ベルリンの最新のマイクロバイオーム研究が示す新しい知見
ベルリン・ディスカバリー・アンド・デベロップメント会議(2018年6月7日-8日)の概要
MyMicrobiomeのスタッフがベルリンで開かれた会議に参加し、さまざま分野におけるマイクロバイオーム研究の進展について話を伺いました。今回の記事はその概要をまとめたものです。
会議の最も大きな話題の一つが糞便細菌叢移植(FMT)で、3つの企業(Finch therapeutics社、MAAT Pharma社、Enterobiotix社)が報告を行いました。
また、皮ふマイクロバイオームも大きな話題となり、L’Oréal社、Sbiomedic社、Origimm社が報告しました。
Osel Inc社は膣マイクロバイオームについて面白い報告を行いました。その他にも免疫調節や法規制の問題、解析方法など、マイクロバイオームに関連する興味深いさまざまなトピックが扱われました。
FMT-糞便細菌叢移植
糞便細菌叢移植(FMT)はディスバイオーシス(マイクロバイオームの乱れ)、特にクロストリジウム・ディフィシル感染症に対する治療法として一般的になってきています。FMTはC.ディフィシル感染症の治療法として、90%の有効性があることが認められています。しかし、FMTの制御に関しては不明な点も残っています。
FMTは非常に効果的なのですが、移植前に適切な検査を行わなければ危険が生じる可能性もあります。一方、研究機関や研究者の中には、糞便移植が「クリーンなもの」(もし「クリーン」と言えるなら)だと認める人もいます。例えば、 OpenBiomeのFMTのデータベースには、医師や科学者が解析した3万を超える糞便サンプルが含まれています。ベンチャー企業の中にはFMTを安全かつ一定の基準を満たす方法で収集・調整し、規制当局から承認を得ようとしているところもあります。
MAAT Pharma社はFMTに関連する医薬品等の製造管理および品質管理に関する基準(GMP)を示した、ヨーロッパ最初の企業です。同社は複数のドナーからサンプルを採取し、FMT製品中の細菌叢の多様性を増加させました。MAAT Pharma社が示す最終製品の品質基準は、細菌の多様性と純度(病原菌の汚染がないこと)に基づいています。がん治療はマイクロバイオームに深刻な影響を及ぼすため、同社はがん治療中にマイクロバイオームを回復させる製品を開発しています。
アメリカのFinch Therapeutics社は、C・ディフィシル感染症を治療するためのFMTカプセルを開発しました。Finch社はOpenBiomeのデータベースから3万5000以上のC.ディフィシル感染患者のサンプルを調査しました。FMTカプセルの治療率は90%でした。
また、イギリスのEnterobiotix社もFMT製品を開発中です。特に、比較的少ない容量で利用できる製品の開発に力を注いでいます。Enterobiotix社の目標は健康な人のマイクロバイオームを保存し、抗生物質投与後にマイクロバイオームの回復に役立てることです。
糞便細菌叢移植に関する興味深い記事は次のリンクから読むことができます(英語)。https://www.sciencenews.org/blog/scicurious/fecal-transplants-regulation
FMTは消化管の症状に対して成功を収めた治療法です。多くの企業がさらにFMTを改良し、必要とする人々が容易に利用できる治療法として完成させようとしていることはとても幸運です。
皮ふマイクロバイオーム
L’Oréal社は老化が進行する間に皮ふの細菌の多様性が増加し、アクネ菌(正式にはプロピオニバクテリウム・アクネス)の割合が減ることを発見しました。この発見は、細菌の多様性が大きければ大きいほど良いとする現代の常識を考えると、非常に興味深いものです。アクネ菌は皮ふの老化を防ぐ門番のような存在だと考えられています。女性が閉経した後、アクネ菌のエサとなる皮脂の分泌量は減りますが、この現象は高齢者の乾燥肌と相関しています。
S-biomedic社は肌の健康のためには細菌の多様性だけでなく、適切な種類の細菌が適切な割合で存在していることが鍵であると主張しています。同社の研究は尋常性ざ瘡を中心とし、皮ふの主要な共生菌であるアクネ菌がにきび肌と健康な肌では異なる振る舞いをしていることを発見しました。一般的にこの細菌自体はにきびのある肌でも健康な肌でも同じですが、患部ではある種の皮脂の化合物が健康な肌とは異なる形で代謝されています。にきびを引き起こすアクネ菌の代謝物は、皮脂の過剰分泌を起こしてにきびの成長を促し、悪玉のアクネ菌を増殖させるという悪循環を引き起こします。S-biomedic社は、悪玉アクネ菌を善玉アクネ菌に置き換える臨床試験を実施しています。最初の結果は成功したように思われます!
膣マイクロバイオーム
Osel Inc社は膣マイクロバイオームに関して非常に興味深い報告を行いました。他の部位のマイクロバイオームとは対照的に、膣マイクロバイオームの多様性の大きさは病気に相関しています。膣マイクロバイオームの特徴は、健全な状態の微生物相では乳酸桿菌が優勢となっていることです。ラクトバチルス・クリスパータスは健康に最も有益な細菌で、ほとんどの女性の中に存在しています。この細菌は乳酸を産生することでpHを低い状態に保ち、H2O2の量を増加させて有害な細菌を排除します。ラクトバチルス・クリスパータスが少ないことはHIVや細菌性膣炎、尿路感染症の高いリスク、そして不妊とも相関していました。早産もラクトバチルス・クリスパータスを増やすことで防ぐことができます。もちろん、Osel Inc社はラクトバチルス・クリスパータスを利用した製品を開発しており、現在さまざま臨床試験を実施しているところです(細菌性膣炎、尿路感染症、イン・ヴィトロでの受精など)。臨床試験の結果を楽しみにしましょう!
マイクロバイオームの解析方法
マイクロバイオームの解析時に直面する重要な問題について、いくつかの報告が行われました。現時点で最も早く結果が出て実施が簡単な解析方法は、16S rRNA解析です。この解析方法では、細菌のRNA翻訳機構(リボソーム)の一部を分析します。しかし、16S rRNA解析は属レベルの情報しか与えてくれず、種のレベルまでは判別できません(例えば、乳酸桿菌属までは判別できますが、 ラクトバチルス・クリスパータス種までは判別できません)。種の判別はゲノム・シークエンシング(メタゲノム解析)を行うことで判別できますが、この解析方法は多くの時間と大きなコストがかかります。それだけでなく、マイクロバイオームに存在する細菌の中にはあまり動かない細菌もいるため、代謝活動を調べる必要があります。細菌の代謝活動を調べる方法はメタボロミクスと呼ばれ、マイクロバイオームの細菌ではなく生成物(代謝産物)を調べます。メタボロミクスの大きな利点の一つは、サンプル中にマイクロバイオームの特定種の細菌が存在している必要はなく、細菌が特定の働きさえしてくれれば解析できることです。メタボロミクスは代謝などの細菌の働きを調べるからです。今後、長期的には、メタゲノム解析とメタボロミクスがマイクロバイオームの標準的な解析方法となるでしょう
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