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2019-01-14 18:43
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

抗生物質の短期的な効果と長期的な悪影響

抗生物質の短期的な効果と長期的な悪影響
抗生物質は薬剤耐性のリスクを高めるだけでなく、さまざまな悪影響をもたらします(画像© alkov – stock.adobe.com)

2018年12月、ニューヨーク大学医学部のマーティン・J・ブレイザー教授は、「クリーブランドクリニック・ジャーナル・オブ・メディシン」(2018年12月、英語版)に、微生物学研究の技術の現状とその評価について短い論考を投稿しました。

ブレイザー教授はヒト・マイクロバイオーム・プロジェクトのディレクターを務め、専門外の人にも分かりやすく解説してくれます。私たちのような一般人にマイクロバイオームの複雑な問題を説明することに関して、ブレイザー教授は最も優れた人物の一つです。

教授はショッキングな数字から話を始めます。最近示された統計(2018年11月)によると、驚くことにアメリカ人の40%が肥満に苦しんでいます。「普通の」太り過ぎの人も含めるなら、全部のアメリカ人が太り過ぎになってしまいます。また、子供と青少年の20%が肥満であるという信じがたい数字も、過去20年間で2倍になっています。30年前から、アメリカは肥満率で発展途上国を大きく上回っています

健全な細菌の多様性が日に日に失われています

ブレイザー教授は、マイクロバイオームの細菌の多様性が、危機的な状況によって失われていることを明確に示しています。人間のマイクロバイオームは個人でそれぞれ細菌の構成が異なっています。母親が自然分娩で子供を産むとき、健全なマイクロバイオームの発達が始まります。そして、生まれてから最初の3年の間に環境の影響(母乳、肌のふれあい、キス、栄養、土や泥の中での遊び)によって、マイクロバイオームが育まれていきます。この時期の細菌叢の形成は、その後の人生に重要な影響を与えると考えられています。そして、マイクロバイオームの形成過程で過剰な衛生環境に置かれたり、抗生物質を不必要に投与されると、大きな悪影響を受けてしまいます。

そして最も悪いことは、もし女の子が適切にマイクロバイオームを形成できなければ、彼女の免疫系や消化機能が弱まってしまうだけでなく、彼女の子供たちに適切な細菌を受け継がせることもできなくなってしまうことです。マイクロバイオームの細菌の多様性が低下し続けると、致命的な結果がもたらされます(「致命的な」という強い表現をあえて選びました。例え医療による治療が可能だとしても、マイクロバイオームの多様性が低いと肥満率が高くなったり、アレルギー疾患や糖尿病、他の生活習慣病に罹る可能性が高まり、平均余命が短くなります)。

抗生物質はときに殺人的な医療になる

ブレイザー教授によれば、マイクロバイオームの多様性を低下させている主犯は抗生物質の使用(教授の言葉によれば抗生物質の乱用)です。教授は印象的な数字を挙げます。世界中で年間730億回分の抗生物質が処方されています。これは地球の全人口の一人当たり10回分に相当します。地球には、いわゆる文明社会から離れて暮らし、抗生物質の悪影響を受けていない幸運な人々が少数ながら存在しています。これらの人々のことを考慮するなら、実際に人間一人あたりが使っている抗生物質の量は概算を出すことしかできません(詳しくは「抗生物質の代替薬となる可能性があるもの」をお読みください)。

アメリカはここでも悪い例として挙げられます。恐ろしいことに、アメリカでは女性の50%が妊娠中または出産中に抗生物質を投与されています。このことは、生命が始まるときから健全なマイクロバイオームの発達を妨げられていることを意味します。もちろん、妊娠・出産中の抗生物質の投与率は国によって大きく異なります。例えばスウェーデンでは、抗生物質の処方率はアメリカより60%も低くなっています。このことは、アメリカにおける抗生物質の処方が医学的な必要性からではなく、単なる慣習として行われていることを示しています。

抗生物質は隠れた毒として食物に含まれている

ブレイザー教授はさらに食物中に含まれている抗生物質をもう一つの摂取源と考えています。この点でもアメリカは、世界で最も抗生物質の摂取率の高い国になっています。とても不誠実なことですが、食品の生産で抗生物質が用いられる動機が、消費者を傷つける原因となっています。その動機とは、家畜の体重増加を促すためです。このことは、消費者のためではなく家畜業者のために抗生物質が使われているという事実を示しています。消費者は抗生物質の影響が少しずつしか表れてこないことを知りません。

マウスの実験では、誕生して間もない時期に抗生物質を投与した場合、わずかな量であっても消化管マイクロバイオームに影響を及ぼし、体重増加や免疫系に悪影響があることが証明されています。短期間の抗生物質投与であっても長期的な悪影響があるのです。また、子供を対象にした研究では、抗生物質の悪影響の例として、炎症性腸疾患などの大きな病気が挙げられています。

ブレイザー教授は内科医、特に小児科医に不必要な抗生物質の投与を控えるように訴えています。また、科学は可能な限り早くマイクロバイオームを解明し、抗生物質によって何が破壊され、また何が回復できるかを具体的に解明することが求められています。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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