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2020-03-11 22:34
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

動物研究による新しい発見―マイクロバイオームと食事の関係について

コアラ
コアラの排泄物の大規模なシークエンシングが行われ、様々な種のコアラのマイクロバイオームが明らかにされました(画像: © RyanFowlerPhotograph – stock.adobe.com)

私たちのウェブサイト「マイマイクロバイオーム」の目的は、読者の方に最新の情報をお届けすることです。今回は、動物のマイクロバイオーム研究で得られた新しい知見について簡単にご紹介します。常連の読者の方はすでにご存知だと思いますが、動物と人間のマイクロバイオームには類似点も多く、動物研究はヒトマイクロバイオームを理解するための重要な前提条件です。ですが、動物研究の結果の全てが人間に当てはまるわけではありません。いくつかのケースでは、全く逆の結論が得られることもあります。動物と人間のマイクロバイオームについて、二つの面白い研究をご紹介します。

コアラは特定の種類のユーカリしか食べることができません

2019年8月の初め、「アニマル・マイクロバイオーム」はミカエラ・D・J・バイルトン、ロシェル・M・ソーたちの行ったコアラの排泄物に関する研究を公表しました。この研究ではコアラの排泄物の大規模なシークエンシングを行い、様々な種のコアラのマイクロバイオームが、特定の種のユーカリを食物とすることに直接の相関があることを示したのです。人間にとっても、食物はマイクロバイオームの構成に直接の影響を及ぼします。ですが面白いことに、コアラにとってこの関係は逆なのです。コアラの赤ちゃんは、生まれてくるときに時に母親の排泄物に接触することで、母親の消化管マイクロバイオームを受け継ぎます。この消化管マイクロバイオームの定着は、コアラの個体がどの種のユーカリを消化できてどの種のユーカリを消化できないかを決定する、重要な要因になるのです。そして、消化できる種のユーカリが不足した場合には、その個体は他の種のユーカリを食べることはできず、生涯一種類だけのユーカリに依存することになるのです。というのも、一度定着したマイクロバイオームを、自然環境下で簡単に再定着させることはできないからです。しかし、科学者たちは他の種のユーカリを食べる同種のコアラのマイクロバイオームを移植することに成功しました。そして、マイクロバイオームを移植されたコアラは、移植の前までは消化できなかった「新しい種の」ユーカリを消化できるようになったという驚くべき結果が得られました。

今、この結果はとても重要です。というのも、オーストラリアでは数百エーカーのユーカリの森が森林火災の被害を受けており、数千匹のコアラにとっての大切な食糧(そして生活空間)が失われたからです。火災から助け出されたコアラたちを、単純に火災の被害を受けなかった別のユーカリの森に移せば良いのではありません。家を失ったコアラたちを救うには、複雑でお金のかかる手段ですが、新しい居住地に元から住んでいるコアラたちの糞便移植を行う方法が最良かもしれません。

この研究の結果は、コアラを救うという実践的な価値だけでなく、科学の理論的な価値もあります。コアラでは食物がマイクロバイオームの構成に影響を及ぼすのではなく、逆にマイクロバイオームが食べられる食物に影響を与えたのです。マイクロバイオームが、どの食物が消化可能でどの食物が消化できないかを決定する前提条件となっているのです。

鳥やコウモリとマイクロバイオーム

2019年12月、カリフォルニア大学サンディエゴ校が動物のマイクロバイオームに関するもう一つの研究(英語)を報告しました。それまでは、マイクロバイオームと宿主の間には強い相関・相互関係があり、同じ種の動物で類似したマイクロバイオームを持つと考えられていました。しかし、カリフォルニア大学の新しい研究によって、空を飛ぶという能力が、マイクロバイオームの構成を決定する重要因子の可能性があることが明らかにされました。研究では、コウモリと鳥類を調査し、空を飛ぶ生物はできる限り体重が軽くなるようになっていると結論付けました。このことを考える上で、マイクロバイオームは最初に考慮べきものです。マイクロバイオームの存在によって、人間の体重は数キロほど重くなっているからです。進化上の利点がなければ、全く使われなかったり、稀にしか使われない微生物は減っていくはずです。

さらに、カリフォルニア大学の研究では、宿主とマイクロバイオームの相関関係がこれまで想定されていたほど大きいわけではないことが示されています。逆に、研究はコウモリ(と鳥類)において重要な要因は共通であり、マイクロバイオームに関しては相関性はこれまで仮定されていたほど大きくはないことが証明されました。数千年以上同じ状態を維持している、非常に安定したマイクロバイオームを持つ種もいる一方で、マイクロバイオームを劇的に変化させてきた種もいるのです。空を飛ぶ動物は後者であり、マイクロバイオームとは独立して進化してきたのです。コアラの研究が示した結果も考慮するなら、食物とマイクロバイオームの相関関係は現在ある程度相対化されたと言えます。

共同第一著者のセ・ジン・ソン博士の研究チームは、動物のマイクロバイオーム研究のパラダイムシフトとなったこれらの結果に興奮しています。また、マイクロバイオーム研究で著名なロブ・ナイト博士も、これらの研究結果がメタゲノミクスとメタボロミクスの研究が進むスタート地点であると見ています。言い換えると、これらの動物研究によって、ヒトマイクロバイオームをより理愛するための重要な一歩が踏み出されたということです。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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