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2019-11-19 11:46
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

エッツィ(アイスマン)のマイクロバイオームは現代人よりも健康

氷河期の人類エッツィ
エッツィの調査 © Südtiroler Archäologiemuseum/EURAC/ Samadelli/Staschitz

氷河から見つかった5000年前の人類エッツィは、これまで科学者たちに様々な過去の研究への窓を開いています。今では、新石器時代の人類であるエッツィが何を着ていて、最後に何を食べたのかも分かっています。犯罪学者はエッツィが逃亡している間に命を失ったことを突き止め、鍼灸師はエッツィの体にある刺青の後から当時は穿刺が一般的な治療法であったのではないかと述べています。したがって、微生物学者がエッツィの消化管を調べ始めるまでに長い時間はかかりませんでした。>>> もっと詳しく

何が健康に良いのですか?

トレント大学の研究チームによる先行研究では、消化管細菌叢の多様性の低さは、アレルギーや肥満、さまざまな自己免疫疾患などの現代病の増加に相関関係があると主張しています。MyMicrobiomeではこの問題について「アメリカに移民するとマイクロバイオームが変化し、肥満になる可能性が高まる」の記事で論じました。

この問題で最も重要なのは、一般的によく見られる細菌であるプレボテラ・コプリです。P・コプリは西洋人ではわずか30%の人しか持っていません。しかし、西洋以外の人々ではほとんどの人で見つかるのです。科学者たちはP・コプリに注目し、この細菌に4種類のいわゆる系統群があることを発見しました。西洋以外の社会では、P・コプリの3~4種類の系統群がマイクロバイオームの細菌群に含まれている一方、西洋人のマイクロバイオームではわずか1種類の系統郡しか存在していないことが分かりました。

遺伝か生活習慣か?

西洋人でP・コプリの種類が少ないことを説明する合理的な理論は二つあります。いずれにせよ、西洋の人々はP・コプリの4つの系統群のうち一つしか持っておらず、現代病に罹りやすい傾向にあります。消化管マイクロバイオームは肌のようなものです。皮ふの色が明るいと、日光に対してより敏感になります。また、これはトレント大学や他の研究機関の仮説ですが、西洋の生活習慣はマイクロバイオームを傷つけ、P・コプリの3種類の系統群を絶滅させたという説もあります。

従って、エッツィは西洋人の過去のマイクロバイオームを詳細に調べるためには理想的な存在なのです(エッツィは5000年前の標準的な西洋人のマイクロバイオームを持つことが統計学的に期待できます)。調査の結果は仮説が正しいことを示しました。エッツィはP・コプリの4種の系統群のうち3種を有していたのです。同系統のP・コプリは、エッツィの同時代人である数千年前のメキシコ人の石化した排泄物からも見つかっています。

過去の方がマイクロバイオームの状態は良かった

以上の研究結果は現代の生活様式について何を述べているのでしょうか?それは、明らかに、アルプスに住んでいたエッツィやメキシコの同時代人(広義の意味での同時代です。系統学では数百年の差はごく僅かです)などの新石器時代の人々は、現代人よりもマイクロバイオームの状況は良かったということです。現代人の医療と技術はとても発展しています。また、私たちはより多くの種類の栄養を摂り、よりよい環境で生活しなければいけないとも考えています。

それでは、現代人のマイクロバイオームの方が健康ではなかった理由は何なのでしょうか?栄養でしょうか?エッツィは乾燥肉を食べていたことが証明されており、これは現代の私たちが「原始人の食事」と呼んでいるものになります。また、メキシコの同時代人も、トウモロコシを主食としたスターチと食物繊維の豊富な食事で生きていた考えられています。従って、栄養だけが理由であるとは考えられません。少なくとも現代では、抗生物質やワクチン、外科手術による医療が非常に発展しています。しかし、数千年前の人々に全く医療知識がなかったと考えるべきではありません(逆に、エッツィの刺青の跡が示す細やかさは驚くべきものです)。おそらく、過去の人々は現代人よりも自然や動物に接触する頻度が多かったのでしょう(土や花粉などのあらゆる自然を含めてです)。そして、それだけでなく、現代では、化学物質や殺菌剤などへの曝露が過去よりもずっと多くなっています。全般的に、現代人の生活は食習慣だけでなく、生活習慣の複数の要因がプレボテラ・コプリに悪い影響を及ぼしていると考えることができます。

エッツィの研究の小さな一歩が、マイクロバイオーム研究の大きな一歩へ

以上の知見は、現代人の生活様式の一つまたは複数の要因が、マイクロバイオームを傷つけ、私たちを病気にしていることを証明しました。何がその要因で、マイクロバイオームを回復させるために何が必要なのかは、現時点では純粋な推測でしかありません。しかし、このこと以上に、アイスマンに関わる発見は非常に重要なのです。というのも、一つの細菌の3~4種類の系統群が私たちの健康に影響を及ぼしていることが分かったからです。この発見は、さまざまなマイクロバイオーム研究の中でも際立っています。プレボテラ・コプリとその系統種は、将来の研究において、細菌の系統種の少なさが及ぼす影響を抑えるために重要な課題となるでしょう。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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