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2019年11月26日

科学者たちがほとんど調査されていなかった肺マイクロバイオームの研究に着手しています

科学者たちがほとんど調査されていなかった肺マイクロバイオームの研究に着手しています

肺マイクロバイオーム
肺が無菌の環境でないことを科学者たちが発見したのは、ごく最近のことです。

消化管マイクロバイオームについては、現在までに多くの研究が行われています。対照的に、肺マイクロバイオームのことはほとんど分かっていません。肺が無菌の環境でないことを科学者たちが発見したのはごく最近のことです。そして、ここ数年でようやく、肺が私たちの健康を守ってくれる小さな微生物の住処であることが分かったのです。2019年4月には、Apotheken Umschauが微生物学者のミカエル・シュロター博士(Munich Helmholtz-Zentrum)に行ったインタビューを公開しました (インタビュー動画(ドイツ語))。肺マイクロバイオームの最新の知見について簡単にご紹介します。

肺マイクロバイオームについて何を知っていますか?

現在までに、私たちは肺マイクロバイオームが確かに存在することを確認しています。肺マイクロバイオームは研究が始まってすぐに発見されました。肺マイクロバイオームの存在を証明し、調べることは比較的難しいことです。というのも、腸などと比べて肺には非常に少ない細菌しか生息しておらず、成長速度も遅いからです。したがって、肺マイクロバイオームの研究が可能だということは、最初の大きな成功と言えるでしょう。

また、私たちはプレボテラという細菌(プレボテラ)が肺マイクロバイオームの主要な細菌であることを確認しています。プレボテラは消化管や口内、膣にも存在している細菌です。この細菌は人間の体の中で何らかの役割を果たしていると考えられますが、具体的なことはまだ調査中です。

肺マイクロバイオームの働きとは?

私たちは未だに肺マイクロバイオームの機能に関して明確な定義を定められていませんが、研究によって三つの主要な機能についてヒントを得られました。まず、肺マイクロバイオームは有害な細菌に対する防壁となります。肺の細菌叢が本当に防御機能を持っているかどうかは証明する必要がありますが、いずれにせよ、肺に「人間に友好的な」細菌が住み、悪玉菌が善玉菌に取って代わることを避けるのは人間の体にとって良いことなのです。人間の体の空いている空間は、結局は何らかの細菌が占めてしまうからです。二つ目は、免疫系が刺激されることです。善玉菌によって刺激されることで、免疫系は悪玉菌に対してより反応するようになります。そして、三つ目は、肺の中の細菌は有害な物質を分解し、まるで門番のように有害な物質が肺の中に侵入してくるのを防いでくれることです。

肺マイクロバイオームを傷つけるものは?

まず、喫煙です(喫煙の影響については「喫煙はあなたのマイクロバイオームをひどく傷つけます」の記事をご覧ください)。しかし、排気ガスや汚染物質、空気中の微粒子などのナノ粒子も悪影響を及ぼします。これらの有害な物質は肺胞に付着し、肺胞の細胞や化合物などと反応して、細胞や化合物が持つ本来の機能を損ねてしまいます。また、これらの有害な物質は肺の細胞に刺激を与え、体に良い物質が体内に入るのを妨げたり、逆に有害な物質を体内に入り込ませたりします。

肺マイクロバイオームが機能不全を起こしている最も明確なサインは喘息です。喘息は世界で最も多い病気の一つと言えますが、その一般的な原因は大気汚染です。

肺マイクロバイオームが傷ついたときにできることは何ですか?

まず、あらゆる有害な要素を取り除く必要があります。つまり、タバコをやめ、大気汚染がひどい場所は避けることです。医師は特に喘息で苦しんでいる患者に、空気のきれいなところでスポーツや運動をし、肺の機能を強化することを勧めます。

また、科学者は現在、肺マイクロバイオームのためのプロバイオティクス治療の研究を進めています。現時点では、「細菌の通信網」を良い方向に変え、マイクロバイオームに良い影響を与える物質が体内を循環できるようにする研究が主流です。例えば、D-アミノ酸を加えることで、プロバイオティクスが血流に乗って体内を循環し肺に到達し、そこで良い影響をもたらす代謝物を生み出すことができます。マウスを使った実験では、D-アミノ酸を使うことで喘息の症状が軽減されました。この知見は遠くない未来に人間に適用できるようになるでしょう。

いずれにせよ、長い間無視され、知られることのなかった肺マイクロバイオームに注目が集まっています。

2019年11月19日

今日の食事は何?調理がマイクロバイオームに及ぼす影響

今日の食事は何?調理がマイクロバイオームに及ぼす影響

食物の調理はマイクロバイオームに影響を与えるのでしょうか?
食物の調理はマイクロバイオームに影響を与えるのでしょうか?(画像© lassedesignen – stock.adobe.com)

私たちは何を食べるべきでしょうか?この疑問には未だに答えがありません。歴史的に考えるなら、答えは「手に入るものは何でも食べるべき」です。ですが、ものに溢れた現代では、人々は他の選択肢と採れるという恵まれた地位にあります。とはいえ、本当に恵まれていると言えるのでしょうか?少なくとも、私たちが食べるものは健康に大きな影響を及ぼします。

現代には無数の食事法があります。その中には、「原始人の食事」(新鮮な果物と野菜を中心にした食事)を主張する専門家(自称専門家も含めて)もいます。「原始人の食事」の背景にある考えは、人間の遺伝子は食習慣が変わるよりもずっと遅く変化し、人間の体は未だに新しい調理方法に適応していないというものです。

また、人類の発展の歴史を見れば、火と調理の発明によって食物の摂取がより簡単になり、エネルギーが余ったことで他の機能が発展(脳容量の増大など)したことが分かります。詳細は、「知性を持つ胃―人間の第二の脳」の記事をご覧ください。

なぜ調理が必要なのですか?

調理が「理に適った」ものかどうか判断するには、さまざまな現代的な道具を考えすぎるあまり、主題から離れてしまったかもしれません。そこで、まず人間はなぜ火を使って食物を調理するのかに注目して考えてみましょう。最も一般的な答えはもちろん、温かい食事は体の内部から温めてくれるというものです。これは特に、北方の国に住む人々には冬に恩恵をもたらしてくれます。衛生の観点から考えると、食物を熱することは食物の内外に存在する病原菌や好ましからざる存在を排除してくれることになります。特に幼児や子供、老人や妊婦にとって、調理は病気を防ぐ効果的な手段です。また、少なくとも、調理によって食物の構造や化学的組成を変化させ、より消化しやすいものに変えることができます。

食物を調理するかどうかで違いはあるのですか?

調理した食事と未調理の食事が人間の体に及ぼす影響について、研究は少ししかありません。カリフォルニア大学サンフランシスコ校のピーター・ターンバウ博士とハーバード大学のレイチェル・カーモディー博士の研究チームは、調理が人間のマイクロバイオームに影響を及ぼすかどうかの研究を行いました。簡潔に言えば、答えはイエスです。調理は人間のマイクロバイオームの細菌構成と多様性に影響を及ぼします。不幸なことに、これが現時点で導き出された明確な結論なのです。実際、調理が人間のマイクロバイオームに及ぼす影響は複雑なプロセスで決まります。

2019年9月に「Nature Microbiology」誌に掲載された研究を詳細に見てみましょう。先行研究が比較可能性を示した通り、この研究はマウスと人間を対象に行われました。

未調理のポテトを与えたマウスはマイクロバイオームの多様性が低下

新鮮な未調理のポテトをマウスに与えた場合、マイクロバイオームの多様性が低下しました。また、マウスの消化管の細菌の総数もわずかに減少しました。さらに、バクテロイデスがわずかに増加を示しました。バクテロイデスは生のサツマイモに含まれる多糖の糖鎖分解に必要な細菌です。マイクロバイオームの変化を引き起こした本当の要因を特定するために、科学者たちはスターチのレベルで分解性に関してリストを作成しました。次に、マウスに未調理と調理済みのジャガイモ、ビーツ、ニンジン、トウモロコシ、そして豆のエサを与えました。食物の成分を正確に分類し、食物摂取とマイクロバイオームの相関を評価できるようにしました。結果は次の通りです。未調理のジャガイモと調理済みのジャガイモのエサはサツマイモと似た結果を示しました。しかし、全ての食物に関して一般化を行うことはできません。肉類に関しても同様です。調理した肉と未調理の肉では、マイクロバイオームの変化は有意ではありませんでした。

ターンバウ博士は以下の結論を出しています。調理した食物がマイクロバイオームに及ぼす影響が、未調理の食物と部分的に異なる理由は、消化が難しいスターチを分析することで分かります。この結果はマウスに関してとても興味深いものでした。しかし、一方で、生のジャガイモやサツマイモは消化が難しいのですが、調理したジャガイミやサツマイモは人間のキッチンで見つかるものです。

試験期間中、未調理のエサを与えられたマウスは体重が減少しましたが、理論的には、体重減少はマイクロバイオームの変化と相関していると考えられます。検定交雑試験で、調理したエサを与えたマウスに「未調理のエサを与えたマウスのマイクロバイオーム」を移植しました。しかし、結果は驚くことに、このマウスは体重が増加したのです。研究チームはこの矛盾する結果の原因を追究中です。

人間に及ぼした影響は?

マウスの試験に続き、24歳から40歳の5人の健康な女性と3人の健康な男性のグループを対象に、調理した食事と未調理の食事の比較試験を行い、糞便サンプルを分析しました。まず、マウスの試験と同様に、「未調理の食事を食べたときのマイクロバイオーム」「調理した食事を食べたときのマイクロバイオーム」明確な違いがあるように思われました。しかし、細菌叢の変化はマウスの方がより明確でした。この研究結果は、人間とマウスの比較可能性は非常に限られていることを示しています。

また、研究結果には多くの疑問を残っています。主な結果は、食物の調理はマイクロバイオームの変化を起こし、変化は食物の種類によって大きく異なるというものでした。また、マウスと人間を比較できる部分は非常に限られており、マウスは人間の理想的な比較的対象ではないということも分かりました。そして、8人という人間の研究サンプルの数は、信頼できる結論を得るには少なすぎるということです。

ターンバウ博士とカーモディー博士の研究チームは、この研究結果を将来的に栄養療法に用いることを望んでいます。しかし、現状では、行わなければいけない研究は数多く残されています。

2019年11月19日

エッツィ(アイスマン)のマイクロバイオームは現代人よりも健康

エッツィ(アイスマン)のマイクロバイオームは現代人よりも健康

氷河期の人類エッツィ
エッツィの調査 © Südtiroler Archäologiemuseum/EURAC/ Samadelli/Staschitz

氷河から見つかった5000年前の人類エッツィは、これまで科学者たちに様々な過去の研究への窓を開いています。今では、新石器時代の人類であるエッツィが何を着ていて、最後に何を食べたのかも分かっています。犯罪学者はエッツィが逃亡している間に命を失ったことを突き止め、鍼灸師はエッツィの体にある刺青の後から当時は穿刺が一般的な治療法であったのではないかと述べています。したがって、微生物学者がエッツィの消化管を調べ始めるまでに長い時間はかかりませんでした。>>> もっと詳しく

何が健康に良いのですか?

トレント大学の研究チームによる先行研究では、消化管細菌叢の多様性の低さは、アレルギーや肥満、さまざまな自己免疫疾患などの現代病の増加に相関関係があると主張しています。MyMicrobiomeではこの問題について「アメリカに移民するとマイクロバイオームが変化し、肥満になる可能性が高まる」の記事で論じました。

この問題で最も重要なのは、一般的によく見られる細菌であるプレボテラ・コプリです。P・コプリは西洋人ではわずか30%の人しか持っていません。しかし、西洋以外の人々ではほとんどの人で見つかるのです。科学者たちはP・コプリに注目し、この細菌に4種類のいわゆる系統群があることを発見しました。西洋以外の社会では、P・コプリの3~4種類の系統群がマイクロバイオームの細菌群に含まれている一方、西洋人のマイクロバイオームではわずか1種類の系統郡しか存在していないことが分かりました。

遺伝か生活習慣か?

西洋人でP・コプリの種類が少ないことを説明する合理的な理論は二つあります。いずれにせよ、西洋の人々はP・コプリの4つの系統群のうち一つしか持っておらず、現代病に罹りやすい傾向にあります。消化管マイクロバイオームは肌のようなものです。皮ふの色が明るいと、日光に対してより敏感になります。また、これはトレント大学や他の研究機関の仮説ですが、西洋の生活習慣はマイクロバイオームを傷つけ、P・コプリの3種類の系統群を絶滅させたという説もあります。

従って、エッツィは西洋人の過去のマイクロバイオームを詳細に調べるためには理想的な存在なのです(エッツィは5000年前の標準的な西洋人のマイクロバイオームを持つことが統計学的に期待できます)。調査の結果は仮説が正しいことを示しました。エッツィはP・コプリの4種の系統群のうち3種を有していたのです。同系統のP・コプリは、エッツィの同時代人である数千年前のメキシコ人の石化した排泄物からも見つかっています。

過去の方がマイクロバイオームの状態は良かった

以上の研究結果は現代の生活様式について何を述べているのでしょうか?それは、明らかに、アルプスに住んでいたエッツィやメキシコの同時代人(広義の意味での同時代です。系統学では数百年の差はごく僅かです)などの新石器時代の人々は、現代人よりもマイクロバイオームの状況は良かったということです。現代人の医療と技術はとても発展しています。また、私たちはより多くの種類の栄養を摂り、よりよい環境で生活しなければいけないとも考えています。

それでは、現代人のマイクロバイオームの方が健康ではなかった理由は何なのでしょうか?栄養でしょうか?エッツィは乾燥肉を食べていたことが証明されており、これは現代の私たちが「原始人の食事」と呼んでいるものになります。また、メキシコの同時代人も、トウモロコシを主食としたスターチと食物繊維の豊富な食事で生きていた考えられています。従って、栄養だけが理由であるとは考えられません。少なくとも現代では、抗生物質やワクチン、外科手術による医療が非常に発展しています。しかし、数千年前の人々に全く医療知識がなかったと考えるべきではありません(逆に、エッツィの刺青の跡が示す細やかさは驚くべきものです)。おそらく、過去の人々は現代人よりも自然や動物に接触する頻度が多かったのでしょう(土や花粉などのあらゆる自然を含めてです)。そして、それだけでなく、現代では、化学物質や殺菌剤などへの曝露が過去よりもずっと多くなっています。全般的に、現代人の生活は食習慣だけでなく、生活習慣の複数の要因がプレボテラ・コプリに悪い影響を及ぼしていると考えることができます。

エッツィの研究の小さな一歩が、マイクロバイオーム研究の大きな一歩へ

以上の知見は、現代人の生活様式の一つまたは複数の要因が、マイクロバイオームを傷つけ、私たちを病気にしていることを証明しました。何がその要因で、マイクロバイオームを回復させるために何が必要なのかは、現時点では純粋な推測でしかありません。しかし、このこと以上に、アイスマンに関わる発見は非常に重要なのです。というのも、一つの細菌の3~4種類の系統群が私たちの健康に影響を及ぼしていることが分かったからです。この発見は、さまざまなマイクロバイオーム研究の中でも際立っています。プレボテラ・コプリとその系統種は、将来の研究において、細菌の系統種の少なさが及ぼす影響を抑えるために重要な課題となるでしょう。

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