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2018-02-20 11:33
by Kristin Neumann
  Last edited:

消化管マイクロバイオームの乱れが多発性硬化症と関連

消化管マイクロバイオームの乱れが多発性硬化症と関連
近い将来、マイクロバイオームの治療が多発性硬化症(MS)の治療につながると期待されています

多発性硬化症は自己免疫疾患

多発性硬化症(MS)は中枢神経系(CNS)の慢性炎症疾患です。MSは自己免疫疾患と考えられており、免疫細胞(T細胞)がミエリンペプチド(神経を保護する層)を攻撃してしまいます。その結果、MS患者は炎症と神経変性に苦しみ、感覚や運動、認知の障害を訴えます。MS発症のメカニズムは複雑で、遺伝要因と環境要因の両方が病因となっています。疾患リスクの30%が遺伝要因で、残りの70%が環境要因です。最近の研究で得られたエビデンスによると、MSの環境要因に消化管マイクロバイオームが大きく関わっていることが示唆されています。

MSや1型糖尿病、炎症性腸疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患患者のマイクロバイオームを解析すると、いずれの病気でも患者のマイクロバイオームが変容していることが示されています。そこには共通のパターンがあります。善玉菌が減少し、有害な細菌が増殖しているのです。

MS患者はディスバイオーシス(マイクロバイオームの乱れ)を起こしている

MS患者のマイクロバイオームの特徴を調査するために、世界中で多くの研究が行われました。それらの研究結果を比較すると、研究の全てでMS患者でディスバイオーシス(マイクロバイオームの乱れ)が起きていることが示されました。しかし、MS患者に特有の細菌の構成パターンは見つりませんでした。このことは、MS患者では特定の細菌が多かったり、逆に少なかったりするのではなく、マイクロバイオーム全体が炎症を起こす状態になっていることを意味しています。従って、マイクロバイオームのデータは慎重に取り扱う必要があります。地理環境や遺伝、解析方法や食事などの影響を考慮する必要があるのです。特定の種類の細菌を調べるのではなく、マイクロバイオーム全体の細菌の比率変化が及ぼす影響を重視するべきです。

近い将来、MS患者(また、他の自己免疫疾患患者についても)の消化管の細菌の変化が及ぼす影響について明らかにされるはずです。そうなれば、治療法のさらなる進歩も期待できます。

MS患者に共通する細菌の構成パターンは、プレボテラ属バクテロイデス・フラジリスなどの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する細菌の数が少ないことです。SCFAはエネルギー源となるだけでなく、炎症反応のダウンレギュレーションを起こして免疫系に強く働きかけます。

消化管細菌叢は多発性硬化症に大きな影響を及ぼします

消化管細菌叢は、SCFAや胆汁酸、フィトエストロゲンなどのさまざまな代謝経路に影響を及ぼすことで、宿主の免疫調節を行っています。この働きがMSの発展に大きな影響を及ぼしていることは明らかです。マイクロバイオームの細菌、人間の代謝、免疫系の複雑な相互作用を明らかにするために、さらなる研究が必要です。

近い将来、マイクロバイオームの治療がMSの治療につながるはずです!

詳細情報(英語): Freedman et al., 2018

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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