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2019-08-27 16:04
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

消化管マイクロバイオームはアスリートのパフォーマンスを向上させる?-消化管細菌叢の健康は体全体の健康に不可欠です

消化管マイクロバイオームはアスリートのパフォーマンスを向上させる?
消化管マイクロバイオームはアスリートのパフォーマンスを向上させる? 画像:© lassedesignen – stock.adobe.com

シュピーゲル誌の編集者はマイクロバイオームの問題にますます関心を持っているようです。以前の記事で、2019年9月2日に出版された、シュピーゲル誌の消化管マイクロバイオームについての記事を紹介しました(「マイクロバイオームが一般にも認知されるように」)。今回は、シュピーゲル誌に掲載された最新のマイクロバイオーム記事ををご紹介します。この最新記事は現在シュピーゲル誌のオンライン版(ドイツ語のみ)で読むことができます。

乳酸とプロピオン酸はストレス耐性を計る指標となります

シュピーゲル誌の最新記事では、『ネイチャー』誌(2019年7月号)の論文に言及しています。ネイチャーのこの論文は、2015年のボストンマラソンに参加したアスリートを調査した研究(ハーバード大学医学校のジョスリン糖尿病センターが実施)を基にしています。

この研究では、アスリート15人からマラソン参加前と参加1週間後のタイミングで糞便サンプルを採取しています。そして、全てのサンプルでベイヨネラ属の細菌が増加していることが示されました。科学者たちは、ベイヨネラ属の細菌が、筋肉を動かし続ける能力を向上させる乳酸を代謝すると考えています。また、乳酸の代謝の分解生成物であるプロピオン酸は、糖と脂肪の代謝を助ける物質です(ウィキペディア「プロピオン酸」、英語)。そして、糖と脂肪の代謝によって、筋肉を動かす燃料となるエネルギーが生み出されます。エネルギーの必要量が供給量よりも多くなると、乳酸が増加します。乳酸テストは、スポーツ医学では筋肉のパフォーマンスを計る一般的な方法です。ジョスリン糖尿病センターの研究が新しいのは、乳酸レベルが栄養によって影響を受ける可能性があることを示した点です。

筋肉のパフォーマンスを向上させる研究は日々進展しています

栄養が乳酸レベルに影響を及ぼすという説は、マウスを使った実験で確かめられました。人工的な手段で消化管にベイヨネラ属の細菌を増やされたマウスは、トレッドミル試験で平均13%を上回るパフォーマンスを示しました。このことは、ベイヨネラ属の細菌と筋肉のパフォーマンスの間に直接の関係があることを示唆しています。実験の結果を鑑みれば、ベイヨネラ属の細菌を用いたケアによって、筋肉のパフォーマンスを向上させられる可能性があると言えます。

MyMicrobiomeのウェブサイトでは、これまでに公表されたマウスを用いたさまざまなマイクロバイオーム研究の結果を、人間に当てはめることは難しいと指摘してきました。多くの研究が動物実験の段階に留まっており、また人間と比較可能な試験を行うにはボランティア参加者の数が不足しているため、人間に対してはまだ仮説でしかないからです。

しかし、アスリートのボランティア参加者を対象にしたパフォーマンスを向上させる研究は、大きな成功を収める可能性があります。科学者たちはすでにプロバイオティクスを基礎にしたアスリート向けの食事の研究に取りかかっています。研究の成果は、スポーツ競技の歴史において、最も健康的なドーピングを生み出すはずです。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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