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2020-07-20 10:58
by Lisa Keilhofer
  Last edited:

ミュンヘン工科大学のマイクロバイオーム研究 – 排泄物を病気の指標として使う

排泄物サンプル
排泄物を病気の指標として使う(画像: © JPmotion2D, © BillionPhotos.com – stock.adobe.com)

ミュンヘン工科大学(TUM)は『魅力的な研究』誌(Faszination Forschung)で定期的に研究目標と成果を報告しています。最近の版(2020年2月24号、ドイツ語) の見出しは、本当に読者を興奮させる内容です。「栄養と健康―食物繊維はなぜ健康維持に重要なのか」「マイクロバイオーム―人間の消化管の生態系」、そして「AIは植物育種に革命的な影響を与えるか」などの見出しが並んでいます。これら3つのうち2つがマイクロバイオームに関連した内容で、直接的または間接的に私たちの使命に関係しています。今回の記事では、ディルク・ハラー博士(ドイツ語)のヒト・マイクロバイオームの研究に注目したいと思います。

ハラー博士と研究内容について

ハラー博士ハラー博士の記事では、ヒト・マイクロバイオームについての詳細な説明から始まります。この雑誌のターゲット層の読者が研究者、大学で学んだ人、学生、ミュンヘン工科大学の従業員であることを考えると、アカデミックな世界で学んだ人々であっても、マイクロバイオームに関する一般的な知識はまだ十分に共有されていないことが分かります。日々、マイクロバイオーム研究に取り組んでいる方はこの事実を忘れがちですが、博士の記事の重要なメッセージは「情報を伝えることが今でも重要である」ということです。

ハラー博士はミュンヘン工科大学ヴァイエンシュテファン生命科学センター栄養学・免疫学講座の研究長です。博士はまたドイツ研究振興協会 (DFG)による他分野横断研究 (SFB 1371、マイクロバイオーム署名1371-消化管におけるマイクロバイオームの機能的関連研究(ドイツ語))のスポークスマンでもあります。ハラー博士は栄養学の研究を行う中でマイクロバイオームに興味を持つようになったとインタビューの中で答えています。博士は栄養学の研究をしているときに、消化管の中でプレバイオティクスが人間とどのような相互作用を起こすのかという疑問を抱きました。この時から、消化管の細胞は感染を起こす病原菌だけを取り込むという教義に対する疑問が起こったのです。実際のところ、私たちの消化管に影響を与えるのは、ほとんどが無害な、または有益な細菌なのです。 当時は革命的だった考え方が、2005年以降は新しい技術によってシークエンス解析で検証できるようになっています(この技術が導入されてからまだ15年しか経っていないのです)。

ハラー博士がインタビューの中で「人間の中の魅惑的な宇宙」と表現するマイクロバイオームは、長年の読者の方には今ではよく知られているはずです。数百種の細菌が人間の中で平和に共存し、人間と相互作用しているのです。そして、ハラー博士は傷ついたマイクロバイオームと病気の因果関係について発見しました。博士の最終的なゴールはこれらの知見を病気の診断、予後、治療に役立てることです。

>>> 詳しくは「傷ついたマイクロバイオームが健康に及ぼす影響」の記事をご覧ください。

ヒントは人間の排泄物の中にあります – ですが、どうやって調べるのですか?

人々の生活スタイルが消化管マイクロバイオームに影響を及ぼすのは明らかです。ですが、マイクロバイオームから分かることは常に同じです。マイクロバイオームは指紋のように個々人によって特徴的なのです(これは、排泄物の分析によって誰であるかが明確に特定できるということです)。ここ20年の間、ハラー博士などの科学者は、マイクロバイオームから明確に判定できる病気を特定しようとしてきました。この研究のために、ハラー博士は無菌マウスを開発しました。そのおかげで、現在では実験動物を完全に無菌状態で育てられることができ、個体に特有な消化管細菌の構成によって実験結果が影響を受けることなく研究できるようになっています。

例えば、無菌マウスに何かの疾患を持つマウスの糞便を移植するとしましょう。このマウスが病気になると、マイクロバイオームの細菌構成と病気の因果関係の重要な指標となり、遺伝的要因を除外することができます。また、糞便移植による人間の治療は多くの成功を収めています。例えば、クロストリジウム・ディフィシルによる感染症は、健全なマイクロバイオームを移植することで90%が治療できます。

排泄物のマイクロバイオーム分析はどの病気に役立つのでしょうか?

ハラー博士と世界中の研究者がマイクロバイオームと病気の相互作用について研究を行っています。何が原因で、どんな影響があるのでしょうか?具体的には、認知症、自閉症、肝硬変、大腸がん、クローン病、潰瘍性大腸炎、糖尿病などが対象となります。これらの病気の多くは体のさまざまな部分で発生しますが、マイクロバイオームをより良い状態にすることで、病気の状態を改善することができます。

例えば、2型糖尿病の患者が、消化管の概日リズムが乱れていると診断されたとしましょう。研究の長期的目標は、糖尿病と明確に関連するマイクロバイオームの指標を特定し、予後診断に用いることです。理想的には、まだ漠然としているかもしれませんが、マイクロバイオームを変化させることで、病気になりやすくなる要因を取り除けるようになることです。

ハラー博士たちの研究によって、西洋のライフスタイルと、クローン病、潰瘍性大腸炎や糖尿病のかかりやすさの明確な相関を示されました。また、肥満は上記の病気と類似した炎症マーカーを示します。ハラー博士はこれに関して、システム全体を崩壊させる導火線のようなものだと例えます。このシステムの崩壊はある人々ではクローン病とつながり、他の人々では肥満となるのです。産業化によってもたらされた西洋式の生活スタイルはマイクロバイオームを傷つけ、ある特定の病気に対する免疫を弱めたということができます。

>>> より詳しくは「消化器の疾患とマイクロバイオーム、腸内フローラ」の記事をお読みください。

「毎日出すもの」の重量から健康について多くのことが分かります

排泄物の重量について行った世界的な調査によって、植物質の栄養が少ない先進国では、伝統的に植物質の栄養摂取が多い途上国よりも、排泄物の重量が少ないことが分かりました。ヨーロッパとアフリカを比較すると、例えばウガンダ(470g/日)とスコットランド(72g/日)では、なんと6.5倍も異なります。

この結果はとても単純なものに思えますが、実際に単純なことなのです。マイクロバイオームと病気の関連に関して多くの研究が行われています。また、個人的な要因も考慮する必要があります。ですが、マイクロバイオームが傷つくと、がんに至る病気につながることは明らかです。

ハラー博士は研究の目標について次のように言っています。「20年後に他分野横断研究(SFB 1371, DFG)が終わったのち、私たちは次の疑問に答えられるようになるでしょう。どの病気においてマイクロバイオームが重要な役割を果たしていて、どの病気ではそうでないのか。マイクロバイオームが重要な役割を果たさない病気では、何が大きな役割を果たすのか」という疑問にです。

クリスティン・ノイマン博士, 著者
クリスティン・ノイマン博士
著者

みなさん、こんにちは。微生物学者のクリスティン・ノイマンです。生命の仕組みに興味があり、分子生物学を学びました。…

ファビアン・ガイヤー, 特別寄稿者
ファビアン・ガイヤー
特別寄稿者

ファビアン・ガイヤー氏から素晴らしい特別寄稿を頂きました。
ガイヤー氏はBIOMES社コミュニケーション・チームの一員です。BIOMES社はベルリンを拠点とするバイオ企業で、一般と専門家向けのマイクロバイオーム解析を専門としています。
ガイヤー氏は熟練の「翻訳者」として、人間と細菌の仲を取り持ちます。人間と細菌の関係は長年大きく誤解されていました。

リサ・カイルホーファー, 著者
リサ・カイルホーファー
著者

レーゲンスブルク大学で学びました。
多言語化業務に携わり、フリーランスの編集者としても活躍しています。

キャラ・コーラー
キャラ・コーラー
著者

シカゴのデポール大学とドイツのバンベルク大学で学位を取得し、現在博士号取得候補者となっています。
また、フリーランスの独英翻訳者、英独コピーエディターとしても活躍しています。

インゲ・リンドセット
インゲ・リンドセット
登録栄養士

オスロ大学のインゲ・リンドセットは登録栄養士で、専門分野は糖尿病と肥満、運動療法です。エクササイズの効果を最大限に高めたり、スポーツで最高のパフォーマンスを上げるための研究を行っています。
インゲ・リンドセットについて(ノルウェー語)

マリア・ペトロヴァ博士
マリア・ペトロヴァ博士
寄稿著者

マリア博士はヒトマイクロバイオームの分野で世界的に著名な研究者です。泌尿生殖器の細菌叢とプロバイオティクスを研究しています。ベルギーのルーベン・カトリック大学とアントワープ大学で乳酸桿菌と病原菌・ウイルスの分子相互作用を研究し、博士号を取得しました。博士の大きな業績は、ポスドクフェローのときに行った乳酸桿菌の遺伝的、分子的、機能的特性の研究です。この研究によって、膣内環境下での乳酸桿菌の働きについて素晴らしい知見を得ました。
マリア・ペトロヴァ博士について(英語)

ヨハンナ・ギルブロ博士
ヨハンナ・ギルブロ博士
寄稿著者

ヨハンナ・ギルブロ博士は受賞歴のある皮ふの専門家で、ベストセラーとなった『Skin We’re In』の著者です。
博士は実験皮ふ病学、臨床研究、そしてスキンケア製品開発の分野で15年以上の経験を持っています。また、製薬企業での長い経験を持っています。皮ふ科とコスメティクスの国際会議では、最先端の研究について頻繁に講演を行っています。また、「International Journal of Cosmetic Science」誌で過去10年の間に最も多く引用された研究者でもあります。博士はアンチエイジング成分で複数の特許を取得しており、スキンケア企業でアンチエイジング治療の研究・開発マネージャーを務めています。ギルブロ博士がスキンケア分野のエキスパートであることは言うまでもありません。『Skin We’re In』の執筆が示すように、現在は私たちのような一般人に知識を伝えることを使命としています。
2019年4月の出版の以来、『Skin We’re In』は主要な販売店でベストセラーとなっています。現在、スウェーデン語版のみが刊行されています。
https://www.skinomeproject.com

ディミトリ・アレクセーエフ博士
ディミトリ・アレクセーエフ博士
寄稿著者

ディミトリ・アレクセーエフ博士は消化管マイクロバイオーム、分子生物学、バイオインフォティクス、栄養学分野の優れた研究者です。基礎研究の臨床への応用に情熱的に取り組んでいます。Atlas Biomedグループでの主な役割は、社内外の科学プロジェクトを発展させることです。博士が携わっているプロジェクトは、栄養や神経変性疾患、炎症やがんに対するマイクロバイオームの応用、英国医薬品・医療製品規制庁の承認など多岐にわたります。Atlas Biomedグループでの統合的な役割に加え、ディミトリ博士は現在サンクトペテルブルクITMO大学で助教授を務め、健康のためのアルゴリズム開発を行っています。今後、博士はオランダのフローニンゲン大学医療センター(UMCG)に移り、老化研究に携わることになっています。
ディミトリ博士について(英語)

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