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2019-08-21 11:04
by Mariyapetrova
  Last edited:

膣マイクロバイオーム―女性の健康の基礎

The vaginal microbiota
膣細菌叢は女性の細菌ニッチの中で最も良く研究されています。画像: © Africa Studio – stock.adobe.com

この記事はマリヤ・ペトロヴァ博士に寄稿して頂きました。

ヒトマイクロバイオームとは何ですか?

人間は一人で生きているわけではありません。私たちはヒトの細胞の集合体というよりも、微生物なのです。ヒトマイクロバイオームとして知られる細菌は、私たちの肌や口、鼻や消化管、尿路などで見つかります。人間と人間の体に住む細菌は共生関係から相互に恩恵を受けています。人間は細菌に細菌が成長するために必要な栄養を与えます。一方、細菌は、人間が病原菌から体を守ったり、複雑な栄養素を消化したり、ビタミン類を合成するのを助けてくれます。微生物の数と多様性は体の部位によって異なりますが、健康な人であれば、人体のほとんどの場所で微生物が見つけられるというのはとても魅力的なことです。人間の体の中では消化管に最も多くの細菌が生息しているため、消化管マイクロバイオームに研究のスポットライトが当たっています。しかし、消化管マイクロバイオームが注目されて数年の後、現在の研究者たちは女性のリプロダクティブ・ヘルスに貢献しているマイクロバイオームに興味を抱くようになりました。実際、膣内に住む細菌が女性の健康だけでなく、生まれてくる赤ちゃんの健康にとっても重要であることを示すエビデンスがたくさん出てきています。

膣マイクロバイオームの特徴

膣内細菌叢は女性の細菌ニッチの中で最も良く研究されています。この女性に特有の細菌叢は、消化管などの他のもっと複雑な細菌ニッチと異なり、多様性が低いことが特徴です。そして、膣の細菌の多様性の低さが健康と関わっています。私たちはすでに乳酸桿菌種が膣マイクロバイオームで最もよく見られる細菌であることを知っています。この細菌種は健康にとって鍵となります。

それでは、どうして乳酸桿菌は膣の健康に大切なのでしょうか?まず、乳酸桿菌は乳酸を産生する細菌であり、乳酸は膣内のpHを4~4.5に下げます。したがって、乳酸桿菌は膣内を酸性環境に保つのです。このpHの低さと乳酸の多さによって、病原菌が膣内に侵入するのを防ぎます。病原菌の多くは酸性環境では生存できず、成長することもできません。また、複数種の乳酸桿菌が異なった形で病原菌と戦い、膣の健康を維持してくれています。例えば、抗病原性の物質を産生したり、膣上皮に付着したり、また免疫系を制御しているシグナル経路に影響を及ぼしたりします。

このように、膣マイクロバイオームの一部である乳酸桿菌は、女性の健康にとって不可欠なものであり、あらゆる細菌や菌類、ウイルスの感染から膣を守ってくれるものなのです。

指紋と同じように、膣マイクロバイオームはそれぞれの女性で個性的なものとなっています。膣内細菌叢はホルモン、環境要因、妊娠、そして抗生物質の使用や性行動、喫煙、ボディソープを使った洗浄、ストレスなどによって影響を受け、特徴づけられます。注目すべきことは、膣マイクロバイオームは女性それぞれで独特なだけでなく、一人の女性でも絶えずダイナミックに変化し続けていることです。膣マイクロバイオームは女性の生涯を通じて変化するだけなく、短期間でも大きく変わります。例えば、生理中は、ホルモンの変化が膣細菌叢の構成に影響を及ぼします。

乳酸桿菌が少ないと何が起こるのですか?

乳酸桿菌が減少し、病原菌が過剰に増えると、膣マイクロバイオームのバランスが崩れて(ディスバイオーシス)、疾病状態になってしまいます。細菌性膣炎(BV)はディスバイオーシスになると最も良く見られる病気です。女性の3人に1人は生涯のうちに一度はBVに罹ると言われています。BVになると、乳酸桿菌の数が減り、ガードネレラ・バジナリス、プレボテラ、アトポビウムなどの嫌気性の病原菌が増殖、膣上皮のpHを4.5まで上昇させてしまいます。現在まで、BVの正確な原因は分かっていません。研究者たちは、ホルモンの変化、性生活パートナーの数、喫煙、個人用衛生用品、抗生物質の使用がBVのリスク因子となることを発見しました。また、BVは他の膣感染症や尿路感染症、不妊、卵管炎、早産、性感染症(HIVやHPV、性器ヘルペスウイルス感染症、性器クラミジア感染症、淋病)などにも関連しています。定期的に婦人科で検診を受けることで、膣内環境が健康であることを確認できます。ですが、かゆみや焼けるような感じ、生臭さやおりものなどがあるときは、すぐに診察を受けるようにしましょう。

本題に入りましょう-どうすれば膣内細菌叢をケアできますか?

膣はさまざまな防御機構を備えた自己調整機能を持つエコシステムです。通常、膣は自らを守ることができますが、常にそうとは限りません。これが、膣細菌叢をケアすることが大事な理由です。

  • 衛生用品を使い過ぎないように気をつける。膣は自己清浄機能を持っています。したがって、毎日水で洗浄すれば十分です。それ以上のことは膣自身が行ってくれます。
  • ボディソープを使わない。ボディソープを使うと膣の酸性環境が乱され、結果的に自然の防衛機能が乱されます。薬局に行き、膣の酸性環境を損なわない製品を求めてください。
  • 膣洗浄シャワーを行わない。膣洗浄シャワーを行うための製品は、膣内細菌叢に化学的なダメージを与え、善玉菌である乳酸桿菌を容易に洗い流してしまいます。
  • 抗生物質の過剰使用を避ける。抗生物質は有害な細菌だけでなく、善玉菌も死滅させてしまいます。その結果、BVや他の膣感染症を引き起こす可能性があります。>>抗生物質について記事を読む
  • 喫煙しない。喫煙する女性は膣内の乳酸桿菌が少なく、病原菌が繁殖するリスクが上昇します
  • セーフセックスを心がける。性交渉の間、細菌の交換が行われ、その結果、膣内に「未知の」細菌がもたらされます。コンドームを使い、性感染症を予防しましょう。
クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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