょうか?最新の研究結果によれば、答えはイエスです。 3人の研究者が「フロンティアーズ・イン・サイカイアトリー」誌に投稿した2017年の論文(リマ・オヘダ他)では、消化管マイクロバイオームと神経発達、抑うつの関係の証明が試みられています。著者たちは次のように議論を進めています。

集中的な調査の結果、消化管に生息する細菌(消化管細菌叢)は栄養の摂取消化だけでなく、免疫学的なプロセスにも関わっていることが示されました。消化管の細菌は行動や認知のプロセスに影響を及ぼすことが分かっています。

 

消化管の状態が良いと脳の状態も良くなる

「腸感覚」という言葉は、研究者たちが観察した現象を表すのに適切に思えます。もちろん、『女王陛下のお気に入り』や『ザ・テラー 極北の恐怖』の出来事が起こった数百年前には、この言葉が表す腸と脳の関係が科学的に解明されていたわけではありません。しかし、当時の人々も消化管と脳に何らかの関係があることは気づいていました。現在私たちが分かっていることは、「野菜、全粒穀物、魚、そして果物を食べることが消化管マイクロバイオームに良い」ということです。それは、天然のサーモンやグリーンスムージーではなく、動物性脂肪やアルコールをたくさん摂取する王様の贅沢な食事とは対照的な食事です。消化管の状態が良いと脳の状態も良くなるのは、とてもシンプルなことです。例えば、リマ・オヘダたちは、成人の受刑者たちを対象とした無作為化プラセボ比較対象試験の結果を引用しています。この試験では、必須脂肪酸、ミネラル、そしてビタミン類の栄養サプリメントが反社会的行動の改善に関連していることが示されました。

細菌叢腸脳軸(MGB)

消化管と中枢神経系(CNS)の相互作用は、科学者たちには腸脳軸として知られています。消化管マイクロバイオームがCNSに影響を及ぼしている可能性があるため、リマ・オヘダなどの研究者は腸脳軸にマイクロバイオームを加え、細菌叢腸脳軸(microbiota-gut-brain axis、MGB)とすることを提案しています。この記事でも引用したように、過去の研究はすでに「消化管マイクロバイオームには扁桃体や視床下部なども含めた大脳辺縁系の機能を調整する能力があり…情動性ストレスは消化管マイクロバイオームの細菌構成に影響を及ぼし、そして抑うつや統合失調症、不安や自閉症などの精神神経障害の病態生理学にも消化管マイクロバイオームの変化が関わっている可能性がある」ことを指摘しています。

画像: ©リマ・オヘダ他、Fig. 1

 

「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」-ヒポクラテス

著者たちは次のように結論付けています。人間と食事の関係は、ハリウッド映画が扱うよりもずっと前から知識人たちの関心でした。古代ギリシアの哲学者ヒポクラテスは「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」という格言を残しています。科学が発展した現在でも、食べ物が心の健康に影響するという考え方は正しいように思えます。マイクロバイオーム研究の最新の成果を調べる時間がないのであれば、2018年の映画とテレビシリーズのヒット作から教訓を学び、2019年には健康な食事を心がけるようにしましょう!

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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