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2019-09-24 16:26
by Kristin Neumann
  Last edited:

遺伝子はマイクロバイオームに影響を及ぼす

遺伝的傾向はマイクロバイオームの細菌構成に大きな影響を及ぼします。
遺伝的傾向はマイクロバイオームの細菌構成に大きな影響を及ぼします。画像: © Siarhei – adobe.stock.com

現在、マイクロバイオームは大きなトレンドとなっており、私たちの体に住む細菌と私たちの健康の関係が日々明らかにされています。マイクロバイオームについて論じるとき、私たちは普段、マイクロバイオームがとても複雑な相互作用の一部分でしかないことを忘れてしまっています。マイクロバイオームの細菌構成は個々人の栄養、ライフスタイル、誕生したときの母系伝達、免疫の状態、そして遺伝子などの要因から影響を受けます。

とても嬉しいことに、私たちと共生している微生物たちが科学の研究対象となり、一般の方にも少しずつ認知され始めています。抗生物質治療や過剰な衛生によって、私たちは長年とても大切な友人たちに誤った扱いをしてきました。

ですが、ときにはマイクロバイオームだけが全ての物事に影響を与え、意図的にマイクロバイオームを操作することが可能であるかのように思われていることもあります。

最近のある研究によって、実際には話はそう単純ではないことが示されました。マイクロバイオームに関係する遺伝子が今までに想定されていたよりも大きな役割を果たしており、どんな種類の細菌が私たちの体に定着するかに影響していることが分かったのです。この研究を行ったグループは、新しく生まれたマウスにおいて、どの程度環境要因がマイクロバイオームの発達に影響を及ぼすのかを調査しました。環境要因には、誕生時の母親からの細菌の授受も含まれます。

マウスの実験で差異は示されませんでした

実験では、遺伝的に異なるマウスを交配させ、遺伝的に同じ子供を誕生させました。遺伝的に異なる親マウスのマイクロバイオームは20%程度の差異がありました。ですが、遺伝的に同じ子マウスのマイクロバイオームはわずか3%の違いしかありませんでした。遺伝的に異なる2匹の親マウスから生まれた1匹のメスと1匹のオスを、遺伝的に異なる相手と交配させました(図示すると♀A♂Bペアと♀B♂Aペアとなります)。その結果、2グループの孫マウスが生まれましたが、どちらも遺伝的に異なる母親なのに、遺伝的傾向は同じだったのです。孫マウスは母親マウスとだけしか接触していないに関わらず、孫マウスのマイクロバイオームは母親のマイクロバイオームから影響を受けなかったのです。

しかし、これらのデータは、それぞれのマウスのマイクロバイオームを構成する細菌のごく一部でしかないことは言っておかなければいけません。なぜなら、全てのマウスのマイクロバイオームは非常に類似していたからです。また、子孫のマイクロバイオームの細菌構成は相互に非常に似ていたとは言え、わずかながらも決して無視できない母マウスからの影響も認められました。より大規模な研究を実施すれば、母マウスからの影響が明らかになるはずです。

すべては遺伝子の中にあります

この研究の結論は、遺伝的傾向が私たちのマイクロバイオームの細菌構成に強い影響を与えるというものでした。腸粘膜の構造、さまざまな代謝(例えば、胆汁酸分泌)、抗菌ペプチドや免疫寛容などが、人の体における細菌の定着を制御しています。

マイクロバイオームが永遠に変化しないということはありえますか?

以上の発見は目新しいものではありませんが、今回の研究によって説が強化されたと言えます。このことは、マイクロバイオームが単純に永遠に変化しないということは不可能であることを示しています。マイクロバイオームはある程度環境に適応しますが、環境が変わればすぐに元の状態に戻ります。プロバイオティクスのみ、摂取し続けている間は変化を起こすことができます。食事の変化は細菌叢のバランスを変えますが、その変化はその食事を取り続けている間だけ保たれます。

従って、少なくとも部分的には、私たち自身の手によってどんな種類の細菌を増やすか決めることはできます。しかし、細菌の構成パターンの基礎は私たちの遺伝的傾向によって決まるのです。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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