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膣マイクロバイオーム– 隠されたコスモス

タブーとなっている膣の問題
未だにタブーとなっている膣の問題 (Pic: © Iryna – stock.adobe.com)

過去数十年の間に、消化管マイクロバイオームの問題が注目されるようになりました。さまざまな本や論文によって、この問題が一般的に論じられるようになっています。ごく最近まで、排泄物のサンプルについて話すのには少し躊躇いがありました。しかし、今では腸の細菌群と人間の健康について、恥ずかしさなくオープンに話すようになっています。消化管マイクロバイオームは人間の体の中でも最も複雑な存在ですが、唯一の存在ではありません。口、喉、肌、肺、これら体の各部分のすべてに、それぞれ特徴的な細菌たちが定着しています。また、化粧品業界もマイクロバイオームの問題に配慮するようになっています。数年前と比べると、状況は大きく変化しています。

膣マイクロバイオームというタブー

私たちは消化管や皮ふの細菌について話すという恥ずかしさを克服しましたが、まだ克服できていない問題が一つあります。それは膣マイクロバイオームです。炎症性腸疾患についてはカジュアルに話すことができます。ですが、子供を持ちたいという希望や子宮感染症については、せいぜいのところ婦人科医かパートナーに話すくらいです。公で話すことはありません。この性に関する啓蒙の時代にダブルスタンダードとなっている問題について議論できるように、次のステップに進みたいと思います。今回の記事は、世界の人口の半分を占める女性に影響を与えている体の一部分について、いくつかの事実をご紹介することを目的としています。

絶えず変化する生態系

リプロダクティブ・メディシン・ジャーナル誌で最近公開された論考(英語)で、現在までの膣マイクロバイオーム研究の動向がまとめられました。最初に、膣マイクロバイオームは女性の生涯でずっと同じ状態であるわけではありません。幼児期や小児期の膣マイクロバイオームの構成は、消化管マイクロバイオームに類似しています。その後、思春期までの間に、膣内の細菌群は乳酸桿菌種へと変化していきます。このことから次の考えが浮かびます。 乳酸桿菌種は糖や他の炭水化物を乳酸に代謝します。乳酸はpH値を病原菌が好まないレベルに維持し、感染を防いでくれます。

現在の婦人科学では、流産や早産の多くが子宮感染症によって引き起こされることはよく知られています。時に、細菌は膣や子宮頸を超えて胎盤に定着することもあります。これによって、膣マイクロバイオームの構成とpH値が胚にとって良くない変化を起こします。その結果、胚の変化や流産、早産が起こるのです。つまり、膣マイクロバイオームが健全な状態であることは、妊娠を成功させるための重要な前提条件なのです。

膣マイクロバイオームは様々な影響を受けやすい、脆いシステム

膣マイクロバイオームを変化させるのは、病原菌の定着だけではありません。ホルモン値の変化(生理や妊娠、また女性の生涯を通じて変化します)もまた、膣マイクロバイオームの構成に影響を及ぼします。思春期には、エストロゲンとプロゲステロンの値が上昇し、乳酸桿菌の定着が促進されます。これは、妊娠するには最適な状態です。

また、喫煙や性行為、ホルモン剤の摂取(例えば避妊薬)、加齢、遺伝子の変化などは、マイクロバイオームの構成と多様性に影響を与えます。例えば、大腸菌やカンジダ菌の数は、ペッサリーとピルを使っている女性では大きく異なります。簡単に言えば、膣マイクロバイオームはとても複雑なシステムで、その働きは様々な要因に依存しています。時に私たちは知らずにその仕組みに影響を与えているのです。

また、膣マイクロバイオームの構成には民族による違いもあります。ある研究(英語)によれば、ヒスパニック系とアフリカ系の女性のpH値は、ヨーロッパ系やアジア系の女性よりも高いことが示されています。このことは、民族の違いが膣マイクロバイオームに何らかの影響を与えていることを示唆しています。

膣マイクロバイオームの適切なケアを行うための大切な結論

マイクロバイオームのケアに関してはいつも同じ結論です。最適なケアとは、マイクロバイオームの複雑な微生物システムのバランスを可能な限り乱さないように気をつけ、外部要因による影響をできる限り小さく抑えることです。喫煙、ドラック、ホルモン療法など、これらは全てマイクロバイオームの脆いバランスを崩してしまいます。同時に、どんな複雑なシステムでも同じことですが、バランスを調整する仕組みは非常に込み入っています。抗生物質が影響を及ぼしてしまうこともあります。抗生物質による治療を選択する際は、メリットとデメリットをよく考えてください。一般的に、抗生物質はマイクロバイオームの細菌の多様性を損ねてしまい、後に回復させる必要がでてきます(詳しくは「抗生物質と薬剤耐性菌の危険性」の記事をご覧ください)。

女性の生涯の中で、ホルモン剤や抗生物質、他の薬剤を使用しなければいけない出来事はあるはずです。それらを使用する場合は、事前によく考えるようにしてください。女性の年齢やマイクロバイオームの状態、妊娠は望んだものなのか、どんな治療が最適なのかなど、さまざまな条件を考慮すれば、上記の薬剤を使用するかどうかの判断は各々の状況ごとに、また女性ごとに異なるはずです。健康な膣マイクロバイオームのライフサイクルについて理解すれば、治療はより成功したものになるはずです。例えば、プロバイオティクスは他の治療の代替案となる可能性があります。>>研究へのリンク(英語)

女性の衛生用品について

これまで医学的な治療について見てきましたが、女性が日常的に利用する衛生用品が、マイクロバイオームに及ぼす影響については不明なままです。最終的な目標は、利用する目的がどんなものであっても、また衛生用品がどんな原料で製造されていたとしても、使用する機会をできるだけ少なくすることです。衛生的に保つためには、添加剤を含んでいない、pHが中性の製品を使う必要があります。最も大事なことは、香水のような化粧品を使わないようにすることです。そして理想的には、マイクロバイオーム・フレンドリーと認められた衛生用品が良いです。複雑で脆い膣マイクロバイオームのバランスを維持することができます。

今、この女性の体の一部分が然るべき注目を集めています。将来的にはマイクロバイオーム・フレンドリーな衛生用品が標準となることを祈っています。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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