消化管マイクロバイオームはアスリートのパフォーマンスを向上させる?-消化管細菌叢の健康は体全体の健康に不可欠です
シュピーゲル誌の編集者はマイクロバイオームの問題にますます関心を持っているようです。以前の記事で、2019年9月2日に出版された、シュピーゲル誌の消化管マイクロバイオームについての記事を紹介しました(「マイクロバイオームが一般にも認知されるように」)。今回は、シュピーゲル誌に掲載された最新のマイクロバイオーム記事ををご紹介します。この最新記事は現在シュピーゲル誌のオンライン版(ドイツ語のみ)で読むことができます。
乳酸とプロピオン酸はストレス耐性を計る指標となります
シュピーゲル誌の最新記事では、『ネイチャー』誌(2019年7月号)の論文に言及しています。ネイチャーのこの論文は、2015年のボストンマラソンに参加したアスリートを調査した研究(ハーバード大学医学校のジョスリン糖尿病センターが実施)を基にしています。
この研究では、アスリート15人からマラソン参加前と参加1週間後のタイミングで糞便サンプルを採取しています。そして、全てのサンプルでベイヨネラ属の細菌が増加していることが示されました。科学者たちは、ベイヨネラ属の細菌が、筋肉を動かし続ける能力を向上させる乳酸を代謝すると考えています。また、乳酸の代謝の分解生成物であるプロピオン酸は、糖と脂肪の代謝を助ける物質です(ウィキペディア「プロピオン酸」、英語)。そして、糖と脂肪の代謝によって、筋肉を動かす燃料となるエネルギーが生み出されます。エネルギーの必要量が供給量よりも多くなると、乳酸が増加します。乳酸テストは、スポーツ医学では筋肉のパフォーマンスを計る一般的な方法です。ジョスリン糖尿病センターの研究が新しいのは、乳酸レベルが栄養によって影響を受ける可能性があることを示した点です。
筋肉のパフォーマンスを向上させる研究は日々進展しています
栄養が乳酸レベルに影響を及ぼすという説は、マウスを使った実験で確かめられました。人工的な手段で消化管にベイヨネラ属の細菌を増やされたマウスは、トレッドミル試験で平均13%を上回るパフォーマンスを示しました。このことは、ベイヨネラ属の細菌と筋肉のパフォーマンスの間に直接の関係があることを示唆しています。実験の結果を鑑みれば、ベイヨネラ属の細菌を用いたケアによって、筋肉のパフォーマンスを向上させられる可能性があると言えます。
MyMicrobiomeのウェブサイトでは、これまでに公表されたマウスを用いたさまざまなマイクロバイオーム研究の結果を、人間に当てはめることは難しいと指摘してきました。多くの研究が動物実験の段階に留まっており、また人間と比較可能な試験を行うにはボランティア参加者の数が不足しているため、人間に対してはまだ仮説でしかないからです。
しかし、アスリートのボランティア参加者を対象にしたパフォーマンスを向上させる研究は、大きな成功を収める可能性があります。科学者たちはすでにプロバイオティクスを基礎にしたアスリート向けの食事の研究に取りかかっています。研究の成果は、スポーツ競技の歴史において、最も健康的なドーピングを生み出すはずです。
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