2019年07月31日
マイクロバイオームは長寿の鍵?-食事で老化を防ぎましょう!
マイクロバイオームは長寿の鍵?

現代では老化を抑える研究が大流行しています。世界中の研究機関に加えて、GoogleとAbbvieが支援するCalico社とSens財団が老化を遅らせ、若返りさえ実現する研究を開始しました。その研究部門には数十億ドル(ブルームバーグの記事参照)が投資されており、「青春の泉」を探す試みがもはやSFの話ではないことを示しています。
マイクロバイオームと老化の関わり
MyMicrobiomeのウェブサイトを初めて閲覧したり、マイクロバイオームのことを初めて知ったのでなければ、次の話は驚くことではないはずです。老化が起こるメカニズムはマイクロバイオームの影響も受けています。老化には、食物と細菌叢、宿主の相互作用が関わっている可能性が高いとされています(詳細:「青春の泉」)。
スペインの研究グループは最新のレビューで次のように書いています。「外部由来のアミン(経口投与したものでも、消化管細菌叢が合成したものでも)がマウスの長寿に貢献し、動物モデルにおいてスペルミジンの補給が心保護効果をもたらすことを示唆するエビデンスが出てきています」。
ポリアミンとはどんな物質なのでしょうか?また、どんな要素が細菌叢が産生するポリアミンの種類と量に影響するのでしょうか?
ポリアミンはDNAを安定化させたり、酸化ストレスやプログラム細胞死から守ったりと、細胞の機能において重要な役割を果たしている物質です。ポリアミンの種類には、スペルミジン、スペルミン、カダベリンやプトレシンなどがあります(最後の二つは正確にはジアミンです)。これらのポリアミンは内因的に(つまり、私たち自身によって)産生されますが、最近では外部由来の(つまり、自己産生でない)ポリアミンも関わっていることが発見されました。外部由来のポリアミンには、食事に含まれているポリアミンの前駆物質や、消化管細菌叢によってつくられるものがあります。
人間の食べ物に含まれているポリアミン
食事に関して調査した前向きコホート研究(健康な個人を対象)の最初の試験では、調査した146種類の栄養素の中で、スペルミジンが死亡率の低下を予測する最も強い予測子でした。レビューの著者によれば、スペルミジンの摂取量が多い上位3分の1と下位3分の1の差は、平均年齢65歳の参加者の中で5.7歳の年齢差に関連していました。スペルミジンを摂る最も良い摂取源は、本来はそこまで健康に良いとは認識されていない食物でした。従って、スペルミジンに効果があるかどうかの判断を難しくする、健康的なライフスタイルによる影響を少なくできたと考えられます。人間を対象としたこれらのデータはマウスで観察された長寿効果に基づいており、充分な効果を得るためには通常の食事に含まれる量のスペルミジンで十分なことが示されています。
個々人の腸内フローラの違いはどう影響しますか?腸内フローラの違いを比較した場合、ポリアミンの産生量に違いはあるのでしょうか?レビューの中で、著者は次のように書いています。「異なる食事を与えたラットを用いた実験では、発酵性繊維とフルクタンの経口投与が特定種の腸内細菌(バクテロイデスやフソバクテリウム)を刺激し、大腸でポリアミンを多く合成するようになりました」。
しかし、人間の結腸に生息する特定種の細菌が少ない場合に、ポリアミンレベルに影響があることを示すデータはごくわずかしかありません。それでも、大腸で産生されるポリアミンの働きについては、分かっていることも多くあります。ある研究によれば、ポリアミンの断片は血流に入ります(研究の詳細)。糞便中の細菌の構成とポリアミンレベルの関連については、すでに確認されています(研究の詳細)。
寿命の短い脊椎動物を対象とした研究では、ポリアミンとの関連があるかないかに関わらず、消化管細菌叢を若い個体から中年の個体に移すことで、「若さ」を移植できることが可能になりました。中年の個体への細菌叢移植によって起こる副作用が、免疫系の老化またはその他の要因による免疫監視能(例えば、消化管の病原菌を監視する機能)の低下によるものなのかどうかは分かっていません。
断食が若さと健康を保つ?
また、断食が長寿と消化管細菌の働きに関わっていることも分かりました。ショウジョウバエにおいて、断続的断食法は、寿命を延ばし、消化管の健康に良い影響を与え、善玉菌の数を比較的多く増やしました(研究の詳細)。また他の研究では、いわゆる疑似ファスティングダイエット食をマウスに与えると、健康に良い影響があり、同時に細菌叢の変化が観察されました。断食が細菌叢を変化させるのは驚くべきことではありませんが、人間では断食そのものが細菌叢に良い影響を及ぼすことを示すデータはありません。さまざまな種類の食事による人間の消化管細菌叢の変化を比較することが重要な課題です。言い換えるなら、断食が消化管細菌叢に与える影響は、ある程度は健康に良くない食事(または良い食事)をしていないことの結果である可能性があります。また、断食による変化は断食期間が終わるとすぐに戻ってしまう可能性もあります。
一般的に、健康に良い食事はさまざまな疾患のリスク低下や長寿に関連しています。しかし、上記で解説した老化や特定の栄養素に関する研究によって、食事が細菌叢の変化を通じて健康にどのような影響を与えるのか少しずつ分かってきています。このことは、MyMicrobiomeの次の記事でも触れています。「青春の泉の発見–それはあなたの消化管マイクロバイオームにあります」
2019年07月25日
生命の再生―爆発的に数が増えるマイクロバイオーム研究
生命の再生―爆発的に数が増えるマイクロバイオーム研究

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい寄稿を頂きました。ガイヤー氏はBIOMES社のコミュニケーション・チームの一員です。
マイクロバイオームに関する文献を読むと、「食べ物があなたを形づくります」や「人間の体は、人体の細胞よりも2倍以上も数が多い微生物の住処です」という表現をよく目にします。細菌は第二のゲノムとも呼ばれています。人間はDNAによって形づくられるだけでなく、細菌からも何らかの影響を受けているのでしょうか?程度の問題はあれ、これは事実です。遺伝的要因とは異なり、私たちは体の細菌の構成を変化させることができます。変化には良いものもあれば、悪いものもあります。遺伝子技術によってすでに子孫のDNAを変化させられるようになっているという事実は、しばらくの間忘れましょう。
マイクロバイオームは伝統的な医学では未だに受け入れられていません
マイクロバイオームは科学において大きなトレンドになっています。また、一般的な関心も大きくなっています。しかし、いくつかの理由から、伝統的な医学では未だ十分には受け入れられていません。過去21年の間、マイクロバイオームに関する研究の数は急速に増えてきました。その数は5桁にもなります (グラフ参照)。ヒトゲノムの解析が進んだため、今度は細菌のゲノムの解読に関心が集まっています。DNAシークエンス解析が発展したため、ゲノムの解読はより正確なものになっています。
過去21年の間、マイクロバイオームの研究の数は急速に増えています

微生物の宇宙は今後何年も拡大し続けるでしょう
ハイスループット・シークエンシングは、人間や微生物のDNAを解析する現在最も水準の高い技術です。今では、微生物、特に細菌の世界がまるで宇宙のように記述できるようになりました。最も下位の分類レベル(種)では数十万種の細菌が存在することを考えるなら、調査に時間がかかること、場合によっては数年を要することは理解できることです。
過去5年の間にさまざまなタイプのマイクロバイオーム研究が出てきました
これまで、ヒトマイクロバイオームの研究は非常に大きく進展してきました。マイクロバイオームが人間の臓器に及ぼす影響が大きいことが分かってきたため、研究に費やされる資金も大きくなっています。公的資金と私的資金の両方で、とても多くの科学研究と臨床研究が実施されています。過去5年の間にさまざまなタイプのマイクロバイオーム研究が出てきました。特に1990年以降に登場した新しい技術とその後の改良によって、マイクロバイオーム研究は現在科学の大きなトレンドとなっています。
病気になった?大した問題じゃありません。何にでも効く治療法があります。

健康への関心が高まっているように思えます。人々は(再び)健康を意識して暮らし、食事をするようになりました。フィットネスやダイエットが流行から外れることはありません。人々のライフスタイルは科学の影響を受けます。わずか20~30年前には、人々は工業生産によって提供されるものを受動的に使っていました。男性と女性の両方にフルタイムの仕事を強いる現代のライフスタイルは、昔のように毎日健康で新鮮な食事を用意できる暮らしを許しません。病気になった?大した問題ではありません。何にでも効く治療法があります。大きな街であれば、昔から食べ物はいつでも手に入りました。それは今も変わりません。昼休みには冷凍食品を食べれば十分です。栄養学がストレスや貧しい食事によって引き起こされる長期的なダメージを明らかにするのには時間がかかりました。今では、現代病の多く(そのほとんどは西洋諸国でよく見られます)が、誤った食事によって引き起こされることはよく知られています。WHOはそのような病気を慢性病のリストの最初に加えました。
産業化、技術、そして商業は人間の健康に高い代償を払わせました
産業化と健康の関連は大きなトレンドとなっています。信頼できる科学的なエビデンスのおかげで、人々がこの問題を容易に理解できるようになっているため、トレンドではなく「健康への関心」と呼んだ方が良いほどです。技術を過剰に用いて、何にでもビジネスにしてしまう産業化が、現代社会を大きく形作っています。産業化が人々の健康に高い代償を払わせたことは、日に日に明らかになっています。マイクロバイオームの重要性に対する気づきは、過剰な医療、貧しい栄養、ストレス、無気力、そして進行する都市化から距離を取るという新しい考えの一部となっています。
多くの公的医療制度は未だに整備されていません
健康産業の技術とビジネスの発展が及ぼす影響については、充分な議論が行われていません。その一方で、公的医療制度も未だに多くが未整備のままです。今日では、病気の予防措置や検査、経過追跡の技術発展に大きな可能性があります。私たちが食べている物は、私たちが毎日踏み出している一歩一歩のようなものです。そして、自分の中の細菌の構成について知りたいと思うのは全く自然なことです。現在では、新しいテクノロジーと知識のおかげで、細菌の数を分析し、その変化を追跡できるようになっています。健康市場はずっと開拓されてきました。マイクロバイオームの研究は人間の健康の全般的な解明につながるため、マイクロバイオームの解析は健康市場における大きな可能性の一つとなっています。世界中の企業がマイクロバイオームの解析を行っており、いくつかはDNA検査を行っています。医師や療法士は必要ありません。それは自分自身でできる新しい検査方法です。このような検査は何らかの症状を訴えている人と、マイクロバイオームの構成を調べて最適化したいと願う人の両方をターゲットにしているので、大きな需要が見込まれています。企業などの民間セクターでこのような動きがなければ、私たちはおそらく恩恵を受けられなかったでしょう。
わたしたちは孤独ではありません
人々の中には、微生物の世界に不安を抱いている人もいます。そのような人にとって、マイクロバイオームの存在は私たちは孤独ではないということ、私たちは環境と健全な共存をはかりながら、微生物と共にしか生きていけないことを示してくれます。本質は目に見えないところにあるという格言は、本当のことだと思います。
2019年07月17日
マイクロバイオームが一般にも認知されるように
マイクロバイオームが一般にも認知されるように

「シュピーゲル」誌(2019年27号)に「スーパー臓器-腸と長生きの秘密」という見出しの記事が掲載されました。記事の本当のタイトルは「良い食事をしよう(Eat good now)」(ドイツ語では「これで終わりにしよう」という意味もあります)です。タイトルを見て、記事は食事療法のガイドラインについて書いたものだと思う人もいるかもしれません。しかし、記事の内容はさらに一歩踏み込んでいます。消化管マイクロバイオームと細菌が人間の心身の健康に及ぼす影響について、綿密に書いています。
消化管マイクロバイオームに食事が及ぼす影響
記事ではさまざまな科学者の言葉が引用されています(例えば、スタンフォード大学のエリカ・ソネンバーグや、ルクセンブルク保険研究所のマヘシュ・デサイ)。また、メディアの記事も引用されています(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルやサイエンス誌)。読者は科学のとても複雑な話題の要点を抑えることができます。
科学の主流となりつつあるマイクロバイオーム
Mymicrobiomeの読者がこの記事から新しく学べることはないでしょう。そのため、ここでは記事の詳細を紹介することはしません。今回、この記事を取り上げるのは他の理由からです。今までMymicribiomeで公開してきた記事は、大学の研究室や科学雑誌、アメリカのメディアの科学エッセイを元にしていました。しかし、「スーパー臓器-腸と長生きの秘密」の記事は、マイクロバイオームという話題が研究者や専門家などの限られた人々だけでなく、一般の人々にも認識されたことを示しています。
Mymicrobiomeの「科学者たちがこれまで未探索だった肺マイクロバイオームに注目し始めています」という最近の記事で触れた「Apotheken Umschau」という雑誌は、明らかにこの傾向を表しています。この雑誌の読者も科学者ではありません。健康問題に関心を持っている人々です。シュピーゲル誌の読者は多数派だということができるでしょう。健康への関心と教育の点で社会の平均的な人々です。明らかに、マイクロバイオームは一般にも認知されるようになっています。私たちにとって、このことはぜひ報告しておきたい大切な一歩です。
食事に関する知識以上のことを理解する
記事では、消化管を傷つけないために推奨される食事について新しいことは書いていません。ジュリア・エンダースの『おしゃべりな腸』やバス・カストの『Ernährungskompass』(ドイツ語版のみ)が出版されてから、少なくとも消化管にとって良い食事が何かは理解されています。ですが、これらの著作では、読者に生化学的な背景を説明することまではしていません。マイクロバイオーム研究の全貌については説明していないのです。このような状況は、今こそ終わりを迎えているように思えます。
消化管マイクロバイオームはマイクロバイオーム研究へのイントロダクション
多くの人が、消化管マイクロバイオームからマイクロバイオームの分野に入っていることは明らかです。科学でもかつては、消化管マイクロバイオームだけが研究され、肺や口、皮ふなどのマイクロバイオームは最近まで注目されていませんでした。
Mymicrobiomeで公開した皮ふマイクロバイオームについての記事は、化粧品業界における同分野の研究動向について触れた現在唯一の記事です。シュピーゲル誌の記事は、ヨーロッパにおいてマイクロバイオームの話題(最初は消化管から始まり、次に皮ふ)が一般の人々にも認知されているという希望を与えてくれます。