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2019年06月29日

土や泥で汚れるのは良いこと?過度な衛生が免疫系に及ぼす影響

土や泥で汚れるのは良いこと?過度な衛生が免疫系に及ぼす影響

汚れるのは良いこと
土壌は豊かな栄養と微生物に満ち溢れています。子供たちを土や泥の中で遊ばせるのは良いことです(画像:© Phils Photography、stock.adobe.com)

土や泥で汚れるのは良いことです-これはロブ・ナイトとジャック・ギルバートが2018年の夏に出版した著作のタイトルです。ギルバート博士はシカゴ大学で教鞭を取る、第一線で活躍するマイクロバイオーム研究者です。著作のタイトルは『子供の人生は「腸」で決まる―3歳までにやっておきたい最強の免疫力の育て方』(原題は”Dirt is Good. The Advantage of Germs on your Child`s Developing Immune System”)で、著者たちの目標を表しています。つまり、若い親たちに土や泥の中で遊ぶことが子供たちの健康にどれだけ良い影響を与えるのかを示すことです。

消化器内科医で著作家のエメラン・マイヤー氏がギルバート博士に行ったインタビューが、2018年12月にYoutubeで放送されました。インタビューの中で、この本の概要が紹介されています。今回の記事はインタビューの内容をまとめたものです。

抗生物質が主犯です

マイヤー氏のインタビューは、妊娠した女性や赤ん坊、幼児に対する抗生物質の過剰投与の話題から始まりました。ギルバート博士は病気になる可能性(見込み)と蓋然性(確率)を区別しています。特にアメリカの内科医は、病気になる見込みを完全になくすために抗生物質を処方する傾向があります。これは長年受け入れられていた考え方ですが、抗生物質には全く副作用がないと言う判断に基づいて抗生物質を処方することを正当化します。しかし、最新の研究によると、抗生物質の投与は子供の未成熟なマイクロバイオームに大きな影響を及ぼすことが示唆されています。従って、私たちは抗生物質の投与に関してもう一度評価を行う必要があります。もし小児科医が従来の考え方に従って抗生物質を投与しようとしたら、両親は臨床の方針についてオープンな話し合いを求めるべきです。病気が起こる確率を知れば、抗生物質を投与すべきかどうなのか、また副作用を考慮すべきかどうなのかの判断が容易になります。

マイヤー氏はギルバート博士に、抗生物質投与後の治療としてプロバイオティクスを使うことの懸念について意見を求めました。プロバイオティクスは、抗生物質によって排除された体内の善玉菌を回復させると考えられています。ギルバート博士はこのような治療を認めていません。患者の中にはプロバイオティクスに強い反応を示す人もいるため、研究結果を臨床に応用することはまだできません。博士は抗生物質の治療後にプロバイオティクスを使うことは推奨していません。

本のタイトルのように、土や泥の汚れの中で遊ぶことは健康に良いのですか?

ギルバート博士は著作のタイトルが、出版社が読者の注目を集めるために採用した挑発的なものであることを認めています。しかし、博士はこうも主張しています。西洋諸国の都市部では、外で遊んで土や泥で汚れることに対する不安が不当にも長年共有されていました。その結果、衛生手段が過度に発達し、限りなく無菌状態に近い環境になりました。両親はこの問題に関して健全な判断を行うようにアドバイスされます。

土壌が豊かな栄養と微生物に満ち溢れているのであれば、子供たちを泥や土の汚れの中で遊ばせることは賢明な判断です。外で遊べば免疫が刺激され、マイクロバイオームの多様性が発達する助けとなります。悲しいことに、工業的な農業が発達した現代では、地面の土は生命のない土壌となっていることもあります。それでもまだ良い方です。もっとひどい場合には、地面は子供たちの健康に有害な水銀や肥料によって汚染されています

ジャック・ギルバート博士
「私たちを取り囲む環境は、本質的に私たちの健康に関係しています」ジャック・ギルバート博士(画像: https://www.uchicagomedicine.org/)

動物の体毛やほこり、花粉-過敏な親たちの敵

土や泥の汚れ以外にも、環境が及ぼす影響に対して同様に健全な判断を行った方が良いとアドバイスできます。子供たちに「新鮮な空気」を与えるのは良いアイディアですが、深刻な大気汚染が起こっている地域では実現困難です。犬や猫を自宅で飼い、ペットが子供にキスする度に消毒剤で洗浄することをやめれば、後で動物の体毛に対してアレルギーが起こるのを避けられる良い条件となります。また、動物の体毛と接触する機会をつくるために、都市部に住む子供たちをバスに乗せて出かけ、たくさんの家畜と触れ合わせるのは、やり過ぎでもなければ実現が難しいことでもありません。

家庭で衛生状態のレベルを調節するのはもっと簡単です。アーミッシュの農家の子供たちはいわゆる現代的な衛生手段とは無縁に育ち、最も優れた免疫系を持っています。アレルギーを持ったマウスをアーミッシュの農場のほこりに曝すと、過感作が起こりアレルギー症状が軽くなります。したがって、どんな場合であっても住居を無菌状態にしたり、強力すぎる洗浄剤の使用を控えるのは良いアイデアです(自宅にサルモネラ菌が存在するような場合は除きます。サルモネラ菌を排除した後、再び衛生状態を適度なレベルに戻してください)。

私たちが行えることと行えないこと

ギルバート博士は、健康的な生活を営むためのアドバイスでインタビューを締めくくってくれました。一般的には、新鮮な空気を吸いながら運動を行い健康な食事をすれば健全なマイクロバイオームを育むことができます。食物繊維が豊富で、未加工か加工度合いの少ない食品、そして多くの魚と果物、野菜(ギルバート博士が言うには、虹のような色彩豊かな食べ物)を食べることが推奨されます。私たちはどんな環境で育った小麦やワイン、果物を食べているのでしょうか?その食べ物にはどんな農薬や化学肥料が使われたのでしょうか?土壌の質は良いのでしょうか?食べようとしている魚は重金属やマイクロプラスチックで汚染された川や海で採れたものではないでしょうか?

これらの基準に基づいて、私たちは自分や子供たちが食べるものを意識的に選択することができます。環境問題や汚染の規制に関して言えば、私たちは直接何かできるわけではありません。これらの問題は政治やロビー活動に強く依存しています。しかし、ギルバート博士は自由市場経済にも言及しています。もし私たちが、製造から梱包の過程まで環境に及ぼす影響が可能な限り小さく、有害な化学物質を使っていないサステイナブル(持続可能)な製品だけを消費するようにすれば、自由市場と政治は次第にこれらのニーズに応えるようになるはずです。

最後に、ギルバート博士は楽天的な展望を示しています。世界中ですでにたくさんの試みが始まっています。多くの人々が、将来の世代が健康に生きられる地球環境の維持に強い関心を示すなら、本当に実現させられるはずです。https://www.uchicagomedicine.org/

2019年06月29日

ICADAセミナーの報告ーマイクロバイオーム・コスメティクスの専門家セミナー

ICADAセミナーの報告-マイクロバイオーム・コスメティクスの専門家セミナー

マイクロバイオーム・コスメティクスのセミナー
ドイツで初めてとなるマイクロバイオーム・コスメティクスの専門家セミナーが行われました。
画像「細菌が私たちをきれいにする!」、©shutterstock.com、298261583、StockSmartStart

2018年9月13日、ドイツのBAV Instituteとヨーロッパの化粧品協会ICADA(主催者ブルンケ博士)がドイツで初めてとなるマイクロバイオーム・コスメティクスの専門家セミナーを開催しました。MyMicrobiome (ノイマン博士、www.mymicrobiome.info)がセミナーの報告を行います。

次の議題について解説します。

  • 化粧品の微生物学的検査法
  • 化粧品成分の作用機序と実現可能な効果
  • 皮ふマイクロバイオーム製品のコンセプト
  • 市場の潜在性
  • マイクロバイオーム・コスメティクスの効果の証明
  • ヨーロッパの規制状況

 

化粧品業界ではすでにマイクロバイオームの問題が広く受け入れられています

ヒトマイクロバイオームとは「人間と体内空間を共有している片利共生性、相利共生性、そして病原性生物の生態群集」(レーダーバーグ他、2001年)のことです。すでに1988年には「マイクロバイオームは、明らかな物理化学的性質を持ち、明確に定義された空間内に合理的に生息する、特徴的な微生物群集と定義できるかもしれません。従って、この用語には微生物だけでなく、微生物が担う働きも含まれます」と定義されています(ウィップス他、1988年)。

一般にはまだ充分には知られていませんが、マイクロバイオームの問題は化粧品業界では広く受け入れられています。バランスの整った健全な皮ふマイクロバイオームが、肌の健康に直接的に相関しているのは明らかです。「マイクロバイオーム・コスメティクス」の専門家セミナーでは、皮ふマイクロバイオームに関わる化粧品技術の現状について議論が行われ、皮ふマイクロバイオームと肌の健康に良い影響を与える製品の可能性について話し合われました。

微生物の特性評価・調査方法

まず、微生物の特性を評価する方法や調査方法などの実践的な問題について議論が行われました。現在用いられている細菌の分類方法の中には、100年以上前の手法に基づいているものもあります(顕微鏡検査、グラム染色によるグラム陽性細菌とグラム陰性細菌の分類など)。特に、特定の場所に細菌が生息しているかどうかを調査する微生物学的検査方法は、細菌の状態を把握するには不十分です。細菌培養などの伝統的な方法を使って検出できるのは、実際に存在している細菌のわずか1%だけです。残りの99%の細菌は実験室で増殖させることができないからです。

現在では、分子生物学的手法が急速に発展しており、残りの99%の細菌も検出できるようになっています。しかし、肌の細菌を調査する場合は、また別のハードルに直面します。サンプルの採取方法です。

皮ふマイクロバイオームのサンプル採取方法の違いは結果に大きく影響します

皮ふマイクロバイオームのサンプル採取方法の違いは結果に大きく影響します
皮ふマイクロバイオームのサンプル採取方法の違いは結果に大きく影響します

皮ふマイクロバイオームを調査する場合の問題は、主要な細菌は肌の表面には生息しておらず、表皮のより深い層に存在しているということです(常在マイクロバイオーム)。皮膚の表面には主に、ドアノブに触ったり、他の人と握手をしたときなどに付着する微生物などが存在しています(一時的なマイクロバイオーム)。皮ふの表面から細菌を直接採取したり、スワブ(綿棒)で擦るだけでは、一時的なマイクロバイオームのサンプルしか摂取することはできません。これでは、朝に採取したサンプルと夕方に採取したサンプルで内容が大きく異なることになります。もっと正確にサンプルを採取したい場合には、皮ふ生検を行う必要があります。皮ふ生検の代表的な方法が引き剥がし法で、テサ・ストリップというフィルムを肌の同一箇所に張り付けて引き剥がすことを10回繰り返します。こうすることで皮ふのより深い層の細菌を確認することができます。しかし、この採取方法は肌の非常に狭い部分のサンプルしか採取できないという欠点があります。

大きな多様性を持つ皮ふマイクロバイオームを調査するには、単純な解析方法では不十分です

皮ふマイクロバイオームの解析方法はこれまで非常に複雑に発展してきました。地球の生態系と比較されるように、皮ふの生態系は場所ごとに大きく異なります。そのため、肌の各部分に定着している微生物もそれぞれ独特です。前腕や手の甲などの乾燥した部分で見つかる細菌は、最も多様性が大きくなっています。額や背中、鼻孔などの脂ぎった部分では、キューティバクテリウム属(以前はプロピオニバクテリウム属として知られていました)が主要な細菌です。最も細菌の多様性が大きいのは、脇の下、肘や膝の内側などの湿った場所です。このように、人間の肌では場所ごとに本当に細菌の多様性が大きいだけでなく、人間同士の細菌のやりともも変化に富んでいます。

マイクロバイオーム・フレンドリーなコスメティクスを開発することは可能でしょうか?

この議論には次の問題があります。どのようにすれば人間の肌の細菌の多様性を維持しつつ、人間同士の細菌のやりとりにも配慮したコスメティクスを開発できるのでしょうか?ベルリン工科大学のランク教授は、皮ふの「コア・マイクロバイオーム」の維持を重視することを提案しています。健康な肌の90%を占めるのは表皮ブドウ球菌で、次に多いのがキューティバクテリウム属とコリネバクテリウム属です。しかし、皮ふ細菌叢を占める細菌の多様性が大きいと言え、それは人間の肌に存在する細菌のごく一部でしかありません。

肌の細菌の問題はとても複雑でまだ少しのことしか分かっていませんが、皮ふの細菌に配慮した多くのコスメティクス製品がすでに購入できるようになっています。これらの製品は「マイクロバイオームを改善する」、「細菌の働きを活性化させる」、「マイクロバイオームを維持する」など、さまざな宣伝文句を謳っています。また、プロバイオティクスやプレバイオティクス、ポストバイオティクスなどの食品業界で用いられている言葉も化粧品業界で使われています。

プロバイオティクスとプレバイオティクスは肌に役立ちますか?

食品業界ではプロバイオティクスとプレバイオティクスが明確に定義されていますが、化粧品業界では事情が異なります。国際連合食糧農業機関(FAO)とWHOが定義する食品としてのプロバイオティクスは「十分な量で摂取したときに宿主(人間)の健康に良い影響を与える生きた微生物」というものです。この定義があるにも関わらず、死んだ細菌を含んだ食品がときに「プロバイオティクス」化粧品とされていることがあります。また、現在販売されている化粧品で「プロバイオティクス」という言葉を使っている製品は、消化管マイクロバイオームのプロバイオティクス細菌と同じものを用いています。つまり、乳酸桿菌ビフィズス菌を使っているのです。皮ふの細菌叢は消化管の細菌叢とは根本的に異なります!腸内フローラのためのプロバイオティクス細菌は肌では生存することができず、皮ふマイクロバイオームに良い効果があるのかは疑問です。


同様の問題は肌のプレバイオティクスにも当てはまります。腸のためのプレバイオティクスの多くはフルクトース(FOS)です。しかし、皮ふマイクロバイオームの細菌はFOSを代謝する酵素を持っていません。市場の動きに科学の進歩が追いつく必要があります。

良いニュースもあります。複数の企業がすでに、皮ふマイクロバイオームに良い影響を与えたり、肌の健康に効果がある細菌成分を特定し、科学的に有効性を確認しています。そのような細菌の一部は今回のセミナーで紹介されました(キャス・オコネル氏へのインタビューを参照)

皮ふマイクロバイオームのための化粧品の開発では、特定の細菌株のライセート(溶解物、断片化した細胞)を利用しています。一方、このライセートは皮ふにも健康効果を示すことが分かっています(バリア機能や皮ふの再生、有害な細菌の排除)。また、特定の乳酸桿菌株のライセートは病原菌である黄色ブドウ球菌を抑制し、皮ふの共生細菌叢の成長を促します。

また、セミナーでは他にも、マイクロバイオーム・コスメティクスの有効性についてこれまで十分に論じられていなかった問題や、化粧品業界に求められている規制について話し合われました。

化粧品業界は新たな基準を定める必要があります

ブリュンケ博士、MTC代表取締役
ブリュンケ博士(MTC代表取締役、bruenke-mtc.de)は革新的な試験方法をいくつも発表しました

化粧品は例えばBAVなどの品質検査を受けます。しかし、マイクロバイオームに及ぼす影響を評価する品質検査はありません。マイクロバイオームに配慮することは、今後の化粧品では絶対に不可欠です。また、現在の化粧品の中にはマイクロバイオームに悪影響を及ぼすものもあるので、化粧品の品質に関する新しい基準を定めることが求められます。ブリュンケ博士 (MTC代表取締役、bruenke-mtc.de)は革新的な試験方法を複数発表しました)。

  • 皮ふの細菌叢が受ける負の影響の排除
  • 人間の体が本来持つ皮ふマイクロバイオームによる肌の防護機能の維持
  • 細菌が原因となる病気の治療

最終的には、マイクロバイオーム・コスメティクスの効果は人間を対象として評価する必要があります。

現時点で、マイクロバイオーム・コスメティクスに対する規制はまだありません。欧州議会規則の第2条1-aによると、「化粧品」とは人間の体の外部 (表皮、毛髪、爪、 唇および外生殖器)または口腔内の歯や粘膜に、美容のみを目的として、あるいは清浄化、賦香、美化、保護、維持または芳香を主目的として使用することを意図したあらゆる物質や混合物を意味します。

現在、欧州委員会によるマイクロバイオーム・コスメティクスに関する取り決めを行うワーキング・グループにおいて、ICADAやヨーロッパ化粧品工業会はこの定義に基づいてどのようにマイクロバイオーム・コスメティクスを分類するべきかの議論を行っています。皮ふマイクロバイオームの明確な定義はまだありませんが、肌の一部として考えられます。肌を良好な状態に保つということには、マイクロバイオームの維持も含まれるべきです。健康なマイクロバイオームは健康な肌を保証するものだからです。また、これまで使われていた「肌フローラ」という言葉は現在、「皮ふマイクロバイオーム」という言葉に置き換えられています。化粧品業界で使われる用語はこの定義に基づくべきなのでしょうか?それとも、マイクロバイオームを化粧品に含めるという画期的な発明に関しては、より幅広い定義あるいは再修正された定義を採用するべきなのでしょうか?

化粧品がマイクロバイオームに与える影響に関しては意見の不一致もあります。例えば、細菌には殺生物性製品の規制が適用されるのでしょうか。合理的な解決方法が必要なことは明らかです。

マイクロバイオームの問題は化粧品業界に浸透しています

今回のセミナーを総評すると、化粧品がマイクロバイオームと私たちの健康に影響を及ぼすという問題は、化粧品業界ではすでに認知されていると言うことができます。肌の細菌の研究は始まったばかりで、答えよりも疑問の方が数多くあります。しかし、マイクロバイオームに配慮した化粧品はすでに市場で販売されています。中には、科学的根拠がないのに「肌に良いプロバイオティクス・プレバイオティクス」という言葉を使っている製品もあります。一方で、厳密な研究によって皮ふマイクロバイオームと肌の健康を促進することが証明された、適切な成分や細菌株を使った製品もあります。化粧品の消費者は食品についてと同じように、意識的に本当に役立つ製品を選ぶ必要があります。科学的根拠のない製品しかないのであれば、無駄なお金を使うのはやめましょう。大手化粧品メーカーに考えて欲しいのは、現在ある科学技術を用いて、健康なマイクロバイオームを育むことができる本当に有益な製品を開発する方法です。まず、人間の肌に住んでいる細菌に対する悪影響をできるだけ小さくする必要があります。また、皮ふの「コアマイクロバイオーム」に研究の重点を置くなら、マイクロバイオームに良い影響を与える化粧品の開発方法が見出せるはずです。

マイクロバイオーム・コスメティクスの品質管理基準は、消費者のためにもできるだけ早く定められるべきです。欧州委員会にもまた、この新しい化粧品を分類・規制するために意味のある基準を策定することが求められています。

人間に害を与えるよりも良い影響を与えることの方が多い小さな共生者が、然るべき注目を集めるようになっているのは素晴らしい進歩だと言えます。

 

セミナー議題:
1. 人間の皮ふ細菌叢 (ジョエル・ヌスバウム工学博士、BAV INSTITUTEカスタマーサービス最高責任者)
2. 化粧品の微生物学的検査方法と皮ふの細菌 (パウル・アンドレ工学博士、BAV INSTITUTE(オッフェンブルク)代表取締役)
3. マイクロバイオーム、皮ふ細菌叢、化粧品-作用機序、化粧品の有効成分、効果 (ハイコ・プラーデ、CLRベルリン)
4. ベストプラクティス-マイクロバイオームと皮ふ細菌叢に配慮した化粧品 (ジョアンヌ・ランク、BELANOメディカル株式会社)
5. 科学的基礎-マイクロバイオーム、細菌叢、皮ふ (クリスティーヌ・ランク博士、ベルリン工科大学)
6. BioSKNが皮ふマイクロバイオームに与える影響 (V・クリュッグ博士、Gloryactives)
7. マイクロバイオームの評価と化粧品の有効性の証明 (ブルンケ博士、MTC e.K.)
8. (現在欠いている) 規制とその選択肢 (ブルンケ博士、化粧品協会ICADA(社団法人))

ICADAについて-化粧品協会ICADAは国際的なロビー活動団体です。中小企業の利益を代表しています。現在進行中のEU議会とマイクロバイオーム・コスメティクスに関する議論のために、マイクロバイオーム・コスメティクスの専門家会議を開催しました。

BAV-Instituteについて-BAV-Instituteは食品、化粧品、医薬品を評価する公式の研究施設です。ヨーロッパ薬局方と関連のISOに従い、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」(GMP)のルールに基づいて品質管理を行っています。マイクロバイオーム・コスメティクスの専門家セミナーを主催者です。

MyMicrobiomeについて-MyMicrobiome.info(www.mymicrobiome.info)はマイクロバイオームの情報を提供するウェブサイトです。マイクロバイオームに関する科学的な事実を一般の方に分かりやすい形でお伝えします。MyMicrobiomeは現在一般の方が簡単に利用できる唯一の教育的なプラットフォームです。今回の記事ではウェブサイトの作成者であるクリスティン・ノイマン博士がセミナーの内容をまとめました。

2019年06月28日

ベルリンの最新のマイクロバイオーム研究が示す新しい知見

ベルリンの最新のマイクロバイオーム研究が示す新しい知見

ベルリン・ディスカバリー・アンド・デベロップメント・会議
MyMicrobiomeはベルリン・ディスカバリー・アンド・デベロップメント会議(2018年6月7日~8日)に参加しました。

ベルリン・ディスカバリー・アンド・デベロップメント会議(2018年6月7日-8日)の概要

MyMicrobiomeのスタッフがベルリンで開かれた会議に参加し、さまざま分野におけるマイクロバイオーム研究の進展について話を伺いました。今回の記事はその概要をまとめたものです。

会議の最も大きな話題の一つが糞便細菌叢移植(FMT)で、3つの企業(Finch therapeutics社、MAAT Pharma社、Enterobiotix社)が報告を行いました。

また、皮ふマイクロバイオームも大きな話題となり、L’Oréal社、Sbiomedic社、Origimm社が報告しました。

Osel Inc社は膣マイクロバイオームについて面白い報告を行いました。その他にも免疫調節や法規制の問題、解析方法など、マイクロバイオームに関連する興味深いさまざまなトピックが扱われました。

FMT-糞便細菌叢移植

FMTはディスバイオーシスに対する治療です
FMTはディスバイオーシスに対する治療です。画像:© AdobeStock_100469509

糞便細菌叢移植(FMT)はディスバイオーシス(マイクロバイオームの乱れ)、特にクロストリジウム・ディフィシル感染症に対する治療法として一般的になってきています。FMTはC.ディフィシル感染症の治療法として、90%の有効性があることが認められています。しかし、FMTの制御に関しては不明な点も残っています。

FMTは非常に効果的なのですが、移植前に適切な検査を行わなければ危険が生じる可能性もあります。一方、研究機関や研究者の中には、糞便移植が「クリーンなもの」(もし「クリーン」と言えるなら)だと認める人もいます。例えば、 OpenBiomeのFMTのデータベースには、医師や科学者が解析した3万を超える糞便サンプルが含まれています。ベンチャー企業の中にはFMTを安全かつ一定の基準を満たす方法で収集・調整し、規制当局から承認を得ようとしているところもあります。

MAAT Pharma社はFMTに関連する医薬品等の製造管理および品質管理に関する基準(GMP)を示した、ヨーロッパ最初の企業です。同社は複数のドナーからサンプルを採取し、FMT製品中の細菌叢の多様性を増加させました。MAAT Pharma社が示す最終製品の品質基準は、細菌の多様性と純度(病原菌の汚染がないこと)に基づいています。がん治療はマイクロバイオームに深刻な影響を及ぼすため、同社はがん治療中にマイクロバイオームを回復させる製品を開発しています。

アメリカのFinch Therapeutics社は、C・ディフィシル感染症を治療するためのFMTカプセルを開発しました。Finch社はOpenBiomeのデータベースから3万5000以上のC.ディフィシル感染患者のサンプルを調査しました。FMTカプセルの治療率は90%でした。

また、イギリスのEnterobiotix社もFMT製品を開発中です。特に、比較的少ない容量で利用できる製品の開発に力を注いでいます。Enterobiotix社の目標は健康な人のマイクロバイオームを保存し、抗生物質投与後にマイクロバイオームの回復に役立てることです。

糞便細菌叢移植に関する興味深い記事は次のリンクから読むことができます(英語)。https://www.sciencenews.org/blog/scicurious/fecal-transplants-regulation

FMTは消化管の症状に対して成功を収めた治療法です。多くの企業がさらにFMTを改良し、必要とする人々が容易に利用できる治療法として完成させようとしていることはとても幸運です。

皮ふマイクロバイオーム

老化が進行すると、皮ふの細菌の多様性は増加します
老化が進行すると、皮ふの細菌の多様性は増加します。

L’Oréal社は老化が進行する間に皮ふの細菌の多様性が増加し、アクネ菌(正式にはプロピオニバクテリウム・アクネス)の割合が減ることを発見しました。この発見は、細菌の多様性が大きければ大きいほど良いとする現代の常識を考えると、非常に興味深いものです。アクネ菌は皮ふの老化を防ぐ門番のような存在だと考えられています。女性が閉経した後、アクネ菌のエサとなる皮脂の分泌量は減りますが、この現象は高齢者の乾燥肌と相関しています。

S-biomedic社は肌の健康のためには細菌の多様性だけでなく、適切な種類の細菌が適切な割合で存在していることが鍵であると主張しています。同社の研究は尋常性ざ瘡を中心とし、皮ふの主要な共生菌であるアクネ菌がにきび肌と健康な肌では異なる振る舞いをしていることを発見しました。一般的にこの細菌自体はにきびのある肌でも健康な肌でも同じですが、患部ではある種の皮脂の化合物が健康な肌とは異なる形で代謝されています。にきびを引き起こすアクネ菌の代謝物は、皮脂の過剰分泌を起こしてにきびの成長を促し、悪玉のアクネ菌を増殖させるという悪循環を引き起こします。S-biomedic社は、悪玉アクネ菌を善玉アクネ菌に置き換える臨床試験を実施しています。最初の結果は成功したように思われます!

膣マイクロバイオーム

膣マイクロバイオームの多様性の大きさは病気と相関しています
膣マイクロバイオームの多様性の大きさは病気と相関しています。

Osel Inc社は膣マイクロバイオームに関して非常に興味深い報告を行いました。他の部位のマイクロバイオームとは対照的に、膣マイクロバイオームの多様性の大きさは病気に相関しています。膣マイクロバイオームの特徴は、健全な状態の微生物相では乳酸桿菌が優勢となっていることです。ラクトバチルス・クリスパータスは健康に最も有益な細菌で、ほとんどの女性の中に存在しています。この細菌は乳酸を産生することでpHを低い状態に保ち、H2O2の量を増加させて有害な細菌を排除します。ラクトバチルス・クリスパータスが少ないことはHIVや細菌性膣炎、尿路感染症の高いリスク、そして不妊とも相関していました。早産もラクトバチルス・クリスパータスを増やすことで防ぐことができます。もちろん、Osel Inc社はラクトバチルス・クリスパータスを利用した製品を開発しており、現在さまざま臨床試験を実施しているところです(細菌性膣炎、尿路感染症、イン・ヴィトロでの受精など)。臨床試験の結果を楽しみにしましょう!

マイクロバイオームの解析方法

現時点で最も結果が出るのが早く実施が簡単な解析方法は、16S rRNA解析です
現時点で最も結果が出るのが早く実施が簡単な解析方法は、16S rRNA解析です。

マイクロバイオームの解析時に直面する重要な問題について、いくつかの報告が行われました。現時点で最も早く結果が出て実施が簡単な解析方法は、16S rRNA解析です。この解析方法では、細菌のRNA翻訳機構(リボソーム)の一部を分析します。しかし、16S rRNA解析は属レベルの情報しか与えてくれず、種のレベルまでは判別できません(例えば、乳酸桿菌属までは判別できますが、 ラクトバチルス・クリスパータス種までは判別できません)。種の判別はゲノム・シークエンシング(メタゲノム解析)を行うことで判別できますが、この解析方法は多くの時間と大きなコストがかかります。それだけでなく、マイクロバイオームに存在する細菌の中にはあまり動かない細菌もいるため、代謝活動を調べる必要があります。細菌の代謝活動を調べる方法はメタボロミクスと呼ばれ、マイクロバイオームの細菌ではなく生成物(代謝産物)を調べます。メタボロミクスの大きな利点の一つは、サンプル中にマイクロバイオームの特定種の細菌が存在している必要はなく、細菌が特定の働きさえしてくれれば解析できることです。メタボロミクスは代謝などの細菌の働きを調べるからです。今後、長期的には、メタゲノム解析とメタボロミクスがマイクロバイオームの標準的な解析方法となるでしょう

2019年06月28日

マイクロバイオームは人間の発達にどのような役割を果たしているのですか?

マイクロバイオームは人間の発達にどのような役割を果たしているのですか?

あなたのマイクロバイオームの成長
あなたが生まれた瞬間から、マイクロバイオームはあなたと共に(あなたの中で)成長し始めます!

MyMicrobiomeのウェブサイトでは、衛生用品肥満抗生物質メンタルヘルスなどのさまざまな健康問題とマイクロバイオームの関係について、魅力的な記事をたくさん投稿してきました。今回は、人間の誕生の話に立ち戻り、マイクロバイオームが人間の発達にどのような影響を与えるのか改めて見直していきます。

ハッピーバースデー

あなたが生まれた瞬間から、マイクロバイオームはあなたと共に(あなたの中で)成長し始めます!母親が赤ちゃんを母乳で育てるのなら、母乳がすべての始まりとなります。科学者たちは生まれてから最初の3年間が、マイクロバイオームの発達に最も重要な時期であると考えています。バースデーケーキの代わりに、赤ちゃんの最初の誕生日には母乳のシェイクを用意しましょう!ホイップクリームやさくらんぼで飾り付けるのも悪くないアイデアです。

マイクロバイオームの基礎知識をおさらいしたいのなら、「人間の発達におけるマイクロバイオームの役割」という記事を読むことをお勧めします。マリア・グロリア・ドミンゲス・ベロ、フィリッパ・ゴドイ・ヴィットリノ、ロブ・ナイト、そしてマーティン・J・ブレイザー(ニューヨーク大学研究教授)が執筆しています。この論文の重要なポイントを以下にまとめます。4名の研究者たちはマイクロバイオームが人間の発達に及ぼす影響について、これまでの知見を総括しています。具体的には、1)人間の進化、2)母体と胎児の関係、3)マイクロバイオームが人間の栄養摂取と成長に及ぼす影響についての将来的な研究の展望、の3つのトピックです。

生命の輪-進化と誕生

最初に書いたように、誕生してから始まる人間の成長には、細菌叢の成長も含まれています。しかし、細菌叢が適切に発達していなければ、人間も発達できなかったということを考えたことはあるでしょうか?マイクロバイオームは人間とともに進化し、私たちの祖先の系統から少しずつ現生人類の表現型を形づくってきました。表現型とは、私たちの実際の物理的な特徴のことです。身長や目の色などの目に見える特徴だけでなく、健康状態や病歴、性格なども表現型なのです!論文中で著者たちは、このことをとても詩的に強調しています。

細菌叢は私たち人間の体と外部とのインターフェースであり、環境(食物や太陽光、入浴や化粧品なども含めた)との相互作用を担っています。細菌叢は自己であると同時に非自己でもあるのです

インターフェースが二つの系が接触して相互作用する一点だとしたら、細菌叢はアパート(人間の体)の中にいる荷物運搬人のようなものと考えれば良いでしょう。荷物運搬人は誰(何)が建物の外からやってくるのか、常に注意を払っています。

母親の細菌叢は胎児に間接的に影響を与える

ひとりの人間の細菌叢の観察に立ち戻りましょう。ヒトなどの哺乳動物では、子宮は免疫で守られており、細菌が中に定着することはできません。子宮、胎児、そして胎盤にはいかなる細菌叢も存在していません。しかし、母親の細菌叢は胎児に間接的に影響を与えます。分娩と授乳は「子供が初めて複雑な細菌叢に接触する機会です。それは哺乳動物における細菌叢の世代間移行の原始的なメカニズム」なのです。どのようにして一つの世代(母親)からもう一つの世代(赤ちゃん)に細菌叢が移行するのでしょうか?答えは解剖学にあります。産道は肛門管に隣接しており、この構造によって母親の消化管と膣の細菌叢が子供に移るのです。そのため、経腟分娩中の抗生物質投与や帝王切開は、細菌の子供への定着を変化させてしまいます。また、細菌叢の移行はこれだけでなく、論文の著者たちによれば、母乳を与えることで子供の脳の感覚・運動機能を顕著に発達させることができます*。

生まれた後には何が起こるのですか?

人間の初期の発達は泡の中で起こるわけではありません。人口密度、住居の構造、換気、食事、衣服、運動、パーソナルケア商品や医薬品、そして住んでいる地域など、すべての要因が発達に影響を及ぼします。先進国の都市部では、どのようにすれば大人や子供たちが「健全な」細菌叢を維持することができるのでしょうか?著者たちは、子供の身長・体重と成長の関係について基準を定めたのと同様に、健康な環境下でマイクロバイオームがどのように発達するのか、健康的でない環境と比較して評価する研究の必要性を訴えています。「特に、マイクロバイオーム発達の成長曲線」が必要とされています。そのような基準があって初めて、細菌叢の乱れと宿主(人間)の反応、疾患の関連を知ることができるのです。将来の世代のためにマイクロバイオームを取り戻すという希望を持ちましょう。

*赤ちゃんの生後3年間の消化管細菌叢の発達については、こちらの記事をご覧ください

2019年06月27日

青春の泉の発見–それはあなたの消化管マイクロバイオームにあります

青春の泉の発見–それはあなたの消化管マイクロバイオームにあります

消化管マイクロバイオームは青春の泉?
消化管マイクロバイオームは青春の泉?

2019年3月、コロラド大学ボーダー校のオンラインジャーナル『CU Boulder Today』は、マイクロバイオームに関する記事を公開しました。記事は統合生理学学科のウィーン・ブラントが主筆著者となり、ポスドクの研究チームによる最新の研究結果が報告されました。

加齢が心血管疾患のリスクを高めることはよく知られています。また、疾患のリスクを高める原因である高炎症マーカー値についても数多くの研究が行われてきました。加齢によって消化管マイクロバイオームが「悪い」状態になり、多くの悪玉菌が消化管に定着すると心血管疾患のリスクが高まるという洞察は、これまでにない新しい発見です。

消化管マイクロバイオームが宿主(人間)に歯をむく

この驚くべき論文(記事の全文は『Journal of Physiology』で読むことができます)は若齢マウスと老齢マウスを対象に、さまざまな種類の抗生物質を用いて消化管マイクロバイオームの細菌を排除した実験に基づいています。抗生物質でマイクロバイオームの細菌を除去した後、若齢マウスと老齢マウスの動脈を調べ、血管の硬さ、炎症性物質やフリーラジカル、抗酸化物質、窒素酸化物の量を分析しました。

その結果はとても驚くべきものでした。抗生物質を三週間投与した後、若齢マウスでは循環器疾患への影響は認められませんでした。しかし、老齢マウスでは循環器の顕著な発達が観察されたのです。

論文の最終著者で研究ラボディレクターのドゥ・シールズはこう述べています。老齢マウスの心血管機能は、抗生物質でマイクロバイオームを破壊することによって若いマウスと同じレベルまで引き上げられたのです。

長寿のためのマイクロバイオーム治療?

研究チームは抗生物質で治療したマウスでプロテオバクテリア属(サルモネラ菌)デスルホビブリオ属などの炎症誘発性の細菌が減少していることを発見しました。老齢マウスの比較群でも同様の細菌が見つかっていますが、過去の研究ではこれらの細菌は心血管疾患と関連していました。 また、抗生物質治療を行わなかった比較群ではTMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)が見つかっていますが、過去の研究では若齢マウス群よりも3倍高いレベルで動脈硬化や心臓発作と関連していました。

シールズたちは、年齢を重ねるとともにマイクロバイオームに悪影響を及ぼすような変化があり、炎症性物質などの産生量が増加したのだと考えています。

しかし、抗生物質でマイクロバイオームを破壊することは解決策になるのでしょうか?三週間の抗生物質治療で機能しなくなったマイクロバイオームを破壊し、心血管疾患のリスクを若齢者と同じレベルにまで引き下げることに意味はあるのでしょうか?

著者たちは明らかにこの解決方法を強く主張することは控えています。予測できない抗生物質の副作用リスクは、このような過激な治療法のメリットを上回っています。しかし、年齢を重ねるごとに食べ物を変え、抗炎症性の食べ物の摂取を増やしていくことは、マイクロバイオームを助けるために賢明な手段と言えます。ヨーグルトやケフィアなどのプロバイオティクス食品や、果物や野菜、他の食物繊維が豊富なプレバイオティクス食品を食べることで実現できます。さらに、高品質なオリーブオイルやビネガー、赤ワインを食事に加えれば、TMAOから体を守るジメチル・ブタノールを摂取することができます。

年を取れば取るほど、マイクロバイオームを気遣うことが大事になります。

2019年06月27日

化粧品業界が皮ふマイクロバイオームに注目しています

化粧品業界が皮ふマイクロバイオームに注目しています

化粧品企業と皮ふマイクロバイオーム
化粧品と医薬品業界がマイクロバイオーム分野で新たに協力を行い、研究開発を行っています。

マイクロバイオームは化粧品と医薬品業界にとって全く新しい分野です。これはとても素晴らしいニュースです。これまでに現れては消えてきた流行とは異なり、マイクロバイオームは一時的なトレンドではありません。科学に基づく重要な問題なのです。また、マイクロバイオームへの関心は化粧品のニーズを人工的に作り出すだけでなく(マーケティングの目標は通常ニーズを作り出すだけで終わります)、「自然への回帰」を意味します。

研究開発では数多くの協力が行われています

DSM社は最近、ベルギーのバイオ企業のマイクロバイオーム研究に投資を行ったと発表しました。DSM社は世界をリードする食品サプリや化粧品、化学製品の製造企業です。S-Biomedics社はプロバイオティクスによるにきび治療と皮ふや消化管マイクロバイオームとの相互作用について研究を行っています。DSM社のスポンサーウェブサイトが示すように、同社は真摯に新しい協力関係を築いています(詳細情報のリンク)。

イギリスの企業SkinBio Therapeutics社も同様の活動を行っています。化粧品や感染予防製品を開発し、プロバイオティクスに基づいた湿疹治療の研究を行っています(詳細情報のリンク)。

また、著明な化粧品メーカーのL’Oreal社も最近、米国のuBiomeグループと提携しました。L’Oreal社はマイクロバイオームの調査に研究の重点を置いています。

また、Gallinéeを販売するユリニーバ社(詳細情報のリンク)が行った投資も、マイクロバイオームの研究がユリニーバ社のような大企業の将来の戦略にとって重要であることを示しています。

マイクロバイオーム・フレンドリーな製品は傷ついたマイクロバイオームを回復させます。二次疾患を治療するマイクロバイオーム製品が次々と開発されています。

マイクロバイオーム研究の見出しに「イン・コスメティックス・グローバル」見本市の名前が登場

2019年4月2日から4日の三日間、パリで「イン・コスメティックス・グローバル」という見本市が開かれ、主要な化粧品と医薬品企業が参加しました。プログラムを見ると、マイクロバイオーム研究が現在どれだけ重要になっているのかが分かります。見本市の日程には、マイクロバイオームに関連した数多くのトピックが掲載されました(詳細情報のリンク)。マイクロバイオームに関わる問題が、人々の考え方であることは明らかです。私たちは今後の研究結果を楽しみに待っています。また、長らく無視されてきたマイクロバイオームがしかるべき注目を集めていることを喜んでいます。

2019年06月27日

知性を持つ胃―人間の第二の脳

知性を持つ胃―人間の第二の脳

The stomach - our second brain
知性を持つ胃―人間の第二の脳 (画像: © wowow-stock.adobe.com)

(ARTEドキュメンタリー番組のサマリー)

2018年11月の中旬に、ドイツ・フランスの共同TVチャンネルARTEで「知性を持つ胃-人間の第二の脳」というドキュメンタリー番組が放送されました。このタイトルは、地球の原始的な生き物は脳を持たない代わりに、消化器系が行動を司っているという科学の発見に基づいています。人間が火を発見し、調理を行えるようになって初めて、消化管が消費するエネルギーが少なくなり、脳が現代人の精神的機能を持つレベルまで発展できました。厳密に言うと、頭蓋骨の中にある脳が「第二の脳」で、胃の方が第一の脳なのです。

番組の中ではさまざまな科学的事実や画像を利用してこの点を強調しています。人間の消化器系と猫や犬の脳はほぼ同じ数のニューロンを持っています。その数はおよそ2億個です。また、脳と胃のニューロンの構造は非常によく似ています。

人間の中にはとてもたくさんの細菌が密に生息しています。

「あなたの腸を信じなさい」という格言は、人間の本能的な行為を表す表現として正しいだけでなく、数量的な意味でも正しいと言えます。つまり、人間の体には数百万の細菌が生息しています。この数は地球の存在する銀河系の星の数よりも数千倍多く、人間の体の細胞の数よりも数百倍も多くなります。したがって、人間の胃、正確に言えばそのマイクロバイオームは、地球で最も密度の濃い生態系になります

ハミルトンのマックマスター大学(カナダ)のマイクロバイオーム研究者、ステファン・M・コリンズは核心をついた説明を行います。人間は細菌にとって乗り物のようなものです。人間の体には1~2kgの細菌が生息していて、カロリーの30%を産生しています。私たちが食べた食べ物は主に細菌によって消化されています。人間は細菌が生み出したエネルギーを使っているのです。トレードオフとして、人間の体は細菌に住み家と栄養を提供しています。細菌は消化を行いながら、取り込まれた物質を有害なものとそうでないものに分けています。つまり、消化管マイクロバイオームは人間の体で最も重要な免疫系なのです。私たちはこのような働きをする細菌と共生しているのです。

細菌はどのようにして人間の体の仕組みの中に入り込むのですか?

人間の赤ちゃんは無菌状態で生まれます。まず最初に、細菌は腸の中に定着します。その後、腸内フローラは人間の体に取り込める善玉菌と排除すべき悪玉菌を選別します。赤ちゃんが誕生してから最初の5ヶ月で主要な細菌の顔ぶれが揃います。このプロセスにより、人間のマイクロバイオームは個人個人で独特なものになります。

帝王切開母乳の代わりに人工栄養で育てること過度に衛生的な環境母親や子供に抗生物質を投与することは、この複雑で大切な仕組みに対する脅威となります。ドキュメンタリーの中では明確に述べられていませんでしたが、私たちが文明と呼ぶものによって、「正常なマイクロバイオーム」が大きく脅かされているという事実は良く知られています。現在でも正確な原因は不明ですが、人々がマイクロバイオームが多様性を失っているのは明らかです。

マイクロバイオームの科学の最新知識

コリンズ博士は、赤ん坊が生まれた直後に、できるだけ最善の細菌を組みわせた「ワクチン」を投与した方が良いと考えています。マイクロバイオームの多様性の大きさを維持するために、「ワクチン」の投与はその後の人生の中で定期的に繰り返すことができます。現在の研究では、どのような細菌を含む「ワクチン」が効果的なのかの調査が重点的に行われています。

この調査はジュイ=アン=ジョザ(フランス)のINRAで働く科学者ダスコ・エールリッヒの目標でもあります。ダスコ博士の研究の目標は、彼がエンテロタイプと呼ぶ三種類のゲノムタイプのマイクロバイオームを解読することです。興味深いことに、どのエンテロタイプになるのかは、居住地や出生地、性別や年齢が重要な要因とはなりません。しかし、遺伝子と摂取する栄養が大きな影響を与えていると考えられています。以上がマイクロバイオームに関する現代科学の最新状況です。

肥満を防ぐ細菌?

科学者たちは、マイクロバイオームが2型糖尿病や循環器疾患などの慢性病に及ぼす影響を調べようと努めています。マイクロバイオームの乱れが健康に及ぼす影響については「傷ついたマイクロバイオームが健康に及ぼす影響」の記事をご覧ください。

ルーヴェン大学(ベルギー)のパトリス・カニは興味深い事実を発見をしました。体重が重い人の腸内フローラを調べ、アッカーマンシア・ムシニフィラという細菌が不足していることを発見したのです。カニ博士は一連の研究で、アッカーマンシア・ムシニフィラに感染したマウスと人間は比較対照群(アッカーマンシア・ムシニフィラに感染していないマウスと人間)と比べて、高脂肪食の摂食後に体重増加が少ないことを示したのです。感染したマウスでは高脂肪食から得て体内に蓄えられるエネルギー量が明らかに少なくなっていました。アッカーマンシア・ムシニフィラは人間の腸壁を覆い囲って保護している粘液層に生息し、腸壁と相互作用しています。

ここで疑問が浮かびます。私たちはアッカーマンシア・ムシニフィラを薬やサプリメントとして摂取することはできるのでしょうか?科学者の答えはノーです。脂肪を消化する能力のわずか10%だけが遺伝的要因で決まり、もう10%が細菌の働きによります。残りの80%は私たちが何を食べ、どう運動しているかの結果で決まるのです。

人間の脳が私たちの人格を決めているのでしょうか?それとも何か他の影響を受けているのでしょうか?

ステファン・コリンズは実施した調査からもうひとつ面白い結論が導き出されています。彼はマウスを2グループに分けました。ひとつは大人しいマウスのグループで、もう一つは攻撃的なマウスのグループです(スイス・マウスと呼ばれています)。そして、博士は2つのグループのマウスのマイクロバイオームを交換しました。何が起こったでしょうか?マイクロバイオームを交換すると、マウスの性格が入れ替わりました。大人しいマウスが攻撃的になり、攻撃的なマウスは大人しくなったのです。このことは、マイクロバイオームが脳に影響を及ぼすことを証明しています。この発見は研究者の間で大きな注目を浴びています。

もうひとつの気になる疑問は、どうすればこの結果を人間に応用できるのかということです。私たちは抑うつや攻撃性を食事やワクチンだけで治療できるようになるかもしれません。しかし、プロバイオティクスなどのサプリメントに関する最近の研究は、性急な行動を戒めます。特定の細菌をワクチンで定着させることはできません。細菌の定着を助けることができるだけです。

一方で、プロバイオティクスは脳の特定部位の活性化を抑え、ストレスなどの負の感情を和らげることを明確に証明した研究もあります。科学者たちは性急に結論を出さないよう忠告していますが、いずれにしてもプロバイオティクスが脳と健康の両方に良い影響を与えることは間違いありません。

細菌は人間の第三の知性となるのですか?

コリンズ博士は次のようにまとめています。私たち人間は細菌によってコントロールされているわけではありません。ですが、細菌が私たちの状態や行動に影響を与えていることは確かです。博士によると、人間の頭蓋骨の中の脳と胃の中の脳に加えて、私たちの体の中には第三の知性があります。それはもちろん、細菌のことです。この発見は科学にパラダイムシフトを起こすものです。自己と外部の間に明確な境界はありませんが、数千の遺伝子、数百万のニューロン、そして数億の細菌の未だ十分には解明されていないネットワークから構成される、複雑なシステムが存在するのは確かです。この複雑さを私たちが理解するには、科学はまだ充分に進歩していません。

2019年06月27日

Yoba for Lifeー健康を増進するプロバイオティクス・ヨーグルト・スターターカルチャー

Yoba for Lifeー健康を増進するプロバイオティクス・ヨーグルト・スターターカルチャー

MyMicrobiomeでのYobaヨーグルト・スターターカルチャーの取り扱い開始
MyMicrobiomeでは、近日中に健康を増進するYobaヨーグルト・スターターカルチャーの取り扱いを始めます

Yoba for Life(Y4L)は、世界で最も挑戦的なマイクロバイオームの分野で、経済発展と人々の健康増進を目指す財団です。幸福と繁栄に満ちた未来を実現するという財団の目標は、Yobaと呼ばれるプロバイオティクス・ヨーグルト培地(カルチャー)によって達成されました。Yobaヨーグルトにはプロバイオティクス細菌のラクトバチルス・ラムノサスyoba 2012が含まれています。この細菌株はプロバイオティクス乳酸桿菌のL・ラムノサス・GG (LGG)に由来しています。LGGは世界で最もよく知られているプロバイオティクス細菌です。

世界で初めてプロバイオティクスYobaヨーグルトを地域的に生産するプロジェクトが行われたのは東アフリカです。この地域では、下痢による幼児の死亡率が特に高くなっていました。

ラクトバチルス・ラムノサス・GG–世界で最初に発見されたプロバイオティクス細菌

ラクトバチルス・ラムノサス・GG (LGG)は、1985年にボストンでゴルバッハ教授とゴルディン教授によって発見されました。発見した二人の教授の名前にちなんでGGという名前が付けられました。

L・ラムノサス・Yoba 2012はLGGを含む製品から分離された世界で初めてのプロバイオティクス細菌の固有種です(>> 詳細については「食事と栄養」の記事をご覧ください)。

LGGは300を超える臨床研究と1000を超える科学研究で研究されています。そのため、LGGは世界で最も詳しく知られているプロバイオティクス細菌株と言えます。

臨床試験による健康増進効果の証明

LGGは100%安全で、早産児や妊娠女性、高齢者でも安全に摂取できることが確認されており、副作用がありません。

アメリカではGRAS(一般的に安全)と認められており、またヨーロッパでもQPS(安全性推移、欧州食品安全機関(EFSA))と認められています。


300を超える臨床試験によって、
LGGには以下の健康増進効果があることが
示されています。

  • 呼吸器感染症の減少2
  • 小児の抗生物質関連下痢症の予防2
  • 免疫応答の改善3
  • 小児の夜泣きやそわそわの減少4
  • 皮ふ炎の症状緩和5

2 Hatakka et al. 2001, Hojsak et al. 2010a,
Hojsak et al. 2010b, Hojsak et. al 2017, Smith et al. 2013

3 de Vrese et al. 2005
4 Pärtty et al. 2013
5 Isolauri et al. 2000

ヴァリオ社(LGGの特許保有者)制作によるLGGのアニメーション


完成したヨーグルトには健康に良い細菌がたくさん含まれています

完成したヨーグルト中のL・ラムノサスYobaの数は

108(1億)から
109109(1兆)です

ヨーグルト1mlあたり

つまり、1日に100ml以上のYobaを食べれば、プロバイオティクスの効果を得るために
推奨されている量を摂取できます。

LGGは腸壁に付着するための特別な線毛を持っています

LGGは腸壁に付着するための特別な線毛を持っています
L・ラムノサスGGは腸壁に付着するための特別な線毛を持っています(画像:ロイナン他、2012年。LGGのTEM画像)

LGGやL・ラムノサスyobaは外部に特別な線毛(髪の毛のように見えます)を持っています。この線毛によって、プロバイオティクス細菌は腸の上皮細胞に付着することができます。腸壁に付着することで悪玉菌を遠ざけ、宿主の免疫系に善玉菌であるというシグナルを送ることができます。線毛は腸内環境に生息するLGGの典型的な特徴です。ですが、競走上の優位性がない外部環境下では、線毛は失われてしまいます。Yoba for Lifeを後援する財団の調査によって、この細菌株は二度発酵した後も線毛が温存されることが分かっています。乾燥したYobaスターターカルチャーから1Lのヨーグルトをつくることができます(一度目の発酵)。つくられたヨーグルトはアイスキューブホルダーに10mlずつ小分けにして保存されます。そして、小分けにしたものからいつでも新鮮なプロバイオティクスYobaヨーグルトをつくることができます(二度目の発酵)。

ヨーグルト・スターターカルチャーYoba財団

Wilbert Sybesma
Yoba財団設立者ヴィルベルト・シベスマ(PhD、MBA、バルクリスト大学病院(チューリッヒ)主任研究員、DSMニュートリショナル・プロダクツ・イノベーションマネージャー、スイス連邦工科大学ローザンヌ校教授)
Remco Kort
Yoba財団レムコ・コルト(PhD、アムステルダム自由大学分子細胞生物学科ゲノム微生物学教授、TNO微生物学・システム生物学研究主幹、世界初の微生物博物館ARTIS-Micropia教授)

Y4L財団設立者ヴィルベルト・シベスマ博士とレムコ・コルト教授。L・ラムノサスGG製品から細菌株を分離し、ジェネリック・プロバイオティクス細菌株のL・ラムノサスyoba 2012を産生しました。スターターカルチャーを製造する企業と協力し、ヴィルベルト博士とレムコ博士はL・ラムノサスyobaとストレプトコッカス・サーモフィルスC106の混合物を開発、ミルクをヨーグルトやシリアル、フルーツなどの食品にかけることで、L.・ラムノサスyobaがミルク中で増殖できるようにしました。

「Y4L」と「発酵食品フォーライフ」

発酵食品フォーライフ
発酵食品フォーライフ–プロバイオティクス・ヨーグルトの製造・販売トレーニング提供プロジェクト

2016年、Y4Lはグレゴール・リード教授とチームを結成し、発酵食品フォーライフ・プロジェクト(FFFLプロジェクト)を立ち上げました。このプロジェクトにはカナダ政府も出資しています。FFFLプロジェクトは、プロバイオティクス・ヨーグルトの製造・販売のトレーニングを提供することで、ローカル企業に新しいビジネスの機会を提供することを目的としています。また、東アフリカのような資源の乏しい国の人々にプロバイオティクス発酵食品を気軽に利用してもらおうという狙いもあります。 この活動を促進するのがYobaプロバイオティクス・スターター・カルチャーです。ハイファー・ウガンダ、ハイファー・ケニア、JKATケニアのようなローカルのパートナー企業がスターターカルチャーを地域に提供し、製造と起業のトレーニングを行います。同時に、研究者たちはソイやキャラメル、コーン、ミレットやソルガムといった地元で手に入る食品を、健康に良いプロバイオティクス発酵食品に利用できないか調査しています。

人々のニーズを満たし、プロバイオティクスヨーグルトの素晴らしさを伝えるために、プロジェクトチームはレストランや販売店、学校の栄養プログラムと協力し、巡回公演を行っています。また、人々を啓蒙するために、プロバイオティクスYobaの重要性やYobaヨーグルトのビジネスを始める利点を面白く伝える「約束の大地」という映像作品が、地元モンバサの俳優によって制作されました。

FFFLプロジェクトが達成したこと

  • ウガンダで100以上の製造拠点をつくり、25万人の定期消費者を生み出した
  • タンザニアで60以上の製造拠点をつくった
  • ケニアでおよそ10の製造拠点をつくった
  • 毎週計2万5000lのプロバイオティクスヨーグルトを製造
  • 製造と販売に携わる人の68%が女性

近日中にYobaスターターカルチャーがMyMicrobiomeで購入できるようになります!

近日中にYobaスターターカルチャーがMyMicrobiomeで購入できるようになります
近日中にYobaスターターカルチャーがMyMicrobiomeで購入できるようになります! (左:ヴィルベルト・シベスマ(Y4L設立者)、中央: クリスティン・ノイマン(MyMicrobiome)、右:レムコ・コルト(Y4L設立者))

これまで、Yobaスターターカルチャーは東アフリカとアムステルダムの小さなパン屋でしか買えませんでした。世界で唯一の、自分でつくって(Do-It-Yourself)食べられるL・ラムノサス・GGヨーグルト・スターターパックがもうすぐ購入できるようになります!

2019年06月26日

最後の手段となる抗生物質の、畜産物への使用を厳しく規制する必要性

最後の手段となる抗生物質の、畜産物への使用を厳しく規制する必要性

Chicken with antibiotics
チキンレッグが消費者の元に届けられる前に、鶏肉には抗生物質が使われています。画像:Lukas, Pexels.com

2018年11月、科学雑誌の『Bayerische Rundfunk』は、最後の手段となる抗生物質の使用に関するポッドキャストを配信しました。

最初に述べておきたいのは、科学者たちは、人々の命を救う抗生物質の効果が永続することはなく、薬剤耐性が発達するまでの間しか有効でないことを理解しているということです。しかし、この事実は一般にはあまり知られていません。抗生物質の効果が失われるまでに長い時間はかかりません。また、抗生物質の効果が失われる理由もよく知られています。現代社会では抗生物質を過剰に使用している一方で、すぐに使うのをやめてしまいます。そのため、本来排除されるべき細菌が薬剤耐性を発達させられるのです。結果的に、薬剤耐性は拡大し続けています。

緊急時のための最後の手段となる抗生物質

以上の理由から、医師や科学者たちはいわゆる最後の手段となる抗生物質を使うことを控えています。抗生物質を使わない限り薬剤耐性は発達せず、通常の抗生物質が効かない場合の最後の手段として温存しておけるからです。最後の手段となる抗生物質の使用を抑制し、本当の緊急時以外は使用しないことに関してはコンセンサスがあります。しかし、畜産業界ではこの暗黙の了解は全く守られていません!

困ったことに、最後の手段となる抗生物質が畜産業界に販売されています

少なくともドイツにおいては、畜産業界で抗生物質の使用に関する規制はまだ確立されていません。チキンレッグが消費者の元に届けられる前に、トキソプラズマサルモネラ菌などの病原菌を排除するために、鶏肉に抗生物質が使われています。この消費者のための「配慮」は、製造業者にとっての保険にもなります。しかし、グリルなどの通常の方法で鶏肉を調理すれば、トキソプラズマサルモネラ菌は熱によって殺菌されます。したがって、抗生物質を使うことは過剰な行為なのです。もっと悪いことは、調査の結果、最後の手段となる抗生物質が不注意に(そして無意味に!)使われていることが分かったことです。貴重な救急薬が畜産物を通じて人間の体の中に入り込み、細菌が薬剤耐性を獲得できるようになっているのです。このままでは最後の手段となる抗生物質が本当に必要な時に役立たなくなってしまいます。

事前に強く警告することが、有効な対策になります

この事実は非常に大きな問題です。しかし、まだ有効な対策を講じることはできます。欧州委員会はすでに、抗生物質の使用状況を改善するための規制を提案しました。しかし、関連する法律は未だ制定されておらず、法案の提示が必要な状況です。消費者としては何ができるでしょうか?ひとつは、工業的に生産された加工食品を避けるべきです。肉を食べるのをやめたくなければ、地元の肉屋か精肉業者から購入するようにしてください。最初に述べたように、適切に調理された鶏肉は有害ではなく、抗生物質を使った鶏肉よりも体や環境に与える有害な影響は小さいのです。

2019年06月26日

ロブ・ナイト博士がマイクロバイオーム研究のパイオニアになるまで

ロブ・ナイト博士がマイクロバイオーム研究のパイオニアになるまで

マイクロバイオーム研究者ロブ・ナイト博士
マイクロバイオーム研究者ロブ・ナイト博士(©コロラド大学ボルダー行政・研究センター 東キャンパス、
、マリーン・ストリート3100、UCBボルダー584、コロラド)

マイクロバイオーム研究の第一人者の一人が、カリフォルニア大学サンディエゴ校のロブ・ナイト教授です(>>> 教授の研究室とプロジェクト)。ナイト教授は『子供の人生は「腸」で決まる』(本のレビュー)という著作で、科学やビジネスの分野に限らず、一般からも注目を集めました。著作の成功によって、科学の専門家でない一般の人々も、自分の体の中で何が起きているのか、そして体の中で起きていることが日々の生活にどのような影響を及ぼすのかに関心があることが明らかになりました。教授は長い間、自分の研究が大きな影響力を持つとは信じていませんでした。マイクロバイオームの研究はずっと二次的な興味しか持たれていなかったのです。しかし、時代は変わりました。

ロブ・ナイト教授の経歴とキャリア

ロブ・ナイト教授は1976年にニュージーランドのダニーデンで生まれました。父親も母親も遺伝学者で、教授は3人兄弟の長男です。両親の影響で子供の頃から科学に興味を持ち、基本的な研究の仕方を学びました。幼少期から青年期にかけてはニュージーランドの豊かな自然の中で育ち、少年の頃には化石や恐竜、SF小説、成長してからはコンピューターに関心を持ちました。このような興味は他の多くの青少年たちと同じです。

細菌学の研究を始めたのは、1994年にオタゴ大学の生化学科に登録をしてからです。ナイト教授はすぐにラボ研究の魅力に気が付き、通常の半分の期間で課程を終えました。大学の登録から1年後には、奨学金を得て米国ニュージャージー州のプリンストン大学に留学しました。そこで遺伝学、特に遺伝ドライブ技術(>>> ウィキペディア「遺伝子ドライブ」)について素晴らしい学習を行いました。

ロブ・ナイト博士の素晴らしい業績

オタゴ大学を1997年に卒業した後、教授はプリンストンに戻り、進化論と実験生物学の研究に打ち込みました。しかし、研究者としてのキャリアを積む中で、関心は進化論の研究に有用なプログラミングへと次第に移っていきました。

最終的に、ロブ・ナイト教授はDNAの研究に至ります。特にコンピューター技術を用いたDNAコードの解読を専門としました。そして、過去には現象としてしか記述できなかったものを数学的に説明できるようにし、生命現象の理解を進めることに成功しました。

ナイト教授の次の仕事はアメリカのボルダーにあるコロラド大学でした。コロラド大学ではポスドク研究としてRNAの研究を行いました。データ処理技術を用いて、博士はRNAシークエンスやRNAの機能解析に重要な洞察を行いました。例えば、タンパク質の結合について研究です。RNAの解析に求められる数学がどれほど高度であったかは、計算のためにスーパーコンピューターが必要だったという事実から伺えます。スーパーコンピューターを利用することで、ナイト教授は繰り返し配列、いわゆる配列モチーフの特定に成功しました。

博士の功績は、全く同じアミノ酸をエンコードするのに異なる種で異なる塩基配列が用いられている理由を説明したことです。博士が開発したソフトウェアは研究の非常に大きな助けとなっています。過去には経験的にしか記述されなかったものが、現代では定量的に扱えるようになったからです。ロブ・ナイト博士の開発した最も著名な二つのソフトウェアがUniFracQIIMEです。

マイクロバイオーム研究への道

ポスドクを終えた後、ナイト教授はコロンビア大学に残り、ノーマン・ペイス博士と共にrRNAシークエンシングの研究を行いました。教授はこの時にUniFracのソフトウェアを開発しました。彼の2004年の論文はすでに4000回以上も引用されています。

その後、ジェフリー・ゴードン博士(>>> ゴードン博士について)との共同研究のために、ロブ・ナイト教授はセントルイスのワシントン大学メディカルスクールに移りました。そこでもナイト教授はマイクロバイオームの研究を継続します。ゴードン博士とナイト博士の二人によって、消化管細菌叢と健康全般との関係についての理解が深められました。ナイト教授は初めはもっぱら個人的な関心からマイクロバイオームの研究を追及しました。大学外の人間は誰もマイクロバイオームに本当の興味は示しませんでした。そして、二人の教授はマウスの実験から消化管細菌叢と肥満の関係について興味深い結論を得ました。

遺伝研究のバックグラウンドがあるナイト教授は、肥満と環境要因の関係に気が付いていました。かつて、肥満の原因は遺伝的要因に帰されていました。博士は2009年に行った人間の双子(一方が肥満でもう一方がやせ型)を対象にした一連の研究で、人間の肥満が腸の特定の細菌集団にも相関していることを明確に示しました(>>> 研究の詳細(英語))。ナイト教授の研究グループは、QIIMEによってこの革命的な洞察に統計的な裏付けを与え、2013年にサイエンス誌に論文を投稿しました(>>> 論文へのリンク(英語))。これにより、教授の研究チームは大きな注目を浴びます。それは本来であれば、ずっと以前にマイクロバイオームが浴びるべき注目でした。

マイクロバイオームだけを解析することで、研究者は90%の精度で肥満になるかどうかを判定できるようになりました。遺伝子の解析だけでは精度はわずか57%です。

マイクロバイオーム研究のさらに革命的な洞察を行う

ヒトマイクロバイオームの研究は現在、数多くの魅力的な成果を生み出しています。ナイト教授は、共同生活を送る人々では、例え住居が変わったとしても類似したマイクロバイオームを持つことを示しました。食事、特に肉の割合は重要な要素と見なされます。

ナイト教授の研究成果が人々の健康にとって重要なものであることはすぐに明確になりました。ロブ・ナイト教授はアメリカン・ガット・プロジェクトアース・マイクロバイオーム・プロジェクトでイニシアティブを取りました。これらは人々を啓蒙して知識を普及させる、とても価値のある利他的なプロジェクトだと言えます。二つのプロジェクトの素晴らしい目的は、世界中のマイクロバイオームを解読することに加え、人類への恩恵を最大化することです。

ナイト教授は科学と人々の間の架け橋です

アメリカン・ガット・プロジェクトとアース・マイクロバイオーム・プロジェクトは科学と一般の人々をつなぐ架け橋です。ナイト教授はこの架け橋を二つの著作『子どもの人生は「腸」で決まる』『細菌が人をつくる』によって完成させました。

これらの著作はマイクロバイオーム研究から得られた成果を生き生きと解説し、興味がなかった方も面白く理解できるようになっています。

科学における数多くの功績に加えて、ロブ・ナイト教授は多くの一般人にマイクロバイオームの問題に目を向けさせ、(願わくば)実際に人々の健康を改善するという大きな功績を上げたのです。

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